デジタルネイティブ世代に向けたオーダースーツブランド「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」。
スマホからオーダーできる手軽さと1着38,000円(税込)からの手の届きやすい価格でデジタルネイティブ世代から圧倒的な支持を集める。
オンラインストアが主軸だが、採寸拠点として全国主要都市にリアル店舗も構える。
中間流通を排し、生地メーカーや縫製工場と直接やりとりするスタイルを貫き、コストを抑えたほか、ターゲットファーストの生地の取りそろえや短納期(2~4週間)も実現。
顧客1人ひとりのサイズや体型データはすべてデジタル化され、定評のあるフィット感と着心地にはそれら蓄積データの分析が生かされているという。
オーダー初心者をコンスタントに惹きつけ、その一方でリピーターも同時に増やす。
その熱い支持の背景にはどんなからくりがあるのか?
ユーザーの評判分析を交えつつ、本記事ではFABRIC TOKYOならではの利点、とりわけオーダー初心者にもたらす利点とその背後のビジネスモデルにも迫ってみたい。
FABRIC TOKYOとデジタルネイティブ世代
FABRIC TOKYOとは?
デジタルネイティブ世代に向けたオーダースーツブランド。
今回取り上げるFABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)をひと言で言い当てるならそんなフレーズがぴったりだろう。
母体企業の創業は2012年。
2014年にはスーツがオーダーできるオンラインストアを起ち上げ、オーダースーツを若い世代の身近にぐっと引き寄せた。
今でこそ、手ごろな価格のオーダースーツが市民権を得ているが、FABRIC TOKYOはその走りとなったブランドの1つ。
2010年代の前半といえばオーダースーツは百貨店や個人経営の老舗テーラーがまだまだ主流で、価格も10万円は下らない。
若い世代には高嶺の花だったのだ。
そんな中、FABRIC TOKYOから3万円台のオーダースーツがお目見えする。
しかも画期的だったのが、ネットからスーツがオーダーできることだった。
デジタルネイティブ世代
デジタルネイティブ世代といえば、一般的には1990年代以降に生まれた世代。
その年長組は今や30代後半に突入。
生まれたときからデジタル機器が身近にあり、スマホといえば身体の一部のように使いこなし、新しいアプリやガジェットにも抵抗がない。
検索が得意でネットやSNSから必要な情報を短時間で探し出す。
FABRIC TOKYOはそんな世代に伴走する。徹頭徹尾にだ。
数あるオーダースーツのブランドの中で、これほどターゲティングが明確なブランドはほかにないだろう。
FABRIC TOKYOはそのコンセプトに「Fit Your Life」(サイズだけでなく生き方や価値観にフィットする、自分らしいビジネスウェアの提供)を掲げる。
それが可能なのも、FABRIC TOKYOが万人向けではなく、デジタルネイティブ世代に照準を絞ったからだろう。
FABRIC TOKYOの躍進
会社紹介資料によれば、FABRIC TOKYOの売上高は過去8年間で30倍になり、年間リピート率(初めて商品を購入した顧客が、1年以内に2回以上購入した割合)は44.5%に達する。
業界水準が30%程度のため、驚異的なリピート率の高さといえる。
ターゲットのニーズを汲み取り、それを巧みに満たしてきたゆえの躍進だろう。
口コミ・レビューの評価は?
ではFABRIC TOKYOは顧客からどんな評価を得ているのか?
