「力」の欲求 人間の欲求16種類(1)

「力」への欲求 16の基本的欲求
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人は誰しもが生まれつき16の基本的欲求を持つ。

そして、それらの欲求は日常の何気ない判断や意思決定にも影響を与えている。

その16のうちの1つ、「力」への欲求は周囲の人々に影響力を行使したいと望むこと。

スポーツ選手が「人々に感動を与えたい」と異口同音に語るのもその欲求の表れの1つだ。

「力」への欲求を満たそうと、人は目標を掲げて努力し、偉業を成し遂げて一目を置かれる存在になろうとする。

その欲求の充足行動に少しでもプラスに働くブランドなら、人々はそばに置いておこうとするだろう。

目次

16の基本的欲求

本ブログでは以前の記事に人は誰しもが生まれつき16の基本的欲求を持っていると書いた。

米国の心理学者、スティーブン・リース氏による「本当に欲しいものを知りなさい―究極の自分探しができる16の欲求プロフィール」(角川書店、2006年)で詳述されている説だ。

日常の何気ない判断や意思決定も実はこれら16の欲求と無関係ではない。

消費者のブランド選択もしかりである。

  • 力(power):他人を支配したいという欲求
  • 独立(independence):人に頼らず自力でやりたいという欲求
  • 好奇心(curiosity):知識を得たいという欲求
  • 承認(acceptance):人に認められたいという欲求
  • 秩序(order):ものごとをきちんとしたいという欲求
  • 貯蔵(saving):ものを集めたいという欲求
  • 誇り(honor):人としての誇りを求める欲求
  • 理想(idealism):社会正義を追求したいという欲求
  • 交流(social contact):人と触れあいたいという欲求
  • 家族(family):自分の子供を育てたいという欲求
  • 地位(status):名声を得たいという欲求
  • 競争(vengeance):競争したい、仕返ししたいという欲求
  • ロマンス(romance):セックスや美しいものを求める欲求
  • 食(eating):ものを食べたいという欲求
  • 運動(physical exercise):体を動かしたいという欲求
  • 安心(tranquility):心穏やかでいたいという欲求

「力」への欲求とは?

今回の記事では、16の基本的欲求のうち、「力(power):他人を支配したいという欲求」に焦点を当ててみよう。

マーケターの参考になるよう、実際のブランドの例も引き合いに出しながら、この欲求をマーケティングの実務にどう生かすかを考察してみたい。

「力(power):他人を支配したいという欲求」のキーワードは以下の通りとなる。

「力」への欲求のキーワード

支配力、影響力、指導力、統率力、達成感、権威主義、権力志向、業績志向、野心的、栄光、仕事中毒、征服欲、学力志向

また、個人が「力」への欲求を強く持つのか否かを測る心理テストの尺度も紹介しておこう。

おぼろげながらこの欲求が強い人の人物像も掴めるだろう。

なお、16の基本的欲求の記事には残りの15の欲求のキーワードや尺度も記載している。

「力」への欲求を測る心理尺度

次の文のうち、一つでもほぼ当てはまるものがあれば、「力」への欲求は「とても重要である」

  1. 同年代の人にくらべて、とても野心的だ
  2. いつも指導的な役割を果たしたいと思っている
  3. 同世代の人と一緒にいるときは、たいてい支配力をふるう

次の文のうち、一つでもほぼ当てはまるものがあれば、「力」への欲求は「それほど重要ではない」

  1. 同世代の人に比べて、極端に野心がない
  2. 人と一緒にいるときは全般的に、従属的な態度をとりがちだ

「力」への欲求を満足させるには?

