内発的動機づけを高める方法とは? カギは努力の娯楽化と有能感

 内発的動機づけ アンダーマイニング効果 エンハンシング効果
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内発的動機づけとは、何ら報酬や罰が与えられるわけでもないのに、内面から湧き起こる欲求に駆り立てられ、行動が動機づけられることをいう。

その内面の欲求には、自らの選択で主体的に行動したいという「自律性」能力を発揮したい、役に立っていたいという「有能感」、他者とのつながりという「関係性」の3つがあるという。

また、内発的動機づけの対極には、報酬や評価、強制、懲罰などによって行動が動機づけられる外発的動機づけがある。

目次

内発的動機づけとは?

「動機づけ」なる言葉はもはや日常語の一つだ。

とりわけ、職場や学校などでは、働く人や学生たちをいかに動機づけるかは主要なトピックとなっている。

広辞苑によれば、動機づけとは「人間や動物を行動へ駆り立てること」を指し、外発的動機づけ内発的動機づけの2つがあるという。

そして本記事では内発的動機づけを取り上げる。

内発的動機づけがブランド構築にどう関わるのかを考察してみたい。

まずは内発的動機づけとはいったい何か? 

対概念でもある外発的動機づけと比較しながら見ていこう。

内発的動機づけとは、何ら報酬や罰が与えられるわけでもないのに、内面から湧き起こる欲求に駆り立てられ、行動が動機づけられることをいう。

子どもが動植物の図鑑を夢中で読む

たとえば子どもが動植物の図鑑を夢中になって読んでいるとしよう。

別に強制されたわけでも、そうすることでご褒美がもらえるわけでもない。

純粋に求知心に駆りたてられ、そのこと自体が楽しく、得られる喜びや満足も大きいと感じている。

そんな状態なら内発的動機づけが働いているといえる。

大人にだってあるだろう。

なんら得することもないのに、ひたすら知識を増やしたり、スキルを磨いたりする。

内面から向上心や成長意欲がふつふつと湧いてくるのだ。

努力することがいっこうに苦にならない。

一橋大学ビジネススクール教授の楠木建氏は、そうした状態を努力の「娯楽化」と呼ぶ(テンミニッツTV 2017.11.16)

そこから本物のプロ余人をもって代えがたい人が生まれるのだという。

一般に内発的動機づけは、内面で累々と湧き起こるため、その動機づけに際限がない

しかも長期スパンで続く。

楽しさからあれこれ創意工夫をする意欲が湧き、思わぬ創造性が発揮されることもある。

外発的動機づけとは?

この内発的動機づけと対照的なのが、外発的動機づけである。

外発的動機づけ

こちらは報酬や評価、強制、懲罰など外部からの働きかけによって行動が動機づけられることをいう。

収入やもらえるお小遣いを増やすために、仕事や勉強に励むというのがその典型だ。

ただし、報酬は金銭的なものとは限らない。

たとえばいい成績をとって褒めてもらうために勉強するといった「心理的な報酬」も外発的動機づけの要因となる。

他にも、勉強しないと叱責されるから、悪い成績をとると恥ずかしいからといった「回避型目標」に向けて行動が動機づけられることもあるだろう。

いずれにせよ、何らかの外圧がかかって行動が駆り立てられるのが外発的動機づけとなる。

外発的動機づけの一番のメリットは、短期間で効果が得られやすいことにある。

その醸成に時間がかかる内発的動機づけとは対照的だ。

目標に向かうようアメとムチを上手に使い分けることで速やかに行動を誘発できる。

しかし、一方でデメリットもある。

その動機づけが往々にして長くは続かないのだ。

目標が達成されると、動機づけが急に萎えてしまう。

たとえば、難関大学に合格したあと急に勉強しなくなるといった現象がそれにあたるだろう。

さらにアメとムチに耐性が生じることもある。

最初は効果的に思えても、いったん馴(な)れてれてしまうと、その効き目が漸減してしまう。

「アンダーマイニング効果」とは?