ネット上に数多(あまた)ある口コミやレビューを見てみよう。
特徴的なのがスーツを初めてオーダーしたという人たちの投稿が圧倒的に多いことだ。
オーダースーツのエントリーブランド。
そんなブランドのポジションを固めていることがうかがえる。
評価のほこ先は多岐に渡るが、大括りにとらえれば以下の4つが挙げられる。
スマホで手軽にオーダー
まずは大きな評価ポイントとして、スマホで手軽にオーダーできることがあるだろう。
オンラインストアを運営するFABRIC TOKYOの真骨頂ではあるが、やはりその利便性は高く評価されている。
採寸で一度は店舗に行く必要はあるものの、それ以外はほぼスマホ1つで完結する。
オーダースーツというジャンルで、欲しいものが簡単に調べられ、すぐに注文できることがよほど新鮮なのだろう。
とあるユーザーの「採寸→生地選び(スマホ)→注文、支払い(スマホ)という新しい感覚。」とのコメントがまさにそのことを言い当てている。
オーダースーツ史上初となるネット専業企業の真価が発揮されているといえよう。
手ごろな価格/コスパの高さ
価格面の満足度もかなり高い。
FABRIC TOKYOは1着38,000円からオーダーできると盛んに告知しており、手の届きやすい価格がユーザーを惹きつけていることは間違いないようだ。
とりわけ、オーダー初心者にとっては「既製スーツと変わらない価格」でオーダーできることが衝撃をもって受け止められている。
一方でコスパの高さを指摘する声も多い。
価格の手ごろさは確かに魅力とはいえ、品質に目をつぶることはしない。
そんな人たちに選ばれているのがうかがえる。
「この価格でここまでの品質には驚きました」との書き込みがその象徴だろう。
店舗スタッフの説明力
オンラインストアが主軸のFABRIC TOKYOだが、関東・関⻄・名古屋・福岡に10のリアル店舗も構えている(2024.11時点)。
その店舗に常駐するスタッフの評価がかなり高いのだ。
とりわけ、その説明力。
店舗ごとのレビューには「わかりやすい」の言葉がここかしこで目につく。
たとえばスーツ生地なら、スーツの着用シーンや好みのシルエットなどをヒアリングした上で、生地の選び方のポイントをわかりやすく示す。
見た目ではわかりにくい生地の特徴などにも説明が及ぶようだ。
候補となる生地がどう自分に合うのか、そのメリット・デメリットが端的につかめ、最終的に顧客が自ら選べるようになる。
その納得感が「わかりやすさ」なのだろう。
FABRIC TOKYOの店舗はショールーム的な利用も多く、必ずしもその場で購入するわけではない。
しかし、スタッフからの接客を通して、スーツへの理解が着実に進むのだ。
特にオーダー初心者にとってはスタッフの存在は心強い。
レビューというより謝意の様相を呈した書き込みも少なくない。
採寸技術
そして、いい意味で期待が裏切られるのがスタッフが発揮する採寸技術だ。
FABRIC TOKYOの場合、オーダーの大半がスマホ上で済ませられるため、店舗を採寸目的のみで利用する人も多い。
そんな顧客の多くは足りないピースを埋めるぐらいの気持ちで採寸に臨むのだ。
ところが片手間にやり過ごすはずだった時間は大化けする。
精度の高い採寸に加え、体型の特徴を巧みに捉えたスタッフの洞察がその場で共有される。
気づいていなかったことが次々に明るみになり、自分が一体どんな体型なのか、既製スーツではどこがフィットしないのか、改めて知る機会となるのだ。
「自分の知らなかった体型の癖も一発で理解してくれてとても充実した時間だった」とのコメントがあったが、スタッフの採寸技術の高さにもはや完落ちしてしまったのだろう。
フィット感と着心地
オーダースーツといえば自ずと期待されることにフィット感と着心地がある。
その点でもFABRIC TOKYOの満足度は高い。
とりわけ、身体にスッとなじみ、体型がすっきりと見える。
それでいて窮屈さを感じない。
そんな満足感が吐露されるコメントは数多い。
FABRIC TOKYOが若い世代が好むスタイリッシュで細身のシルエットに長けていることをうかがわせる。
さらに、動きやすく、長時間着ていても疲れにくいとの評価も得ている。
ストレッチ素材を多く扱っていることも影響しているのだろう。
いずれにせよ、アクティブな人たちにFABRIC TOKYOは好まれているようだ。
ただし、オーダー初心者の書き込みが多いことを勘案すると、あくまで既製スーツとの比較の上での満足感なのだろう。
初のオーダーゆえのご祝儀相場的な評価が加わるのかもしれない。
オーダー上級者が思わず絶賛するような、生地や仕立ての上質さから来る快適さとはちょっと違うようにも思える。
とはいえスタッフたちの的を射た説明とも相まって、スーツの仕上がりへの納得度は相当高い。
以上、口コミやレビューから見える評価のポイントを5つほど挙げた。
FABRIC TOKYOの客層は20~30代を中心としつつも、今や40代にまで広がっている。
口コミやレビューの投稿が必ずしもデジタルネイティブ世代によるものとは限らないだろう。
しかし、ネットショッピングになんら抵抗がなく、コスパやタイパを重視する同世代の特質に呼応する点が評価されていることは確かなようだ。
FABRIC TOKYOの6つの特徴
ではFABRIC TOKYOはどんな特徴やこだわりを持つブランドなのだろう?