「力(power)」「他人を支配したい」などと字面を見ると、権力に固執し、政治家であれば圧政を強いるような人物像が思わず浮かんでしまう。

ブランディングに携わるマーケターには縁遠いと感じられるかもしれない。

他人を支配することブランドとがなかなか結びつきにくいからだ。

しかし、そこは「基本的」と言われる欲求の一つ。

どんな善良な人たちでもこの欲求を少なからず持っている。

その欲求を満足させるためにブランドを購入することだってあるのだ。

「本当に欲しいものを知りなさい」によれば、この欲求の起源は弱肉強食の動物の世界に見いだすことができるという。

動物では「力」への欲求はストレートに支配力を発揮することにつながる。

弱肉強食の動物の世界

「力」を得ることで、食物連鎖のできるだけ上位に立ち、自然界の激しい生存競争を勝ち抜こうとするのだ。

しかし、人の「力」への欲求ともなるとそう単純な話しではない。

「他人を支配したい欲求」はあるにはあるにせよ、他人を屈服させたいと四六時中望んでいるわけではないのだ。

むしろ、「他人を支配したい」というところを「影響力を行使したい」と言い換えたほうがよりしっくりくるだろう。

人は誰もがある程度の力を得て、(支配とはいかないまでも)周囲に影響を与えたいとは思っている。

その方法の一つが難しいことに挑み、普通の人より努力して偉業を成し遂げ、一目を置かれるような存在になることだ。

その存在感を発揮することこそが影響力の源泉となるのだ。

化学メーカーのクラレが実施した「小学6年生の『将来就きたい職業』」調査の結果を見てみよう。

1位~4位は「スポーツ選手」「教員」「漫画家・イラストレーター」「医師」が来る。

一見、「他人を支配したいという欲求」とは無縁の職業に思えるが、いずれも周囲の人たちに影響力を与えられる職業であることは事実だ。

スポーツ選手が「人々に感動を与えたい」「前向きなエネルギーを湧かせたい」と異口同音に語るとき、それは一種の影響力の行使を望んでいるのだろう。

スポーツ選手

他の上位に入った人気職業も同様である。

小学6年生といえども、「力」への欲求はしっかり宿っているといえる。

「力」への欲求を満たすのは、何も一角(ひとかど)の人物になったり、非凡な能力を発揮したりすることだけではない。

もっとささやかなこと、たとえばある科目で成績クラスの一番になることや、町内の競技大会で一番になることでも「力」への欲求は十分に満足できるだろう。

「力」への欲求がほかの人より少し強めのタイプなら、そのようなことでも何とも言えない幸せな気持ちに包まれるはずだ。

「力」への欲求から購買行動を引き出す

この「力」への欲求を相対的に強く持つ人たちが、幸福感や充実感を得るのに必要なのは何らかの目標を掲げることだという。

そして、チャレンジ精神を発揮し、目指した目標を達成することが「力」への欲求を強く持つ人たちのQOL(Quality of life/クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)を高めることになる。

目標

掲げた目標の難易度が高ければ達成したときの満足度は高くなるが、その一方で目標を達成することが必須というわけではない。

「本当に欲しいものを知りなさい」によれば、目標に向かって取り組んでいたり、あるいはその目標について考えたりしただけでも「力」への欲求は満たされるという。

このことはブランディングに携わるマーケターにとっては朗報だろう。

消費者を目標に向かっている気にさせる、そんな淡い幻想を抱かせるのはブランドがむしろ得意とするところだからだ。

ブランドを「力」への欲求を刺激し、購買行動を引き出す舞台装置に変えることも十分可能なのである。

「16の基本的欲求」の記事にも書いたが、基本的欲求をマーケティングに生かすとすれば、16のうち、特定の欲求を強く持つ人たちの一群を想定し、ターゲットセグメントに据えるやり方がある。

