創業は1907年の老舗中の老舗テーラー、銀座山形屋。
全国の主要都市に24のオーダースーツ専門店(2024.11時点)を展開し、その長い歴史に裏打ちされた仕立ての技術でユーザーから熱い支持を集める。
価格は意外にもリーズナブルで、税込4万円台から仕立てられるという。
とりわけ評価が高いのがスーツのフィット感と着心地だ。
銀座山形屋も他店と同様、コストと納期を抑えるためにスーツの設計図となる型紙は予め用意されたものを使う。
しかし、その数が198パターンと圧倒的に多い。
高度に細分化されているのだ。
それゆえ、1人ひとりの体型に合った、バランスがよい、美しいシルエットに仕上がるような型紙が必ず見つかるという。
選んだ型紙には肩や腰周りなどの体型補正を加えることができるが、補正の自由度も他店よりずっと高い。
そこに高い採寸技術と提案力を備えた店舗スタッフ、直営工場の縫製技術も加わり、「スーツが身体にスッと馴染む」などと口コミで賞賛されるほど高い満足度につながっている。
本記事では店舗への来訪からスーツの受け取りまでの8つのステップを解説し、銀座山形屋の魅力や他店にはないこだわりを解き明かしていく。
銀座山形屋とは?
伝統と革新の融合。
それは多くの老舗ブランドが取り組む永遠のテーマであるが、その融合に果敢に挑むオーダースーツブランドがある。
銀座山形屋だ。
創業は1907年、117年もの歴史を刻む老舗中の老舗テーラー。
全国主要都市に24のオーダースーツ専門店を展開する(2024.11時点)。
いつまでも変わらない「不易(ふえき)」と変化していく「流行」が並走する「不易流行」のブランドと言い換えてもいい。
銀座山形屋の公式ブランドサイト(以下、公式サイト)には「モノ造りへの真摯な姿勢は変わらず、匠の技に一貫してこだわり続けてきた」とある。
いわゆる「職人気質」全開のブランドなのだろう。
しかし、その一方で常に時代のトレンドも敏感に取り入れる。
たとえば、伝統的なブリティッシュスタイルを基調としつつも、そこに細身でシャープな現代的シルエットを織り込んだクラシック・モダンのスタイルをいち早く提案したのも銀座山形屋だ。
サイトの新着情報をのぞくと、最新のトレンドを押さえた生地はもちろんのこと、機能的な素材でワークスタイルの多様化に対応したスーツ、環境に配慮した素材や生産工程を意識したサステナブルスーツなどが告知されている。
銀座山形屋がいかに新機軸に貪欲かがうかがえるだろう。
受け継がれてきた伝統と時代が求めるスタイル。
その両方を兼ね備えることが銀座山形屋の信条といえる。
口コミやレビューの評価は?
ここで銀座山形屋のネット上の口コミやレビューを見ておこう。
SNSの投稿やGoogleマップのレビュー(星数評価とコメント)など口コミは数限りないが、総合的に見てかなりの高評価といえる。
また、オーダースーツのリピーターの投稿が多いのも同ブランドの特徴の1つだ。
評価のポイントも多岐に渡るが、俯瞰(ふかん)的にみれば「1.スタッフの接客」「2.生地のとりそろえ」「3.フィット感と着心地」「4.価格/コストパフォーマンス」の4つに集約される。
1.スタッフの接客
全体の評価を押し上げているのはまぎれもなく店舗スタッフの接客だろう。
知識の豊富さや丁寧な対応などその評価は総じて高い。
店舗ごとのレビューにはスタッフへの感謝の念が吐露されていること多い。
スタッフや接客術のどんな局面が評価の対象となるのか、主だった3つを取り上げておこう。
・知識の豊富さ