紳士服量販店や大手アパレルなど、オーダースーツブランドの選択肢が増える中、FABRIC TOKYOはどう差別化して、デジタルネイティブ世代の心をとらえているのだろう?
前述の口コミやレビューとやや重なる部分もあるが、ここからはFABRIC TOKYOの特徴を6つほど挙げてみたい。
初めてスーツをオーダーする人にも参考となるよう、できるだけ他のブランドにはないFABRIC TOKYOならではの利点に焦点を当てていこう。
特徴1.シンプルなオーダーフロー
まずはFABRIC TOKYOならではの特徴に、スーツをオーダーしようと思い立ってから手元に届くまでの流れがとてもシンプルなことがあるだろう。
FABRIC TOKYO自身も「SMART ORDER いつでも、どこからでも スマホでオーダーメイド」を盛んにうたっている。
その流れは以下の4ステップとなる。
- 測る(MEASUREMENT)
- 選ぶ(DESIGN)
- 注文する(ORDER)
- 届く(ARRIVAL)
オーダーが初めての人であっても直感的にその全容がつかめるであろう。
・測る(MEASUREMENT)
FABRIC TOKYOのオーダーは店舗で採寸してもらい、そのサイズをサイトに登録することから始まる。
すなわち店舗はFABRIC TOKYOが「カラダID」と呼ぶサイズデータを登録する拠点なのだ。
一度登録すると、2着目以降は店舗に足を運ばずともオンラインストアで全て完結できるようになる。
・選ぶ(DESIGN)
次のステップは生地やデザイン選び。
このプロセスをFABRIC TOKYOは英語で「DESIGN」と呼ぶ。
300種類以上の生地から、あるいはラペル(襟)やボタン、ポケット、裏地などの様々なオプションから自分に合った選択肢を選ぶプロセスはたしかにデザインといっていいだろう。
・注文する(ORDER)
注文はスマホからいつでも、どこでもできる。
店舗に行ってもその場で買う必要はなく、ちょっとしたスキマ時間に「ポチッ」とできるのだ。
そして一度オーダーすると選んだ生地やデザインも含めてオーダー履歴がサイトに記録され、2着目以降の購入時に参照できるようになる。
スーツは年間にそう何回も購入するアイテムではない。
前回のオーダーの記憶が薄ぼんやりとしたころに再購入の機会がやってくるため、この履歴データは意外に重宝することになる。
・届く(ARRIVAL)
注文後、約4週間でスーツが配送されてくる。
かつては店舗での受け取りも可能だったが、配送のみの受け取りに一本化されたようだ。
仮に受け取った後に着心地やサイズ面に問題があれば、スーツの到着から50日間以内であれば無料でサイズ直しを受けつけてくれる。
しばらく着用してからサイズの違和感に気づくこともある。
それゆえ50日ものバッファーがあるのはありがたい。
なお、4週間より短い納期を希望するなら、対象生地は限られるが「EXPRESS PASS(約2週間)」という有料オプションも用意されている。
以上がオーダーの4ステップだ。
オーダーするたびに店舗に足を運び、その一角を陣取って採寸やら生地選びやらで何時間も費やす必要はない。