その欲求から発生しやすいニーズを推察し、そのニーズに応えるべくブランドのベネフィットやパーソナリティ(ブランド固有の人格的個性)を設計していく。

基本的欲求という軸が定まっていると、ターゲットプロフィールとブランドの提供価値が格段に噛み合いやすくなるだろう。

「力」への欲求を狙ったブランド

ではここから、「力」への欲求に狙いを定めていると思われるブランドをいくつか挙げてみよう。

あくまで推察ではあるが、そのブランドを使うことで、あたかも目標に向かっていると思えるようなブランドだ。

そうしたブランドの多くは、栄養ドリンクやスポーツシューズなどが典型となるが、ブランドが属するカテゴリー自体が既に「力」への欲求と密接に絡んでいたりする。

リポビタンD

その筆頭が大正製薬の看板ブランド「リポビタンD」だろう。

公式サイト(2023年8月11日時点)を覗いてみると、「次の目標へ 次の挑戦へ 諦めそうになってもあと少しのファイトで超えるんだ。ファイト イッパツ!」のコピーが飛び込んでくる。

メインビジュアルを飾るのは大正製薬とスポンサー契約を結ぶプロゴルファーの松山英樹選手である。

その彼を起用したテレビCMのオンエアを伝えるリリースには、リポビタンDを始めとするリポビタンシリーズがこれまでも夢に向かって前向きに挑戦する人々を応援してきたとある。

そして4大メジャー制覇という目標に向かって努力し続ける松山選手を新たにテレビCMに起用することで、挑戦することの素晴らしさを最大限に伝えたいという意向のようだ。

もうひとふんばり頑張ろうというときに出番を迎える栄養ドリンク。

その筆頭ブランドである「リポビタンD」は、ブランドの世界観にトップアスリートと「諦めそうになってもあと少しのファイトで超えるんだ」と広告コピーを織り込み、消費者が持つ「力」への欲求を満足させようとの思惑なのだろう。

セイコー プロスペックス

腕時計で同様のアプローチをとるのがセイコーウォッチの「セイコー プロスペックス」だ。

公式サイト(2023年8月11日時点)によれば、「プロスペックス」はダイビングやトレッキングなど、スポーツ、アウトドアシーンに対応する本格機能を備えたブランドなのだという。

そしてブランドのイメージキャラクターを務めるのはメジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手

公式サイト(2023年8月11日時点)では大谷選手のビジュアルに「SHOW TIME 挑戦の時間を楽しめ。Keep Going Forward」とのメインコピーが大きく入る。