スーツの生地、デザイン、体型への合わせ方など、スタッフの知識が豊富で、自分に合ったスーツ選びを的確にサポートしてくれるという実感が伴うようだ。
「スタッフの知識が半端ない」と賞賛する口コミもある。
・丁寧な対応
さらに1人ひとりに丁寧に対応し、じっくりと相談に乗ってくれる。
初めてスーツをオーダーする人でも安心して頼れる。
そんな声が多く聞かれる。
オーダースーツの知識や経験を積んだスタッフだと、かえって顧客が委縮してしまって何となく逆らえなくなることもある。
しかし、銀座山形屋に限ってはそれはあてはまらないようだ。
あくまでフラットに、和やかに対話ができるようスタッフたちが気を配っているのだろう。
・的を射た提案力
1人ひとりの好みや体型を考慮し、最適な生地やデザインを数ある選択肢の中から提案してくれる。
その提案力の満足度も高い。
オーダースーツは「サイズさえ合えばいい」というものではない。
それは分かっていても、自分に合うスーツとは何なのか、そのニーズが曖昧模糊(もこ)としている人も多いのも事実だ。
それでも銀座山形屋のスタッフたちは対話を重ねながら潜在的なニーズや好みを巧みに引き出す。
それゆえ納得のいく提案が行えるのだ。
その以心伝心ぶりを絶賛する投稿も多い。
2.生地の取りそろえ
生地の取りそろえの豊富さも銀座山形屋の評価ポイントの1つだろう。
公式サイトには国内の優良生地のほか、ゼニアやロロ・ピアーナ、カノニコなど海外の有名インポートブランド生地まで幅広く扱っているとあるが、その強みがユーザーにも伝わっているようだ。
自分好みの生地を見つけやすいとの評判を得ている。
銀座山形屋では店舗にスーツ一着分の大きさの生地見本が置いてあり、実際に触って質感や風合い、光沢感などを比較できる。
おそらくそのビビッドな感触が印象に残り、生地の取りそろえの満足度を高めているのだろう。
3.フィット感と着心地
フィット感の高さと着心地のよさに言及する口コミは多く、かなりの高評価といっていい。
「オーダーなら当然じゃないの?」との声も聞こえてきそうだが、実はフィット感と着心地はオーダースーツのブランド間でもけっこうな差が出る領域だ。
フィッターによる採寸時のきめ細かさだけではない。
人の身体のラインや動きを考慮した型紙(スーツの設計図)の精度や工場の縫製技術などもスーツの快適さに関わっている。
それらのベストミックスが銀座山形屋では実現されているのだろう。
そのことが「身体に心地よくフィットする」「着心地が抜群!」「もう既製のスーツには戻れない」という口コミに象徴されている。
4.価格/コストパフォーマンス
比較的リーズナブルな価格帯から、高価格帯の生地まで幅広いラインナップが揃っており、予算に合わせて選べるという。
たとえ下のランクの価格帯でも品質の高さが担保されており、「価格以上の価値がある」「コスパがよい」といった声も多く上がる。
しかし、その一方でインポートの高級生地など魅力的な選択肢が目に入るため、予算内に収めるのが難しいとの声も少なからず上がっている。
高級な生地はやはり見栄えがよい。
希少な原毛が使用され、高い染色技術と相まって繊細や奥深さが伝わってくるのだ。
スタッフから勧められれば食指が動くのも自然な心理だろう。
強引なアップセル(より高いものを勧める)を受けることはないだろうが、生地の取りそろえの妙で、価格の高い、上のランクに引っ張られてしまうのかもしれない。
オーダーの流れ
ではこれほどの口コミ評価はどこから来るのか?