濃密な接客に辟易(へきえき)させられることがないのだ。
このシンプルさはタイパ(タイムパフォーマンス)を重視するデジタルネイティブ世代には抗えない魅力の1つだろう。
特徴2.サイトのインターフェイス
スマホからのぞいた時のサイトの見やすさ、使いやすさはFABRIC TOKYOに一日の長があるといっていい。
他のブランドでもスマホからオーダーできるところはいくつかあるが、直感的な操作性では頭一つ抜けている。
とはいえ決して特異なわけではない。
普段使うショッピングサイトと動作体験がよく似ていて、初めてアクセスしたとしても迷うことがないのだ。
すっきりとしたデザインで、情報量が抑えられ、目的の情報にすぐにたどり着ける。
ボタンやリンクの位置も計算されているのだろう。
指が自然に届く。
商品一覧や詳細ページのスクロールなど、スワイプ操作も実にスムーズだ。
FABRIC TOKYOでは300種類以上の生地を扱うが、色や柄、価格帯など、生地の様々な属性別に自在に絞り込めるようになっている。
特に価格帯別に生地を閲覧できるのはいい。
上位ランクの生地に目移りするのが抑えられ、きっちり予算内に収めたい人にはうってつけの機能だろう。
ほかにもシーズン、着用シーン、機能性など「なるほど、そういう切り口もあったか!」と思えるような属性でも生地を絞り込める。
こうしたサイトのインターフェイスも手伝って、オーダーに慣れていない顧客も自ら能動的に選べるようになるのだ。
他のブランドでもスマホからサイトを閲覧できることはできる。
しかし、結局は予習レベルにとどまり、店舗に行ってスタッフの“おすすめ”頼みとなることも多いのだ。
ネットショッピングがあたりまえの世代とってはFABRIC TOKYOに分があることは言うまでもない。
特徴3.フィット感と着心地の追求
フィット感と着心地への高い評価は口コミやレビューの通りだが、実はその実現に向けてFABRIC TOKYOはひとかたならぬ取り組みを続けてきている。
そのポイントは2つある。
1つは200パターンに及ぶ型紙(スーツの設計図)で、もう1つは細やかな体型補正だ。
・200パターンに及ぶ型紙
既製スーツでもオーダースーツでも、スーツには設計図となる「型紙」が必要となる。
生地を無駄なく裁断したり、縫い代の位置を決めたりするガイドラインの役割を果たす。
既製スーツの場合は平均的なサイズや体型に合わせて型紙が予めいくつか用意されており、それを使いまわすからこそ効率的な大量生産がかなうようになる。
Y体(細身)、A体(標準)、AB体(やや大きめ)といった体型のパターンに聞き覚えもある人もいるだろう。
既製スーツではその体型ごとに型紙が用意されるが、その分類自体はとてもざっくりとしている。
着用する側にとってはせいぜい「当たらずも遠からず」といったところだろう。
通常のカジュアルウェアであればそれで十分だが、スーツとなるとその体型分類のおおまかさが致命傷になることもある。
だらしない印象を与えたり、余計なシワが入ったりとシルエットがビシッと決まらなくなるのだ。
見た目だけではなく、着心地にも跳ね返ってくることもある。
一方、昨今人気のお手ごろ価格のオーダースーツはどうか?
