『時間がかかる』を品よく言い換えると? メールや論文、ビジネス文書に!|プロの語彙力

『時間がかかる』を品よく言い換えると? メールや論文、ビジネス文書に!|プロの語彙力

今回は『時間がかかる』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。

目次

1.『時間がかかる』——万能だが抽象に傾きやすい説明語

『時間がかかる』という言葉に頼ることで、語りは厚みを欠き、遅延の背景は掴みきれないまま、伝わる力も薄れてしまう。

こうした“同じ言葉への依存”が浮かび上がる用例を確認してみたい。

口ぐせで使われがちな例

  • この議題は時間がかかるので、次回に回しましょう。
  • 資料の作成には時間がかかるため、提出を延ばしてください。
  • 契約条件の調整には時間がかかると先方から伝えられました。
  • 会議での合意形成には時間がかかると感じられる場面がありました。
  • 納期対応の進め方に時間がかかるため、信頼を損ねかねません。

用例を並べると、無意識の口ぐせが主導権を握り、伝え方の幅が狭まっていたことが見えてくる。

次章で文脈ごとの品位ある言い換えを紹介する。

2.『時間がかかる』を品よく言い換える表現集

ここからは『時間がかかる』を9つのニュアンスに整理し、文脈ごとの適切な言い換えを提示する。

2-1. 基本の言い換え客観的に時間の必要性を伝える

  • 時間を要する
    • 最も基本的で汎用性が高い。事実説明に適する。
      • 例:データの復旧には時間を要する見込みです。
  • 一定の期間が必要
    • 「時間を要する」を柔らかく言い換えた表現。計画説明に適する。
      • 例:運用体制が整うまでには一定の期間が必要です。
  • 工数を要する
    • IT・製造業で限定的に使用される硬質な専門語。
      • 例:システム移行には相当の工数を要すると試算されています。

2-2. すぐにはできない場面短期対応を断る表現

  • 短期間での対応は難しい
    • 最も直接的でビジネス文書に適する。期限調整の場面で頻用。
      • 例:新制度導入の短期間での対応は難しいと判断しております。
  • 一朝一夕にはいかない
    • 慣用句的でやや文学的。努力や積み重ねを要する場面に適する。
      • 例:信頼関係の構築は一朝一夕にはいかないものです。
  • 段階的な対応が必要
    • プロセスを踏む必要性を示す。柔らかい断りにも使える。
      • 例:規制改定への適応には段階的な対応が必要とされております。
  • 即座の対応は困難
    • 硬質で公的寄り。緊急依頼を断る場面で限定的に使用。
      • 例:現場からの要望に即座の対応は困難と回答しました。

2-3. 関係者・手順が多い場面複雑な調整を説明

  • 調整事項が多い
    • 関係者間の調整が必要な場面で自然。ビジネス頻出。
      • 例:本件は調整事項が多いため、早めに着手いたします。
  • 関係者間の調整に時間を要します
    • 調整対象を明示し、現実的な課題を説明。
      • 例:部門を跨(また)ぐプロジェクトは関係者間の調整に時間を要します
  • 手順が煩雑である
    • 作業手順が入り組んでいることを示す。ややネガティブ。
      • 例:手順が煩雑であるため、申請から承認まで数日かかります。
  • 複雑な調整を伴う
    • 調整プロセスの難しさを強調。限定的に使用。
      • 例:国際的な契約交渉は複雑な調整を伴うと説明されております。

2-4. 慎重・精度重視品質確保のために時間が必要

  • 慎重な検討が必要
    • 最も自然で安心感のある表現。意思決定前の説明に適する。
      • 例:今後の提携方針については、経営会議で慎重な検討が必要です。
  • 精査に時間を要する
    • 硬質で知的。データや契約内容の確認に適する。
      • 例:添付資料の精査に時間を要するため、回答までお待ちください。
  • 十分な精度確認が必要
    • 品質理由を明確化。技術文書や監査文脈で自然。
      • 例:本対応には十分な精度確認が必要です。
  • 入念な準備が必要
    • 準備段階での時間投資を説明。前向きなニュアンスを含む。
      • 例:展示会の成功には、半年前からの入念な準備が必要です。
  • 検証に相応の期間を要します
    • 客観性と必要性を強調する硬質な表現。技術検証に適する。
      • 例:新システムの安定性検証に相応の期間を要します
  • 吟味を重ねる必要がございます
    • 文語寄りで知的。審査や採否の場面に限定的に使用。
      • 例:デザイン案の採否については、吟味を重ねる必要がございます

2-5. 遅延の報告・説明進捗状況を伝える

  • 想定より時間を要している
    • ソフトな遅延説明。責任転嫁感が少ない。
      • 例:新システムの導入は想定より時間を要している状況です。
  • 進捗が遅れております
    • 報告文脈で頻出。謝罪や説明に適する。
      • 例:開発プロジェクトは進捗が遅れております

2-6. 期限延長を依頼する猶予を求める場面

  • 猶予をいただきたい
    • 期限延長を依頼する場面で最も自然。柔らかい響き。
      • 例:報告書提出については猶予をいただきたいとお願いしております。
  • 猶予を賜(たま)りたく存じます
    • 格式高く儀礼的。重要顧客や公的文書で限定的に使用。
      • 例:誠に恐縮ながら、提出期限につき猶予を賜りたく存じます

2-7. 丁寧に時間を求める顧客・上司への説明

  • お時間をいただく
    • 顧客や上司への依頼で最も自然な定型表現。柔らかく丁寧に響く。
      • 例:詳細な見積もり作成にはお時間をいただく必要がございます。
  • お時間をいただきたく存じます
    • より儀礼的で硬質。正式文書や重要顧客向けに適する。
      • 例:契約条件の精査にお時間をいただきたく存じます
  • お時間を頂戴しております
    • 「要する」系との重複を避けた丁寧表現。進行中の説明に適する。
      • 例:現在、確認にお時間を頂戴しております

2-8. じっくり取り組むことを伝える前向きな姿勢を示す

  • 時間をかけて取り組む必要がある
    • 品質や成果を重視する姿勢を示す。前向きな説明。
      • 例:長期的な成果を見据えると、制度改定には時間をかけて取り組む必要があるでしょう。
  • 丹念に時間をかける
    • 細部まで丁寧に作業する姿勢を表す。品質やクラフトマンシップを強調する場面に適する。
      • 例:本製品は職人が丹念に時間をかけて仕上げております。
  • 腰を据えて取り組む
    • 慣用的で姿勢を強調。やや硬質だがポジティブ。
      • 例:この課題には、チーム一丸となって腰を据えて取り組む所存です。

2-9. 時間と労力がかかる人的負担を説明

  • 時間を割く
    • 能動的に時間を配分するニュアンス。業務計画や優先順位の説明に適する。
      • 例:新規顧客対応に十分な時間を割く必要がございます。
  • リソースを要する
    • 経営・管理視点で使用される硬質な表現。人員や資金など幅広い資源を含意する。
      • 例:大規模なシステム更新には、相応のリソースを要することが明らかです。
  • 相応の労力が必要
    • 人的負荷を強調する表現。やや限定的だが、努力や体力面を説明する際に有効。
      • 例:複雑な調査には相応の労力が必要と見込まれます。

3.まとめ:『時間がかかる』の表現を磨き、説明の厚みを高める

『時間がかかる』という一語に頼りすぎれば、理由や状況の具体性が薄れ、説明の厚みが損なわれる。

文脈に応じて品位ある言い換えを選べば、意図が鮮明になり、理解の広がりが生まれる。

言葉の精度が説明の芯を強め、組織の対話を支えることを改めて意識したい。

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