さらに外発的動機づけにはもう一つ致命的な危うさがある。

タイミングを間違えると内発的動機づけを薄めてしまうのだ。

ある行動に対し、人が徐々に楽しさや面白みを感じていたとしよう。

内発的動機づけが働き始めた段階だ。

このとき、外発的動機づけを下手に与えてしまうと、芽生えつつあった内面の意欲をそいでしまうことになりかねない。

これが心理学で「アンダーマイニング効果」といわれるものである。

ウィキペディアによれば、「アンダーマイニング効果」とは内発的動機づけによる行動に対し、報酬を与えるなどの外発的動機づけを行うことによって、モチベーション(やる気)が低減することをいう。

アンダーマイニング効果 

たとえば、外からの働きかけがなくても勉強している子どもに報酬を与えたことで内発的動機づけが低下してしまう。

報酬がもらえないと勉強する気になれなくなってしまうのだ。

一時的に売り上げアップが期待できるからと値引きを繰り返しているうちにブランドイメージが棄損されることがある。

その現象も「アンダーマイニング効果」で説明ができる。

ブランドを気に入って買っていた消費者であっても、自分は値引きが動機となってブランドを買っているのだと錯覚してしまうのだ。

意外な嫌がらせの撃退法

内発的動機づけの概念を提唱した米国の心理学者のエドワード・L・デシが著書の中で、「アンダーマイニング効果」に関するこんな寓話を披露している(全国国公私立大学の事件情報 2004.6.10)

洋服店を開いたユダヤ人を追い出そうと、街の不良たちが店先で「ユダヤ人、ユダヤ人」と大声でやじり始めた。

困ったユダヤ人の店主は、わざわざ店先までやじりにくる努力に報い、全員に10セント硬貨を渡す。

不良たちは喜び、10セントもらえることを期待して次の日もやじりにやって来る。

しかし、今度は5セントしか渡さなかった。そしてその次の日は「これが精一杯だ」と1セントを渡す。

たった3日間で報酬が10分の1に減ったことに不満をあらわにし、それ以来やじりに来ることはなくなったという。

ユダヤ人を追い出そうと不良たちは躍起になっていたはずだった。

巧みに外発的動機づけを与えることで、その自発的な意欲をそいでしまった店主の作戦勝ちだといえよう。

この「アンダーマイニング効果」を防ぐためには、内発的動機づけと外発的動機づけを段階的に使い分けるのが鉄則だ。

アンダーマイニング効果 バトンパス

陸上競技のリレーのように、タイムリーなバトンパスが決め手となる。

仕事でも勉強でも人にやる気を起こさせようとするなら、即効性のある外発的動機づけでまずは行動のきっかけをつくる。

その後、行動から得られる楽しさに気づいてもらい、徐々に内発的動機づけを醸成していく。

「エンハンシング効果」とは?

このことに紐づくのが、心理学でいう「エンハンシング効果」である。

外発的動機づけが呼び水となって、内発的動機づけが高まることをいう。

褒める エンハンシング効果

褒めることがその典型らしい。

最初は褒めらえるのが嬉してくて仕事や勉強をしていたが、その後、その楽しさや面白みに気づき、内面から意欲が湧いてくるようになる。

ただし、「マインドセット やればできるの研究」の著者、キャロル・S・ドゥエックによれば、その褒め方にコツがあるようだ。

ドゥエックが行った子どもに図形パズルを解かせる実験では、その正解率に対し、Aグループには才能や頭のよさを褒め、Bグループには努力や行動を褒める。

そして次に新たな2種類のパズルを用意して好きなほうを選ばせる。

2種類のパズルは難易度が異なっていた。

すると、頭のよさを褒められたAグループは簡単なパズルを、努力を褒められたBグループはより難しいパズルを選ぶ傾向にあったという。

実験を行ったドゥエックは、頭のよさを褒められると、その自負から失敗を恐れるようになるという。

一方で努力を褒められると、さらに努力をしようという気概が生まれる。

ちょっとした褒め方の違いが、その後の内発的動機づけに影響を与えるのだ。

内発的動機づけとマーケティング

ここまで内発的動機づけを外発的動機づけと比較の上で見てきた。

ではこのモチベーション心理学の知見をマーケターはどう実務に生かせるだろう?