その型紙の数が格段に増え、より細やかな分類となる。
無数にあるであろう人々の体型の癖(例:肩の傾斜や背中のカーブなど)をいくつかの代表的な体型にパターン化し、それぞれの体型に対応する型紙が用意されるのだ。
そのため、効率的なマス・カスタマイズ(高い生産性を維持した特注対応)が可能となる。
そして、この型紙の類型化の精度や細やかさにオーダースーツの各ブランドはしのぎを削っているのだ。
FABRIC TOKYOの公式サイトには「蓄積された10万人以上のサイズデータの分析をもとに最適なサイズを提案」とあり、型紙の数は200パターンに及ぶという。
どんな体型の人でも身体にスッと馴染み、しかも美しいシルエットとなるよう最適化された型紙が(あたかも自分専用に特注したかのように)用意されるのだ。
その実現のために、やはり200パターンという数は必須だったのだろう。
・体型補正の自由度
そして実はオーダースーツのフィット感や着心地は細やかな型紙だけで達成されるわけではない。
そこに体型補正が加わる。
既製スーツでもパンツの裾上げや裾直しは定番だろう。
その補正がジャケットの着丈や袖丈に及ぶこともあるし、ごくまれだが肩幅や身幅を詰める場合もある。
一方でオーダースーツはより細やかな体型補正が可能となる。
多くの場合、工場のコンピュータ制御によって元の型紙に修正が加えられるのだ。
しかし、どこまで補正が効くかはブランドによってかなり違う。
オーダースーツと銘打っていても、実は着丈や袖丈、パンツ丈など縦のラインの補正にとどまるブランドも少なくない。
FABRIC TOKYOはここでも優位性を発揮する。
肩幅やウエストなど横のラインも含め、柔軟な体型補正に対応できるという。
がっちり体型や筋肉質、高身長といった人だけではない。
傍(はた)からは標準体型に見える人でも細かな部分で体型に悩みを抱えていることもある。
それがスーツのフィット感や着心地を妨げていることも多いのだ。
そんな人たちにFABRIC TOKYOは補正の自由度を担保して寄り添ってきたのである。
特徴4.売らない店舗
オンラインストアに軸足をおくFABRIC TOKYOでは、店舗の位置づけが他のブランドとはかなり異なる。
「売らない店舗」と称されることも多いが、いわば後方支援に徹したサテライト拠点といっていい。
オーダーする側にとってはあくまで採寸データ(カラダID)の登録のサポートを得るための場所、あるいは直に生地サンプルに触って色味や風合いを確認する場所となる。
決済は店舗でも行えるが、それは選択肢の1つで基本はオンラインストアでの決済となる。
自宅に帰ってちょっと頭を冷やし、じっくり検討し直してもいい。
そして、この売らない店舗で注目すべきは常駐する店舗スタッフの存在だ。
スーツを売らんかなではない。
目線が高く、顧客の長期スパンのスーツライフを見据えた総合的なアドバイスを行う。
採寸で体型の癖を細かく把握し、普段のライフスタイルや服装の好み、スーツの着用シーンなどを聞き取った上で、「顧客がどうスーツと向き合えばいいのか?」
そんな大所高所の視点から顧客(とりわけオーダー初心者)に必要な知恵を授けるのだ。
たとえば、オンラインストアからスーツの生地やシルエットを選ぼうとする際、自分なりの基準が自然に頭に浮かぶようにする。
あるいは襟やボタン、ポケットなどのオプションを選ぶのにも、どこまで「遊び」を持たせていいのか、自ずと判断できるようになる。
あくまで選ぶ主体はそのスーツを着用する本人なのだ。
スタッフから“おすすめ”などと耳ざわりのいい言葉で選択肢が強要されることはない。
たとえるなら店舗スタッフはゴルフでいうキャディのような存在なのだろう。
キャディはプレイヤーに最適なクラブを選んだり、ライン読みをこなしたりして、パフォーマンスを下支えするが、まさにそんな役割に徹しているのがFABRIC TOKYOのスタッフたちなのである。
特徴5.ターゲットファーストの生地の取りそろえ
FABRIC TOKYOでは300種類以上の生地を扱うが、その取りそろえもFABRIC TOKYO流である。
