「deal」という英単語、意味は知っているのに、文脈によって迷う——そんな経験はないだろうか。
「対処する」「扱う」「配る」「取引する」「関与する」など、訳語は多岐にわたり、場面によって意味が大きく変化する。
その多義性ゆえに、使い分けが直感的に捉えづらく、対象との関係性や処理の深さによってニュアンスの取り違えが起こりやすい。
ときに問題に向き合い、ときに商品を売買し、ときに感情に対処し、ときにカードを配る——「deal」は、物理・心理・制度・感情の領域をまたいで機能する、極めて柔軟かつ動作的な動詞である。
本稿では、「主体が手を伸ばして対象に働きかける」というコアイメージを出発点に、「deal」が持つ意味の広がりと類義語との違いを体系的に整理する。
0.イントロダクション:「deal」の多義性とコアイメージの提示
【意味】
- (問題・状況などに)対処する、処理する
- (人・物を)扱う、関わる
- (カードなどを)配る
- (商取引を)行う、売買する
- (打撃などを)与える
- (計画・活動に)加わる、関与する
「deal」は、日常会話からビジネス、心理、ゲーム、感情表現まで、極めて広範な文脈で登場する基本動詞である。
「対処する」「扱う」「配る」「取引する」「関与する」「与える」など、日本語訳は多岐にわたり、場面によって意味が大きく変化する。
問題・人間関係・商取引・ゲーム・感情など、物理・心理・制度・社会の領域をまたぐため、直感的な理解が難しく、使い分けに迷うことも少なくない。
たとえば:
- deal with a problem(問題に対処する)
- deal with people(人を相手にする)
- deal cards(カードを配る)
- deal in antiques(骨董品を扱う)
- make a deal(取引をする)
- deal a blow(打撃を与える)
これらは一見すると無関係に見えるが、いずれも「主体が手を伸ばし、対象に働きかける」ことで、関係性や変化が生じるという共通の構造を持っている。

つまり、「deal」の多義的な用法はすべて、“手を通じて対象に働きかける”というコアイメージに根ざしている。
このイメージを押さえることで、「deal」が持つ意味の広がりを、辞書的な暗記ではなく、動作のリアリティとして直感的に理解することが可能となる。
次章では、このコアイメージについて詳しく解説する。
1.語源とコアイメージ:「手を伸ばし、関係を生み出す動作」
「手を伸ばし対象に働きかけることで、関係や処理が生じる」=「力を及ぼす」「扱う」「関係をつくる」

語源は中英語 delen に由来し、古英語 dælan(分ける、配る)を起源とする。
これは原始ゲルマン語 dailjanan(分配する)と同根であり、ドイツ語 teilen、オランダ語 deelen などと語源を共有する。
さらに遡ると、印欧語族の語根 dail-(分ける)に行き着き、「対象を分けて他者に渡す」という動作が原義となる。
この「分ける・配る」という動作は、単なる物理的な分配にとどまらず、「手を使って対象に働きかける」という身体的なイメージを伴っている。
つまり、「deal」はもともと、主体が“手を伸ばして対象に触れ、力を及ぼす”ことで、関係性や変化を生じさせる動詞だった。


この「手を介した働きかけ」という感覚は、現代英語においても抽象化されながら保持されており、「対処する」「扱う」「配る」「取引する」「関与する」など、さまざまな文脈で機能している。
たとえば:
- deal with a problem(問題に対処する)=問題に手を伸ばし、処理する
- deal cards(カードを配る)=手でカードを分配する
- deal with people(人を相手にする)=人との関係に手を伸ばし、対応する
- deal in goods(商品を扱う)=物品を手で扱い、取引する
- deal a blow(打撃を与える)=手を使って力を相手に及ぼす
- make a deal(取引をする)=手を差し伸べて合意を形成する
これらは一見バラバラに見えるが、いずれも「主体が手を使って対象に働きかける」ことで、空間・責任・制度・心理のいずれかに変化を生じさせるという共通の構造を持っている。
なお、「deal」は動詞として使われるだけでなく、名詞形(deal)や過去分詞(dealt)が形容詞的に用いられることもある。