ベストのシナリオはこうだ。

外発的動機づけをきっかけに、まずは消費者にブランドを使い始めてもらう。

やがてブランドを使うことに喜びを見いだすようになる。

いよいよ内発的動機づけが働き始め、ブランドを使い続ける意欲が湧いてくるのだ。

より安価なブランドや機能的に目先の異なるブランドが発売されても、容易にブランドスイッチは起こらないだろう。

割引き

外発的動機づけに訴えるのはマーケターにとってはもはや常套手段といえる。

新ブランドの発売時やリニューアル時に、値引きやクーポン、ポイント付与など金銭的な報酬を消費に与えることは広く行われている。

他にも広告キャンペーンでブランドの機能的便益を知らしめるのも有効だ。

直面するどんな問題を解決できるのか、安心できる、自慢できるなどの心理的な報酬も含めてイメージさせるだ。

消費者に具体的なゴールを思い描かせ、その達成に向けて外発的動機づけを高める。

受験生が希望校を目指し、合格するために勉強に励むのと同じ構図に持ち込む。

外発的動機づけは即効性も期待でき、さらに金銭的な報酬が伴うのであれば、たとえ消費者を十把一絡げに扱ったとしてもある程度は行動促進が可能だろう。

マーケターの思案のしどころは内発的動機づけにシフトする段階である。

「アンダーマイニング効果」を抑えつつ、ブランドを使い続けることに喜びや満足を見いだしてもらうのだ。

これがなかなか難しい。

さすがに十把一絡げとはいかず、消費者の内面の興味や関心、価値観まで踏み込んで照準を絞る必要がある。

内発的動機づけを高める方法 カギは3つの欲求

前述した内発的動機づけの提唱者、エドワード・L・デシによれば、内発的動機づけを促進する要因として以下の3つの欲求があるという。

3つの欲求が満たされる状況に置かれたとき、人は自分がとった行動に楽しさや面白みを見いだし、内発的動機づけが働きやすくなるというのだ(マイナビウーマン 2022. 2.18)

  • 自律性(autonomy):自らの選択で主体的に行動したい欲求
  • 有能感(competence):「能力を発揮できている」「役に立っている」と感じることへの欲求
  • 関係性(relatedness):尊重・信頼し合える他者とのつながりの欲求

ではここから、内発的動機づけの促進要因となる3つの欲求を消費者行動と絡めながら紐解いていこう。

欲求1:自律性(autonomy)

これはちょうど経済産業省の研究会が指摘する「自律的消費」にあてはまるだろう。

自らのこだわりを追求し、消費をコントロールしているという実感が持てる消費をいう。

そういった商品を探し出して消費する、あるいは自らつくることに喜びを見いだし、内発的動機づけが自ずと高まるのだ。

その筆頭はオーダーメイドやカスタムメイド、ハンドメイドによってとことんこだわりを満たすといった消費だろう。

さらに、フリマアプリやショッピング機能のあるSNSなどCtoC(個人間取引)プラットフォームの活用もある。

自分のこだわりに合った商品を発掘するのに役立つ。

また、「Makuake(マクアケ)」などクラウドファンディング(CF)応援購入をするのも「自律的消費」を楽しむ上では選択肢の一つといえる。

欲求2:有能感(competence)

自分は有能な人間だと実感できる消費がここでは求められる。

ポイントは消費するのに適度な難易度が伴うことだ。

難易度が高すぎると不安や無力感が募る。

一方、易しすぎても退屈なだけで有能感を実感するどころではなくなる。

挑戦しがいのある適度な難易度が有能感につながるのだ。

段階的に難易度が上がるゲームコンテンツがその典型といえる。

他にもハイアマチュア向けの一眼レフカメラや、ダイレクトな操作感を味わえるマニュアル車などもあてはまる。

商品ジャンルによっては、実はこの「有能感」が隠れた差別化の要因になっていることもある。

欲求3:関係性(relatedness)