「挑戦の時間を楽しむ」とは「力」への欲求が強い人たちの信条をそのまま写し取っているといえるだろう。

その深意は大谷選手を起用したテレビCMで解き明かされる。

その映像で彼は以下のように語るのだ。

僕が、マウンドを去る。

バッターボックスを離れる。

その時は、いつかやってくる。

だからこそ、その日まで

どれだけ上手くなれるか、

どれだけ上手くなれるか、

挑戦の時間を、僕は楽しみたい。

「力」への欲求を体現するのに、常に高い目標を掲げて挑戦し続けるトップアスリートほどの適役はいないだろう。

目標や挑戦、日々の鍛錬などをセットで一瞬にして想起させるため、人々の根底にある「力」への欲求を触発する力が突出しているといえる。

「力」への欲求と商品カテゴリー

栄養ドリンクやスポーツウォッチのブランドを一つずつ例に挙げたが、ほかにも「力」への欲求に狙い撃ちされやすい商品カテゴリーはいくつもある。

ここで日本経済新聞社の業種分類をベースに「力」への欲求と相性のよいカテゴリーをいくつか挙げてみよう。

この業種分類は日本経済新聞社が提供する日本最大級の経済データサービス「日経NEEDS」で使われている業種分類で、以下に示したのは大分類中分類となる。

その下位の小分類にはより具体的な商品カテゴリーが来る。

赤字は後ほどコメントするが「力」への欲求と比較的相性がよいと思われるカテゴリーだ。

日経NEEDSの業種分類
  • 資源・エネルギー
    • 鉱業・エネルギー開発/電力・ガス
  • 素材
    • 紡績・繊維/製紙・紙製品/化学・化成品/ゴム・ゴム製品/窯業・土石製品/製鉄・金属製品/産業用資材
  • 機械・エレクトロニクス
    • 産業用装置・重電設備/製造用機械・電気機械/業務用機械器具/情報機器・通信機器/総合電機/家庭用電気機器/半導体・電子部品
  • 輸送機器
    • 自動車/自動車部品/造船/輸送用機械
  • 食品
    • 食品製造飲料・たばこ・嗜好品
  • 生活
    • 料品・服飾品/日用品・生活用品/趣味・娯楽用品
  • 医療医薬・バイオ
    • バイオ・医薬品関連医療・ヘルスケア・介護
  • 建設・不動産
    • 建設・土木/建設資材・設備/不動産・住宅
  • 商社・卸売
    • 総合商社/繊維・化学・製紙卸/建材・電気機械・金属卸/医薬品・医療品卸/食品卸/生活関連用品卸
  • 小売
    • 総合小売・食料品小売/衣料品・服飾品小売/専門店・ドラッグストア/家電小売/自動車小売/通信販売
  • 外食・飲食サービス
    • 飲食店/弁当・デリバリー
  • 金融
    • 銀行/証券/保険/消費者・事業者金融/リース・レンタル/投資/不動産投資信託/取引所・証券代行
  • 物流・運輸
    • 倉庫・物流/陸運/海運/空運
  • 情報・通信・広告
    • マスメディア/通信サービス/広告/コンテンツ制作・配信/インターネットサイト運営/システム・ソフトウエア
  • サービス
    • レジャー・レジャー施設/生活関連サービス/教育人材紹介・人材派遣/企業向け専門サービス/旅行・ホテル

食品

まず「力」への欲求と親和性が高いカテゴリーには大分類なら「食品」、中分類なら「食品製造」「飲料」があるだろう。

プロテインやサプリメント、スポーツドリンクなど身体づくりや体力強化、パフォーマンス向上、リカバリー(疲労回復)に役立つ一連の商品カテゴリーは「力」への欲求を喚起しやすい。

本ブログで取り上げた明治の「inゼリー」「10秒チャージ」を掲げており、「力」への欲求も射程範囲だろう。

医療医薬・バイオ

先に挙げた「リポビタンD」は「医薬部外品」であり、分類上は大分類なら「医療医薬・バイオ」、中分類なら「バイオ・医薬品関連」に入る。

「医療医薬・バイオ」は人の健康やウエルネスに貢献するカテゴリーだ。

心身の健康が最良の状態にあってこそ「力」への欲求が満たされる局面も多いため、このカテゴリーのブランドが「力」への欲求をベースにブランディングすることは大いにあり得る。

しかも「バイオ・医薬品・医療」の各企業は長期的な視野に立って、創薬や感染症対策などに取り組んでいることが多い。

製薬企業

第一三共が掲げるコーポレートスローガン「Passion for Innovation. Compassion for Patients.(イノベーションに情熱を。ひとに思いやりを)」武田薬品工業「Better Health, Brighter Future(世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献するために)」はその一端を示しているだろう。

そのため、企業スタンス自体がチャレンジングな目標を必要とする「力」への欲求ともうまく馴染むのだ。

金融

「長期的な視野に立つ」という点では銀行や証券、保険などの「金融」カテゴリーも「力」への欲求とは相性がいいだろう。

自らを資産運用や資産管理のパートナーブランドと位置づけていることも多く、顧客をさならる高みへと導く存在なのだ。

そんな金融機関のブランドが「力」への欲求を彷彿とさせるイメージを打ち出せば、顧客は勇気づけられ、一足飛びに利用意向とはいかないまでも、少なくともそのブランドに関心を寄せることになるだろう。

ここで付け加えておくが、実は「医療医薬・バイオ」「金融」に限らず、たとえば「資源・エネルギー」など、長期的なコミットメントの表明がされ、絶えず邁進する企業が絡む商品カテゴリーであれば「力」への欲求に出番があると考えていいだろう。