それを深掘りするために、オーダーの流れ(注文から受け取りまで)に沿って銀座山形屋の特徴や強みに迫ってみよう。
銀座山形屋でのオーダーは以下の8つのステップを踏むことになる。
- 1.カウンセリング
- 2.生地を選ぶ
- 3.モデルを選ぶ
- 4.採寸
- 5.ディティールを選ぶ
- 6.裏地・ボタンを選ぶ
- 7.縫製
- 8.フィッティング・完成
なお、店舗に足を運ぶ際にはWEBか電話による事前予約が推奨されている。
ただし、完全予約制というわけではないようだ。
1.カウンセリング
銀座山形屋のオーダーはカウンセリングから始まる。
顧客とスタッフが仕立てるスーツのイメージを共有するステップである。
公式サイトには「お客様とのコミュニケーションの中でご要望やお好みをお伺いします。」とある。
スーツの用途や着用シーン、スーツを着た際に人に与えたい印象、既製スーツの不満点や気になる点などを一通りヒアリングされる。
時には普段の服装の好みや平日1日のスケジュールなど、オーダースーツには直接関係のないことにも質問が飛ぶようだ。
質問の範囲を広げることで隠れたニーズが見つかることがあるからだろう。
顧客も自分で考え、自分の言葉で答えを返すことによって、スーツに求めていたものを段々と掴めるようになる。
このカウンセリング・セッションで得られた情報はこの後のステップで生地やディティールを選ぶ際に生かされることになる。
スタッフの提案力の源なのだ。
また、スタッフは顧客が話すこと1つひとつに共感し、話しやすい雰囲気づくりにも長けている。
そのことがスタッフたちの対応が丁寧で親切との口コミ評価を生んでいる。
折角ならカウンセリングでは時間を惜しまず、スタッフと積極的に対話を重ねるのがいいだろう。
雑談するぐらいの気持ちで臨むのがちょうどいいかもしれない。
それがやがて自分だけの唯一無二の一着に跳ね返ってくる。
2.生地を選ぶ
・生地選びは難所の1つ
生地選びはオーダースーツの醍醐味でもあり、難所でもある。
銀座山形屋では国内の優良生地から、有名インポートのブランド生地まで豊富な取りそろえがあり、迷うこと必須だろう。
さらにそこに銀座山形屋が生地ブランドや生地メーカーと共同開発したオリジナル生地も加わる。
こちらもその企画性と希少性ゆえ相当な人気のようだ。
もはや見れば見るほど目移りしてしまいそうだが、その一方で予算の枠内には収めたい。
他のブランドであれば、生地のラインアップが価格帯別にきっちり分類されており、価格を意識しながら生地を見繕えるところもある。
しかし、銀座山形屋ではそうはいかない。
あくまでブランドや産地から生地を選ぶことになる。
・スタッフが生地選びをサポート
しかし、実はあまり心配は要らない。
このステップでは既にカウンセリングを終えており、顧客がスーツに求めるものが既にスタッフに伝わっているからだ。
予算内で最適な生地に顧客が辿りつけるよう様々なアドバイスをしてくれるだろう。
こだわりそうなポイントを先読みし、複数の生地を比較しながら、利点をわかりやすく示してくれる。
たとえば、耐久性や通気性、保温性など生地ごとの特性を端的に説明し、最終的に顧客が自ら納得のいく選択ができるように導いてくれるのだ。
綾織、平織など生地の織り方の違いなども見た目の印象のみならず、実は着用する季節やシーンとも深い関係がある。
そんな隠れたキーポイントにスタッフの説明が及べば、顧客にとっては新たな発見となり、今後の生地選びにも生かせるだろう。
スタッフへの信頼感が一段上がる瞬間といっていい。
・機能性生地も充実
銀座山形屋というと老舗ブランドゆえ、上質なウール素材の本格スーツというイメージがあるかもしれない。
しかし、実は機能性に優れた生地のラインアップも充実している。
リモートワークなど働き方が多様化し、ビジカジ(カジュアルな要素を取り入れたビジネスウェア)などドレスコードが緩和されたことが背景にはあるのだろう。
さらに昨今は繊維技術の進歩によって「見た目の美しさ」と「機能性」を両立する生地も多く登場している。
銀座山形屋も機を見るに敏。
軽量性やストレッチ性、撥水(はっすい)性、防シワ性などを兼ね備えた生地の取りそろえに余念がない。
昨今人気のウォッシャブル(家庭用洗濯機で水洗い可)タイプの扱いもあるようだ。
しかし、それでいて品格があって“きちんと見え”が担保されるのも銀座山形屋流といえよう。
・生地は反物で用意
さらに銀座山形屋の店舗では300種類を越える生地を一着分の大きさに相当する「反物(たんもの)」で用意しているという。
これは顧客にとってかなりのメリットとなる。
ハンチブック(生地の見本帳)でも直に触って風合いや質感は確かめられるが、反物ほどの大きさがあれば肩にかけることができる。
照明の下での色の見え方や、顔との馴染み具合をより正確に把握できるのだ。
さらに生地が身体に沿ってどのように落ちるのか、ドレープ感も確認できる。
出来上がりのシルエットをイメージする大きな助けとなるだろう。
ハンチブックでそこまでの確認は到底難しい。
3.モデルを選ぶ
・4つのスーツモデル
選んだ生地を使ってどんなスタイルのスーツを仕立てるか?