消費が豊かな人間関係を築く一助となる。もはや普遍的なことだ。

そこに内発的動機づけが伴うのはごく自然だろう。

通信サービスや住宅、旅行・レジャー、外食サービスなどの各企業は人と人とのつながりをサポートするのを生業(なりわい)にしている。

昨今はソロキャンプやツーリング、個室サウナなど1人の時間を楽しむことが前提の消費スタイルも広がっている。

しかし、それでもSNSや愛好家が集うサイトを経由し、ユーザーたちはその体験を共有し合うことを怠らない。

いわゆる「ソロ消費」といっても、関係性の火は消えず、内発的動機づけの機会が極端に減ることはなさそうだ。

以上の3つの欲求がまんべんなく満たされないと内発的動機づけが生まれないわけではない。

しかし、自社ブランドの構築において、何が課題か、何が足りないかを考える枠組みとしてマーケターには有益だろう。

3つの欲求とスズキ・ジムニー

この3つの欲求を満たし、内発的動機づけを高めているブランドにはスズキ・ジムニーがあるだろう。

本ブログでも過去に取り上げている。

まずは軽自動車で四輪駆動という唯一無二の存在であることが、自律的な消費につながる。

大勢に迎合しない、こだわりのある選択を実感できるのだ。

本格的なオフローダーで上級クラスにもひけをとらない悪路走破性を備えており、「有能感」も十分に味わえる。

林業の現場や降雪地域で使うプロフェショナルユーザーから支持されていることも、その感覚を後押しするだろう。

また、「関係性」の点では、ジムニストとも呼ばれるコアなファンたちとSNS上でつながり合える。

メジャーな車種ではないゆえの、ユーザー同士の一体感が持てるのだ。

気づく人は気づくというスペックのディテールもSNS上で盛り上がる格好のネタとなる。

メイク・イット・ファン・ストラティジー

「ポケモンGO」でウォーキングが続く

しかし、ジムニーのように趣味性の強いクルマであれば、もはや内発的動機づけが運命づけられているともいえる。

マーケターの力量が問われるのは、本来はあまり気のすすまない行動や活動に対しても、内発的動機づけが働くようにすることだ。

これに関しては「科学的に証明された自分を動かす方法」(東洋経済新報社、2023年)が参考になる。

退屈な活動や難しい活動を内発的動機づけが湧く活動に変える方法が紹介されている。

ポケモンGO

その最たる例が街中を歩いて遊ぶスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」だ。

多くの人が毎日楽しくウォーキングを続けるきっかけとなった。

モチベーション心理学の研究者たちは「メイク・イット・ファン(楽しくする)・ストラティジー」と呼んでいるらしい。

女性専用のフィットネスクラブの「カーブス」

もう一つ例を挙げれば、女性専用のフィットネスクラブの「カーブス」があるだろう。

主に50歳以上のシニア女性をターゲットにしているが、1回たった30分の気軽なフィットネスプログラムが人気を得ている。

そこに親身に寄り添う女性インストラクターの存在が加わる。

さらに同世代の女性会員同士で仲良くなれるのだ。

コミュニケーションをする場になり得ることが運動を続ける内発的動機づけを生んでいる。

健康増進型保険「Vitality」

また、住友生命の健康増進型保険「Vitality」もその例の一つだろう。

保険の加入者には健康増進への取組みによってポイントが付与される。

運動や健康診断など、その取組みの多寡に応じて獲得した累計ポイントでステータスが決まり、「保険料の割引」や多彩な「特典(リワード)」が利用できるようになるのだ。

たとえば、1週間サイクルで設定される運動目標を達成すれば、スターバックスやローソン、ファミリーマートで指定のドリンクと交換できるチケットがもらえたりする。

先に触れたエンハンシング効果によって内発的動機づけのとっかかりをつくっているのだ。

「うんこ漢字ドリル」&「キュキュット」

大がかりなしくみが伴わなくとも、ちょっとした発想の転換で内発的動機づけを高めている例もある。

小学生向けの学習ドリルとしては異例の大ヒットとなった「うんこ漢字ドリル」がその一つだ。

すべての例文に「うんこ」の単語を使い、漢字を楽しく覚えられるようにしている。

花王の台所用洗剤「キュキュット」も元をたどればそうだろう。

同社の公式サイトには「1度洗いで、汚れ落ちを指先と音で“キュキュッ”と実感! テキパキと楽しく前向きな食器洗いを実現するブランド」とある。

「ポッキー」や「ガリガリ君」などと同様、オノマトペ(擬声語、擬態語)によるストレートなネーミングで食器洗いの楽しさに意識が向かうようにしたのだ。

内発的動機づけの枠組みをヒントに

今回は内発的動機づけを取り上げ、その概念がどうブランド構築に関わるのかを考察した。

ブランドを継続的に使ってもらおうと思えば、やはり内発的動機づけの醸成は不可欠だろう。

ブランドを使うこと自体に喜びを見いだしてもらうのだ。

そのためにも、影響要因となる「自律性」「有能感」「関係性」の3つに検討を加えてみたい。

また、「アンダーマイニング効果」のリスクを踏まえつつではあるが、外発的動機づけとのへ併用も一考だろう。

その醸成には根気がいるが、内発的動機づけの枠組み自体は示唆に富む。

ブランド構築に携さわるマーケターなら頭の片隅で入れて置いてもいいだろう。

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