趣味・娯楽用品

そして大本命に大分類「生活」に属する「趣味・娯楽用品」のカテゴリーがある。

この「趣味・娯楽用品」にはレジャー・スポーツ用品やスポーツウエア・シューズのブランドがしのぎを削る。

ナイキやアディダス、ブリヂストンスポーツなどのブランドだ。

このカテゴリーで「力」への欲求を訴求することの意味は、ブランドの差別化のための「ポイント・オブ・ディファレンス/Point of Difference (POD)」というよりは、市場で対等に闘うための必須要件「ポイント・オブ・パリティ/Point of Parity (POP)」の獲得だろう。

教育/人材紹介・人材派遣

さらに大分類「サービス」に属する「教育」「人材紹介・人材派遣」のカテゴリーも「力」への欲求とよく折り合う。

受験や資格試験、就活など人生の大事な局面では「力」への欲求こそが自分を奮い立たせる原動力となる。

その心理を見据えてブランディングするのも十分考えられるだろう。

一例を挙げるなら、パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda(デューダ)」がある。

一連のテレビやウェブCMでは俳優の林遣都を起用し、「転職」というキャリア選択に迷う若い男性が「doda」のサービスをきっかけに一歩踏み出すようすを描く。

たとえば「このまま今の仕事を続けていて大丈夫なのか」「将来のためにスキルを身に着けたほうが良いのか」を悩むものの、最終的にはスキルアップのためにチャレンジすることを決意する。

リスクを恐れ、こぢんまりと収めっていたくはなかったのだ。

同CMシリーズは「変えるなら、きっと今だ。」がメインコピーとなるが、その「今」とは「力」への欲求が頭をもたげだした瞬間でもある。

通信教育の「ユーキャン」も「doda」と同じ路線だといってよい。

「ユーキャン」はCMシリーズではバスケットボール日本代表で米国のNBAで活躍する渡辺雄太選手を起用している。

「ユーキャン」は「今日より楽しく、豊かで、充実した明日へ。」「わたしたちは、チャレンジし続けます。」との企業理念を掲げている。

自らの実力で世界最高峰の米国NBAに上り詰めた渡辺選手と大いに共鳴するところがあったことが起用の理由だという。

やる気スイッチグループが展開する個別指導塾「スクールIE」の例も挙げておこう。

同ブランドも描き出すのはやはり目標を目指して懸命に取り組む姿だ。

俳優の加藤憲史郎を起用したCMでは、中学生が本気で勉強に取り組むようすが映し出される。

加藤憲史郎が扮する中学生が最近になって将来なりたい職業が見つかり、やる気スイッチが入ったという設定だ。

CMを見た人たちは目標を掲げることの意義を改めて知る機会になったであろう。

なお、本ブログで取り上げた「カロリーメイト」も長年「受験生応援シリーズ」を続けており、「スクールIE」と軌を一にするといっていいだろう。

「力」への欲求を狙った意外なブランド

ここまで「力」への欲求に狙いを定めたと思われるブランドをスポーツや受験、キャリア選択にまつわるカテゴリーからいくつか挙げてきた。

ここからは2つほど、一見すると「力」への欲求とは結びつきにくいブランドを挙げておこう。

天使のはね

1つはランドセルのブランドだ。

セイバンの「天使のはね」である。

ランドセル、ましてや「天使のはね」と「力」への欲求はかなり縁遠いイメージかもしれない。

しかし、実は「天使のはね」にはいくつかのモデルがあって、「力」への欲求に訴えたのが、そのうちの1つとなる「モデルロイヤル」だ。

上質なデザインと高い機能性を備えた「天使のはね」の看板ともいえるハイグレードモデルである。

その「モデルロイヤル」のラインアップの1つ「モデルロイヤル ドラグーン」が「力」への欲求に的をしぼっている。

公式サイト(2023年8月11日時点)には「剣とドラゴンの力強さを背に、勇敢な一歩を踏み出そう!」とのキャッチコピーが掲げられており、「ドラグーン」とは竜騎士(竜と縁の深い騎士の意)の意味だという。