それが3つめのステップだ。
既製スーツなら完成形を見てパッと決められるが、オーダースーツは想像力に頼らないといけない。
その助けとなるために、銀座山形屋ではスーツスタイルの雛形となる「スタイルモデル」を4つほど用意している。
ここでいうスタイルとは主にスーツのフィット感やシェイプ(ウエストの絞り具合や肩幅のラインなど)、襟やポケットのデザインなどが組み合わさって醸し出される全体の印象をいう。
その4つのスタイルモデルは以下の通りである。
- サヴィルロウ・ドレープモデル
- 立体的で重厚なバストボリュームを持つ銀座山形屋のハウスモデル。
- ニューブリティッシュモデル
- 力強さを感じさせる英国テイストのモデル。カッチリした肩ラインと絞り込まれたウエストラインが特徴。
- ニュートラッドモデル
- 絞りの少ないボックスシルエットを特徴とするモデル。根強いドラッドファンの要望から生まれたという。
- イタリアンクラシックモデル
- イタリアらしい流麗なラインが魅力のモデル。全体にコンパクトで丸いラインと軽い着用感が特徴。
ただし、スタイルモデルはあくまで出発点であり、テンプレートに過ぎない。
ここから自分の体型や好みとも照らし合わせて詳細を詰めていく。
この後のステップ、「採寸」や「ディテール選び」にも大きく関わってくるのだ。
4つのモデルについては公式サイトに詳細な説明があり、店舗に足を運ぶ前に予習をしておくといいだろう。
・ユーティリティスーツモデル
定番の4つのモデル以外に、リモートワークやビジカジの広がりなどに伴い新たに開発されたモデルがある。
それがユーティリティスーツモデルだ。
軽くて柔らかくリラックス感と着心地のよさを兼ね備えたモデルで、芯地(スーツの骨格となる補強材)やパット裏地がなく羽織るような感覚で着用できるという。
いわゆる「アンコン仕立て」といえる(アンコンはunconstructed/非構築的の意)。
ビジカジはもちろん、休日シーンでもスニーカーなどに合わせて着回せるスタイルとなる。
4.採寸
・ゲージサンプルによる採寸
4番目のステップは採寸となる。
最初に肩幅、胸囲、ウエストなど基本的な身体のサイズをスタッフが丁寧に測定する。
スタッフはその採寸データをもとに最適な「ゲージサンプル(見本服)」を選んでくれる。
顧客はそのサンプルを着用し、そこから詳細な採寸が始まるのだ。
ゲージサンプルとは出来上がりの寸法を決める基準となる見本服のことで、「ゲージ(gauge)」には測定の基準や尺度の意味がある。
銀座山形屋には様々なサイズ、シルエット、デザインのゲージサンプルが置いてあり、実際に袖を通してみるとサンプルとは思えないほどフィット感がある。
しかし、プロの目を通せば、実際の体型との微妙なずれがたちまち見つかるのだ。
また、顧客にとっても着用感やデザインのイメージが具体的に摑めるのは大きなメリットだろう。
皮膚感覚も手伝って「このあたりがちょっと」という風に違和感のあるところを伝えることもできる。
・オーダースーツの今昔
昔ながらのオーダースーツといえば顧客1人ひとりの身体をきめ細かく採寸し、体型にぴったり合った型紙(パターン)を書き起こす。
そのパターンに沿って裁断し、仮縫いを行う。
それを顧客が試着し、フィット感やデザイン面の細やかな調整を行う。
型紙に立ち戻って修正が加わることも珍しくない。
そして最終的な縫製を手縫いで行う。
ひと時代前のオーダースーツといえばそんな手間を惜しまない工程が主流だったのだ。
これがいわゆるハンドメイドのフルオーダーで、今でも裕福なビジネスパーソンには根強い人気がある。