たとえば:
- a good deal(良い取引)=手を介して成立した合意
- well dealt with(うまく対処された)=対象に適切な働きかけがなされた状態
いずれも「手を伸ばして対象に働きかける」というコアイメージに根ざしており、品詞が変わってもその多義性は健在である。
日本語では「対処する」「扱う」「配る」「取引する」「関与する」などと訳されるが、英語の「deal」はそれらを一つの「手を通じて対象に働きかける」という感覚で統合している。
この「働きかける」感覚を押さえることで、「deal」が持つ多義的な意味の広がりを、辞書的な暗記ではなく、動作のリアリティとして直感的に理解することが可能となる。
次章では、このコアイメージをもとに、文脈ごとの具体的な用法を整理していく。
2.コアイメージの展開:文脈別に見る「働きかけ」の多様性
前章では、「deal」の語源とコアイメージ——“手を伸ばして対象に働きかける”動作——について確認した。
ここではそのイメージが、現代英語においてどのように多義的な意味へと展開しているかを、文脈別に整理していく。
「deal」は、単なる「対処」や「取引」ではなく、主体が手を使って対象に働きかけることで、関係性・責任・処理・感情などに変化を生じさせる動詞である。
以下の表は、その代表的な用法を整理したものである。
用法カテゴリ | 例文 | コアイメージとのつながり |
---|---|---|
問題に対処する | deal with a problem | 問題に手を伸ばし、処理する |
人を相手にする | deal with difficult customers | 人との関係に手を伸ばし、対応する |
カードを配る | deal the cards | 手で物理的に分配する |
商品を扱う | deal in antiques | 商品を手で扱い、取引する |
打撃を与える | deal a blow | 手を使って力を相手に及ぼす |
取引を成立させる | make a deal | 手を差し伸べて合意を形成する |
日常文脈での「deal」使用例
① 問題に対処する
- She had to deal with a sudden power outage.
- 彼女は突然の停電に対処しなければならなかった。
- =問題に手を伸ばし、状況を処理する。
- 彼女は突然の停電に対処しなければならなかった。
② 人を相手にする
- He knows how to deal with angry customers.
- 彼は怒った顧客への対応方法を心得ている。
- =人との関係に手を伸ばし、適切に関与する。
- 彼は怒った顧客への対応方法を心得ている。
③ カードを配る
- The dealer dealt five cards to each player.
- ディーラーは各プレイヤーに5枚のカードを配った。
- =手で物理的に分配する動作。
- ディーラーは各プレイヤーに5枚のカードを配った。
ビジネス文脈での「deal」使用例
① 商品を扱う
- They deal in rare books and manuscripts.
- 彼らは希少な書籍や原稿を扱っている。
- =商品を手で扱い、売買する。
- 彼らは希少な書籍や原稿を扱っている。
② 取引を成立させる
- We made a deal with a new supplier.
- 新しい仕入先と取引を成立させた。
- =手を差し伸べて合意を形成する。
- 新しい仕入先と取引を成立させた。
③ 問題に対応する
- The manager dealt with the budget shortfall swiftly.
- マネージャーは予算不足に迅速に対応した。
- =責任を持って問題に働きかける。
- マネージャーは予算不足に迅速に対応した。
感情・心理文脈での「deal」使用例
① 感情に対処する
- She’s still dealing with the loss of her pet.
- 彼女はペットを失った悲しみにまだ向き合っている。
- =感情に手を伸ばし、整理・処理しようとしている。
- 彼女はペットを失った悲しみにまだ向き合っている。
② ストレスに向き合う
- I can’t deal with this pressure anymore.