いいものならすべて扱うというのではない。
ターゲットニーズが常に意識されている。
スーツ生地は原毛の品質や紡績技術、ブランドや産地の希少性などによって歴然とした価格差があり、一種のヒエラルキーを成す。
多くのオーダースーツブランドはそのヒエラルキーを踏襲する形で生地を扱うが、FABRIC TOKYOはそうではない。
いったんヒエラルキーを取っ払って、ターゲットファーストで生地の取りそろえを決めるのだ。
たとえば高機能素材の生地の扱いがその例だろう。
軽量性やストレッチ性はもちろん、防シワ性や撥水(はっすい)性などを備えた高機能素材の生地を豊富に取りそろえる。
仕事着として頻繁に着用するなら、手間が掛からず取り扱いが簡単なほうがいい。
そこで、色落ちや型崩れしにくく、自宅の洗濯機でも洗えるウォッシャブルタイプを扱う。
デジタルネイティブ世代の多くが「オーダーするなら特別な一張羅を」などと考えていないことをFABRIC TOKYOは知っているのだ。
この世代は概して強いブランド志向を持たない。
自分の価値観に合うこと、自分らしくいられることをブランドに求める。
そして、サスティナビリティにも適度な関心を持ち、資源をむやみに無駄にしたがらず、気に入ったものは長く愛用したいという思いも持ち合わせる。
そのためFABRIC TOKYOでは耐久性に優れ、摩耗しにくい素材、環境に配慮した素材も扱っているのだ。
スーツの生地素材に使われるポリエステルをペットボトル由来に切り替え始めたのもその一環といえる。
特徴6.類のないビジネスモデル
そして最後にもう1つ、FABRIC TOKYOが創業以来こだわってきたことがある。
それがスーツ業界にはなかったビジネスモデル(事業に収益を生み出す仕組み/勝ちパターン)の構築だ。
FABRIC TOKYOでは中間の流通業者を挟まず、生地メーカーや生地工場、縫製工場との直接的なやりとりを原則としている。
実はこのことは手ごろな価格や絶妙な生地の取りそろえ、快適なフィット感と着心地と密接に絡む。
たとえば、本来なら生地を仕入れるのに生地問屋や商社などを挟むところを、FABRIC TOKYOは生地メーカーや生地工場から直接仕入れようとする。
メーカーや工場と掛け合ってオリジナル生地を共同開発することすらある。
よけいな中間マージンが発生しないため、コスト面のメリットもあるだろう。
しかし、商品の差別化という点でより重要なのは、顧客からのフィードバックを仕入先に直接伝え、ピンポイントのニーズに即した生地の調達がしやすくなることだ。
発売のたびに人気を呼ぶオリジナル生地もその緊密な関係性の中から生まれている。
中間流通が介在するとそうはいかない。
タイムリーな顧客情報の伝達や活用がどうしても滞ってしまうのだ。
一方で、スーツを生産する縫製工場とも直接的で緊密な関係を営む。
顧客のオーダーデータを直接送り、速やかに裁断や縫製に取りかかれるようにしているのだ。
かつてはFAXやPDFでやりとりしていたこともあったというが、今や前述した最適な型紙の選択やその補正まで完全にデジタル化されているらしい。
納期の短縮化はもちろんのこと、各工程の効率や精度が向上し、ヒューマンエラーを起こす余地が格段に減ったという。
「仕入先→FABRIC TOKYO→工場→顧客」と中間流通を排したビジネスモデルは「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー/ Direct to Consumer)」と呼ばれるが、その形こそがFABRIC TOKYOの事業の根幹であり、差別化の源泉なのだ。
日々生まれる顧客1人ひとりの体型や好み、注文履歴のデータは様々に分析され、同ブランドの成長を促す養分となっている。
アップセリングからの脱却
ここまでFABRIC TOKYOならではの特徴を6つほど挙げてきた。
オーダーフローがシンプル(特徴1)でサイトのインターフェイスがわかりやすい(特徴2)。
スーツのフィット感と着心地には並々ならぬこだわりがあり(特徴3)、それを店舗に常駐するスタッフたちが献身的にサポートする(特徴4)。