一方、昨今人気を集めるリーズナブルな価格のオーダースーツは同じオーダーでも様相がずいぶんと異なる。
大胆なほど手間が省かれ、大量生産される既製スーツと実は大きく変わらない工程となるのだ。
型紙といえば、複数の最大公約数的な型紙が予め用意されていて、顧客専用のものをいちいち書き起こしたりはしない。
その型紙に着丈や袖丈、胴回り、肩幅などほどほどの調整を加え顧客の寸法に近づけていく。
この方法は一般にパターンオーダーと称され、補正の度合いがきめ細くなれば、イージーオーダーとなる。
戸建て住宅でいえば、注文住宅と建売住宅の中間の位置にある規格住宅(セミオーダー住宅)だろう。
注文住宅のように一から自由に設計できないが、建売住宅よりは間取りなどそこそこの自由度が担保され、それでいて価格も抑えられる。
昨今人気のオーダースーツも大半がそんな位置づけにあるのだ。
・銀座山形屋→198パターン
では銀座山形屋はどうなのだろう?
結論から言えば銀座山形屋でも予め用意された型紙を使う。
しかし、ここがライバルブランドに対する大きな優位性なのだが、その用意されている型紙の数が圧倒的に多いのだ。
以下、公式サイトから引用しておこう(「パターン」は型紙の意)。
パターンオーダーでは7体型(痩身体~肥満体)×7サイズ(身長160cm~190cm)の49パターンが一般的ですが、当ブランドのパターン数は198。
貴方にとってのベストな型紙が必ずあります。
それゆえ、銀座山形屋には自分の体型によりフィットした型紙が既に(頼んでもいないのに)用意されていると考えていい。
自分の肩幅や胸の厚み、胴回りなら全体のシルエットを美しく見せるのにどんな型紙がいいのか?
その最適解に効率よく辿りつけるのだ。
さらに銀座山形屋なら「細やかな体型補整」が行える。
他のブランドであれば、もともとの型紙に補正をかけるにしても、手間やコストを抑えるため、着丈や袖丈、裾丈などいわゆる「縦の調整」に限られることが多い。
しかし、銀座山形屋では身体のラインに沿った自然なシルエットや着心地のよさが実現できるよう、肩幅や胴回り、ウエストなど「横の調整」も可能となる。
銀座山形屋ならではの高度に細分化された型紙と細やかな体型補整。
どの型紙を選ぶか、どこまで体型補正を施すか、その判断にはスタッフの採寸技術が大きく関わる。
スタッフの洞察を含んだ採寸データこそが、銀座山形屋の工程上の強みと最良のフィット感と着心地の蝶番(ちょうづかい)的な役割を果たすのだ。
フィット感や着心地に関する口コミでの高い評価もここから来ている。
5.ディティールを選ぶ
5番目のステップはスーツのディテール選びとなる。
スーツのジャケットであれば、衿やポケット、袖口、ベント(背中の裾部分に入る縦の切れ込み)などのデザインを、パンツであれば脇ポケットや後ろポケットの形状を決めていく。
ディテールとはいえスーツ全体の印象を左右するので侮れない。
着こなし方や着用シーン、選んだ生地とのバランスを考慮に入れながら選ぶことになる。
ただし、この段階では「カウンセリング」「生地やモデル選び」「採寸」まで既に済んでおり、スーツの出来上がりイメージもほぼ固まっている。
選択肢は自ずと絞られるだろう。
襟なら「ノッチドラペル」、ポケットなら「フラップポケット(蓋付きポケット)」というようにそれぞれのパーツごとにもっとも標準的な選択肢というのがある。
汎用的なデザインで着用シーンも広がるため、初心者ならそれらを無難に選んでおくのもいい。
少し個性的なデザインに仕上げたいという希望があれば、その旨をスタッフに伝え、パーツごとに適宜アドバイスをしてもらおう。
6.裏地・ボタンを選ぶ
ディテール選びを終えたら、続けて裏地とボタンを選ぶ。