- もうこのプレッシャーには耐えられない。
- =心理的負荷に対処する能力の限界を示す。
- もうこのプレッシャーには耐えられない。
このように、「deal」は物理的な動作だけでなく、心理的・制度的・社会的な“対象への働きかけ”や“関係の形成”を表す動詞である。
日本語では「対処する」「扱う」「配る」「取引する」「関与する」などと訳されるが、英語の「deal」はそれらを一つの「手を使って対象に働きかける」という感覚で統合している。
この「働きかける」感覚を理解することで、「deal」が持つ多義的な意味の広がりを、文脈に応じて自然に使い分けることが可能となる。
次章では、こうした意味の広がりを踏まえたうえで、「handle」「treat」「cope」「trade」「manage」などの類義語との違いを明確にしていく。
3.実践的な理解:類義語とのコアイメージ比較
「deal」は「対処する」「扱う」「配る」「取引する」「関与する」などと訳されることが多いが、英作文や語彙選びの場面では、似たような文脈で「handle」「treat」「cope」「trade」「manage」などの語が思い浮かぶこともあるだろう。
いずれも「対象への働きかけ」に関わる語であり、文脈によっては「deal」と意味が重なるように見えるが、対象との関係の深さ、処理の手法、主語の能動性において違いがある。
以下の表は、それぞれのコアイメージと違いのポイントを整理したものである。
単語 | コアイメージ | 違いのポイント |
---|---|---|
handle | 手際よく処理する | 技術的・実務的な処理に焦点。感情や関係性は含まれないことが多い |
treat | 対象に対して一定の態度で接する | 対象への姿勢や態度に焦点。処理よりも接し方に重点がある |
cope | 困難に耐えながら対処する | 主語の内面的な努力に焦点。感情的・心理的ニュアンスが強い |
trade | 商品や価値を交換する | 双方向の取引に特化。dealより制度的で明確な交換関係を示す |
manage | 継続的に統制・運営する | 長期的・組織的な処理に焦点。dealより責任範囲が広い |
deal | 手を伸ばして対象に働きかける | 対象との関係性を生じさせる動作。処理・関与・分配・取引を含む柔軟な動詞 |
ここから、文脈ごとの違いを英文と和訳のセットで紹介する。ニュアンスの違いを直感的に理解してほしい。
① deal vs handle:処理の対象と手法の違い
- He handled the complaint professionally.
- 彼はその苦情にプロらしく対応した。
- =手際よく処理したが、感情的な関与はない。
- 彼はその苦情にプロらしく対応した。
- He dealt with the complaint by listening carefully.
- 彼は丁寧に耳を傾けてその苦情に対処した。
- =相手との関係に手を伸ばし、感情的にも関与している。
- 彼は丁寧に耳を傾けてその苦情に対処した。
▶︎「handle」は技術的処理、「deal」は関係性を含む働きかけ——処理の深さが異なる。
② deal vs treat:対象への態度と関係性の違い
- She treated the child kindly.
- 彼女はその子どもに優しく接した。
- =態度や姿勢に焦点。処理というより接し方。
- 彼女はその子どもに優しく接した。
- She dealt with the child’s tantrum calmly.
- 彼女はその子の癇癪(かんしゃく)に冷静に対処した。
- =問題行動に手を伸ばし、状況を処理している。
- 彼女はその子の癇癪(かんしゃく)に冷静に対処した。
▶︎「treat」は接し方、「deal」は状況処理——対象への働きかけの性質が異なる。
③ deal vs cope:対処の余裕と感情的ニュアンス
- He’s coping with the loss of his job.
- 彼は失業の悲しみに耐えている。
- =内面的な努力に焦点。感情的なニュアンスが強い。
- 彼は失業の悲しみに耐えている。
- He’s dealing with the transition to a new career.
- 彼は新しいキャリアへの移行に対処している。
- =状況に手を伸ばし、現実的に処理している。
- 彼は新しいキャリアへの移行に対処している。
▶︎「cope」は耐える、「deal」は処理する——主語の内面と外的行動の違い。
④ deal vs trade:取引の制度性と双方向性
- They traded goods across the border.
- 彼らは国境を越えて商品を取引した。
- =明確な交換関係。制度的な取引。
- They dealt in imported goods.