「ドラグーン」をプロモートするCMもあり、「ドラゴンの力を手にするとき、勇敢な竜騎士の物語が始まる」とのナレーションが入る。

子どもの「力」への欲求に火をつける設定といってよい。

Amazon

もう一つがネット通販のAmazonだ。

Amazonは「ものづくりに従事する中小規模の販売事業者」を応援するスタンスを明確に打ち出している。

「Amazon」「Amazonビジネス」での販売はもとより、決済サービス「Amazon Pay」Amazon Web Services(AWS)が提供する「クラウド・コンピューティング・サービス」などのテクノロジーの活用し、事業者のイノベーションを創出し、事業の拡大に貢献していくのだという。

その強い決意と取り組みの一端を伝えるCMもつくられており、タグラインには「より良い毎日を、一緒に。」を据えている。

挑戦を続ける中小企業にAmazonが寄り添い続けるという意味合いだろう。

「地球上で最もお客様を大切にする企業」を目指すAmazonの覚悟が感じられる。

CMの映像のトーン&マナーはどこか静かでやさしいが、前述のセイバンのランドセルのように、中小の事業者を鼓舞し、「力」への欲求を触発しようとしていることに変わりはない。

「力」への欲求をマーケティングに生かす

今回の記事では16の基本的欲求のうち、「力(power):他人を支配したいという欲求」を取り上げた。

「他人を支配したい」というとややいかつい印象を受けるが、人の普遍的欲求にほかならないことがお分かりいただけた思う。

「力」への欲求を狙い撃ちしていると思われるブランドをいくつか見てきたが、それらブランドが属するカテゴリー自体が「目標」や「努力」にまつわる人の営みと関係が深く、「力」への欲求と既に好相性であることも多い。

ブランディングに携わるマーケターなら押さえておきたい欲求の一つだ。

最後に本ブログの「ブランドパーソナリティ」に関する記事にも触れたが、「本当に欲しいものを知りなさい」に書かれていた興味深い記述を紹介したい。

特定の欲求を強く持つ人に対して、その人となりの捉え方が人によって異なることもあるという。プラスの評価か、マイナスの評価かはその評価する側がどんな欲求を強く持つかに左右されるのだ。

16組のおかしな2人

同書籍には特定の欲求が強い人・弱い人がお互いに反目し合う典型的な例が「16組のおかしな2人」と称して欲求ごとに示されている。

以下は「力」への欲求が強い人の自分自身の評価とその欲求をさほど持たない人への評価、逆に「力」への欲求をさほど持たない人の自分自身の評価とその欲求が強い人への評価だ。

「力」への欲求が強い人・弱い人
  • 力への欲求が強い/野心的な人
    • 自分への評価(自分はこんな風に見られたい)
      • 指導者、働き者、しっかりしている、成功を追求する、支配的、強い影響力がある、目的を達成する
    • 真逆な人への評価(自分からは相手がこんな風に見える)
      • 怠け者、弱い、うだつがあがらない
  • 力への欲求が弱い/野心のない人
    • 自分への評価(自分はこんな風に見られたい)
      • 相手を立てている、従順、人につき従う
    • 真逆な人への評価(自分からは相手がこんな風に見える)
      • 仕事中毒、追いつめられている、威張り散らしている、権力をふるっている、はた迷惑、支配的、ひとつのことにのめりこみすぎる

全方位型のブランドでもない限り、誰もからも好かれるブランドを目指す必要はない。

しかし、ターゲットとしない人からはブランドがネガティブに捉えられている可能性もあることをリスクの1つとして認識しておいたいほうがいい。

顧客層の拡大などの課題がブランドに浮上し、そういう人たちがいずれターゲットとなることもあり得るからだ。

くわしくは「ブランドパーソナリティ」の記事をお読みいただきたい。

「力」への欲求以外の15の欲求についても、プラス評価、マイナス評価を一覧で記載している。

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