銀座山形屋では裏地とボタンともに選択肢が豊富だ。
公式サイトには裏地やボタンは「スパイス的な存在」とある。
衿やポケットのデザインなどディテール選びで無難な選択肢にとどめたのなら、ここで少し遊びごころを足してもいいかもしれない。
柄入り裏地やカラーボタンなど他のブランドなら有料のところを、銀座山形屋なら追加料金がかからないことが多いのもうれしいサービスだ。
7.縫製
縫製も銀座山形屋の大きな特徴の1つだ。
「Made in Japan」にこだわり、国内の直営工場で丁寧に縫製される。
他のブランドのように外部の協力工場に委託するわけではない。
しかも100年を超える歴史の中で独自の縫製技術を磨いてきている。
公式サイトには「『国内直営工場』で『熟練の職人』が『最短2週間』でお仕立て」とあるが、オーダーしてから出来上がりまで「最短2週間」という短納期は直営工場ゆえのなせる技なのだろう(ただし、通常の納期は3~4週間)。
なお、銀座山形屋では縫製の仕方が以下の3つのクラスに分かれている。
選ぶクラスによって同じ生地でも価格が変わり、いわば「松・竹・梅」といったところだろう。
- スタンダードオーダー
- べ―シックな縫製クラス。手作業を一切行わず、すべての工程を機械によって行う100%マシンメイド。高い精度と均一性が担保されている。
- ベーシックな縫製ながら、ここまで説明してきたスタイルモデルや型紙、ディテールなどの選択が制限されることはない。オーダーする愉しさは十分に堪能できるだろう。
- 納期:約3週間から4週間(別途、急ぎ対応可)
- カスタムオーダー
- オリジナルの上質芯材など付属材料やディテールにこだわったひとランク上の縫製クラス。
- 100%マシンメイドながら、アイロンワークやボタンの手付けなどところどころハンドメイドの技法を取り入れ、立体的で繊細な縫製を施す。
- 納期:約3週間から4週間(別途、急ぎ対応可)
- ロイヤルカスタムオーダー
- 全325工程の内、約60%をハンドメイド(手仕上げ)、残り40%をマシンメイドとするセミハンド縫製クラス。
- 主要箇所は手縫いとし、職人技法のアイロンワークを施し、軽い着用感と立体感あふれるフォルムを実現するという。
- 銀座山形屋ではフルハンドの技法とマシンメイドのスピードを融合させたこの縫製クラスが今後はオーダースーツの主流となるとみている。
- 納期:約5週間~6週間
ユーザーは以上の3つの縫製クラスから選ぶことになる。
縫製クラスがランク分けされ、そこから任意に選べるブランドはかなり珍しい。
どれを選ぶかは予算とスーツへのこだわり、許容できる納期次第となる。
納期はスタンダードとカスタムオーダーについては「お急ぎ納期」というサービスもあるようだ。
3つのクラスが並ぶと人の心理としてつい真ん中を選びたくなる。
しかし、この後に触れるが価格にかなりの開きがあるのだ。
ここはいったん冷静になろう。
スーツの用途や着用シーンや着用頻度などを勘案し、スタッフと相談しながら決めるといい。
8.フィッティング・完成
出来上がったスーツは店舗での受け取りとなる。
他のブランドであれば郵送してくれるところもあるが、銀座山形屋では一度試着してもらうことを基本としているそうだ。
着用感が想定していたイメージと違うことがまれにあるためらしい。
このことも銀座山形屋流のこだわりなのだろう。
なぜ価格表がないのか?
・銀座山形屋のスーツの値段
ここまで銀座山形屋の口コミ評価やオーダーの流れを辿りながら、その特徴や強みを探ってきた。
最後にスーツの値段について触れておこう。
いったい銀座山形屋のスーツはいくらぐらいするのか?