- 彼らは輸入品を扱っていた。
- =商品を手で扱い、売買する。取引の実務面に焦点。
- 彼らは輸入品を扱っていた。
▶︎「trade」は交換、「deal」は扱う——制度的か実務的かの違い。
⑤ deal vs manage:責任の範囲と継続性の違い
- She manages the entire department.
- 彼女は部門全体を管理している。
- =継続的・組織的な統制。責任範囲が広い。
- 彼女は部門全体を管理している。
- She deals with staffing issues as they arise.
- 彼女は人員の問題が起きるたびに対処している。
- =個別の問題に手を伸ばし、都度処理している。
- 彼女は人員の問題が起きるたびに対処している。
▶︎「manage」は統制、「deal」は対処——継続性と責任の広さが異なる。
このように、同じ「対処する」「扱う」「取引する」「接する」と訳される語でも、英語では「処理」「態度」「耐性」「制度」「統制」など、働きかけの性質や関係の深さに細かなニュアンスの違いが存在する。
「deal」はその中でも、主体が対象に手を伸ばし、関係性を生じさせることで、処理・分配・取引・感情的対応などを柔軟に表現できる動詞である。
次章では、こうした違いを踏まえたうえで、実践的な使い方を確認していく。
4.アウトプット演習:空欄補充でニュアンスを体得する
以下の文の空欄に、適切な語句(deal / handle / treat / cope / trade / manage)を入れてみよう。
文脈に応じたニュアンスの違いを意識することで、単語の選択精度が高まる。
- I had to _ with a difficult customer this morning.
- (今朝、対応の難しい顧客に対処しなければならなかった)
- 答え:deal ※相手との関係に手を伸ばし、状況を処理する動作。
- She knows how to _ fragile items during shipping.
- (彼女は配送中に壊れやすい品物をどう扱うかを心得ている)
- 答え:handle ※技術的・実務的な処理に焦点。感情的関与は含まない。
- The nurse _ each patient with care and respect.
- (看護師はそれぞれの患者に思いやりと敬意をもって接した)
- 答え:treat ※対象への態度や姿勢に焦点。処理よりも接し方が中心。
- He’s trying to _ with the stress of his new job.
- (彼は新しい仕事のストレスに耐えようとしている)
- 答え:cope ※内面的な努力に焦点。感情的・心理的ニュアンスが強い。
- They _ goods with partners in Southeast Asia.
- (彼らは東南アジアの取引先と商品を交換している)
- 答え:trade ※制度的・双方向的な取引。dealよりも明確な交換関係。
- She _ the team’s schedule and budget.
- (彼女はチームのスケジュールと予算を管理している)
- 答え:manage ※継続的・組織的な統制。責任範囲が広い。
このように、同じ「対処する」「扱う」「接する」「耐える」「取引する」「管理する」と訳される行為であっても、文脈によって選ぶべき単語は異なる。
- deal:手を伸ばして対象に働きかけることで、関係性や処理が生じる
- handle:技術的・実務的な処理に焦点。感情や関係性は限定的
- treat:対象への態度や姿勢に焦点。接し方に重点がある
- cope:困難に耐える内面的努力。心理的ニュアンスが強い
- trade:商品や価値を交換する制度的な取引。双方向性が明確
- manage:継続的・組織的な統制。責任範囲が広く、長期的な処理に適する
それぞれのコアイメージを把握することで、場面に応じた語の選択がより的確に行えるようになる。
ここまでの整理を踏まえ、最後に「deal」の意味を簡潔にまとめておこう。
5.まとめ:コアイメージで「deal」の多義性を統合する
「deal」は、問題・人間関係・取引・感情など、幅広い場面で使われる基本動詞である。
その多義性は、「手を伸ばして対象に働きかける」というコアイメージに根ざしており、文脈に応じて「処理」「関与」「交換」「感情対応」などの意味を担う。
このイメージを軸にすれば、訳語の違いに惑わされず、場面ごとの使い分けも自然にできるようになる。
語義の暗記ではなく、動作の構造をイメージすることが、語感を伴った理解への近道となる。