さらに取り扱う生地もターゲットファーストだ(特徴5)。
そして、中間流通を排したビジネスモデルがコストや納期を抑え、ターゲット顧客とブランドとの距離を縮めていく(特徴6)。
販売や営業の世界では「アップセリング」という商慣行がある。
顧客が検討中の商品よりも、さらに上のランクを売り込むことを指す。
たとえばスマートフォンなら検討中のモデルよりも高性能なモデルや大容量のストレージが付いたモデルを店員が勧めることがその例だ。
家電や自動車、旅行や宿泊、ファッションなどの分野ではよくみかけるセールス・アプローチだろう。
濃密な接客を受ける中で、顧客がついヒートアップしてしまい、勧められるがままに上のランクを選んでしまうことも少なくない。
実はオーダースーツも元来、「アップセリング」が極めて起こりやすいジャンルだった。
生地の選択肢は豊富にあって、しかも小刻みにランクアップする。
そこにスーツの印象を左右する魅惑的な有料オプションも入り込んでくる。
その価格アップの傾斜が極めて緩やかなため、次第に歯止めが効かなくなり、気がつけば予算をはるかにオーバーしていたということになりやすいだ。
「想定以上の出費」はオーダースーツに関するネガティブな投稿の定番になっている。
「○○万円から」「2着で〇〇万円!」といった割安なエントリー価格が強調されることが多いため、よけいに事前予算と実際の出費にギャップが生じることになるのだ。
エントリー価格に惹かれて店舗に行ったところ、実は生地の種類が極端に限られていたということもあり得る。
おそらくこのアップセリングへの潜在的な恐れが若い世代をオーダースーツから遠ざけるもう1つの要因なのだろう。
そこに割って入ったのがFABRIC TOKYOである。
オーダースーツといえば「アップセリング」があたりまえという図式を覆(くつがえ)したのだ。
オンラインショッピングで自ら選ぶ体験がそのままオーダースーツでも再現され、初心者でも手軽にスーツをオーダーできる。
店舗は採寸や相談などで必要なときに利用すればいい。
常駐する店舗スタッフもそのスタンスで接客するため、長時間拘束や買わなくちゃいけないというプレッシャーとは無縁となる。
とあるユーザーが「買わせようという圧力を感じない点も良かった。」との安堵と満足感が入り交じったコメントを残しているが、まさにそれがFABRIC TOKYOのデフォルト(初期設定)なのだ。
アパレル企業か、IT企業か
FABRIC TOKYOはアパレル企業か、IT企業かをよく問われるという。
基本はデジタルネイティブ世代がスーツを手軽にオーダーできることをひたすら目指してきた。
その積年の取り組みの結果として、アパレル企業とIT企業のいいとこ取りになったというのが正解だろう。
既製スーツのユーザーをオーダースーツ市場へと招き入れ、新規顧客をコンスタントにブランドに取り込む集客装置。
それがFABRIC TOKYOの事業のありようなのだ。
そのことは「過去8年間で売上高30倍」との数字が示しているだろう。
一方で、FABRIC TOKYOは顧客のリピート率も高い。
新規顧客を間断なく引き込みつつも、リピーターたちの存在が着実に厚みを増し、おそらく昨今の業績を大きくけん引しているのだろう。
さらに、明確なターゲット戦略のスピルオーバー(波及効果、spill overはあふれこぼれるの意)で今や客層は40代にまで及んでいるという。
また、シャツやポロシャツ、コート、ニット、レディースまで様々なビジネスウェアを幅広くオーダーメイドできるしくみも整え、好評を博している。
スーツだけでは「Fit Your Life」にはならないという矜持(きょうじ)からなのだろう。
FABRIC TOKYOは今後、デジタルネイティブ世代に向けてどんな新機軸を打ち出すのだろう?
それは新規顧客向けなのか、リピーター向けなのか?
あるいは履歴の残るラプスト・ユーザー(lapsed user /脱落・離脱ユーザー)向けなのか?
繰り出される一手に目が離せなくなる状況は当面続くことになりそうだ。