昨今はお手ごろ価格、価格の明瞭さを訴えるブランドが林立するが、銀座山形屋の価格帯はややわかりにくい。
公式サイトにはエントリー価格が48,400円(2014.11時点)との提示は随所にあるものの、あくまで下限の価格であり、その価格で買う人が主流ではないだろう。
中心価格が7万円以上との報道記事もある。
公式サイトには他のブランドによくある生地ごとの価格が一覧で確認できるようなページはない。
・価格表がない理由は?
おそらく、選ぶ生地によって価格にかなりの幅があるのと、そこに選ぶ縫製クラス(スタンダード、カスタムなど)による価格差も加わるため、わかりやすく一覧表示するのが難しいのだろう。
しかも、銀座山形屋の方針として、服地バイヤーが最新トレンドを加味しながら仕入れる生地を厳選している。
取りそろえや価格がシーズンごとに目まぐるしく変わる。
人気の生地は入荷するとあっという間に完売となることもあるようだ。
そんな事情も価格の一覧提示を難しくしている。
そういうことであれば実は、価格表がないのは銀座山形屋の強みの裏返しなのかもしれない。
いずれにせよ、実際に店舗に足を運び、スタッフの対話の中で価格を知るのが通例と考えたほうがいい。
・縫製クラス別のエントリー価格
公式サイトには以下のように縫製クラス別のエントリー価格(もっとも下のランクの価格)の掲載はある。
同じ生地でも縫製クラスによって価格に開きがあることが見てとれよう(価格は2024.10時点)。
- スタンダードオーダー: 48,400(税込)円~
- カスタムオーダー: 60,500(税込)円~
- ロイヤルカスタムオーダー: 88,000(税込)円~
なお、前述した4つのスタイルモデルのうち、銀座山形屋のハウスモデル「サヴィルロウ・ドレープモデル」にはスタンダードオーダーはなく、カスタムオーダーからとなる。
シーズンごとにリリースされるカタログはサイト上でも閲覧できるが、フィーチャーされている生地の価格は10万円は下らない。
20万円近いものも掲載されている。
コストパフォーマンスは高いとはいえ、それなりの価格となり、やはり銀座山形屋はひとランク上のオーダースーツブランドといえそうだ。
・初心者はエントリー価格で
オーダースーツが初めてという人なら、生地の種類は限られるがスタンダードオーダーで48,400(税込)円というエントリー価格をまず試すのがいいだろう(「サヴィルロウ・ドレープモデル」には48,400円の縫製クラスはない)。
あるいは5万円台でオーダーできる機能素材を使ったユーティリティスーツという選択肢もある。
下限ランクの価格で試して自分にスーツのオーダーが必要かどうかをいったん見極めてみるのだ。
オーダースーツといえば「既製スーツでは得られない満足感」「自分だけのオリジナルの一着」という言葉が躍る。
しかし、もともと既製スーツは多くの人の体型に合うように「最大公約数的なサイズ」でつくられており、既製でもサイズがぴったり合う人もいる。
実際にオーダーで仕立てたものをしばらく着用してみて、オーダーするだけの価値があるか、わざわざオーダーしなくともいいのか、その着用感が答えを出してくれるだろう。
それを学ぶだけならエントリー価格で十分なはずだ。
伝統と革新のブランド
今回の記事では銀座山形屋の魅力とこだわりについてオーダーの流れに沿う形で詳述した。
トレンドやニーズに即した豊富な生地の取りそろえ、スタッフの「寄り添い力」「提案力」、快適なフィット感と着心地を実現する型紙の豊富さと細やかな体型補正、そして直営工場の縫製技術。
いずれも銀座山形屋の長い歴史の中でも培われた技術とノウハウが反映されている。
割安感や手軽さだけを打ち出すオーダースーツブランドとは一線を画しているのは明らかである。
オーダーでスーツを仕立てた経験がある人もない人も一度は試す価値のあるブランドであることは間違いないようだ。