今回は『段取り』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『段取り』の一語に寄りかかる弊害
「段取り」は使い勝手のよい進行管理語だが、頼りすぎると“何をどこまで整えているのか”が曖昧になり、説明の精度や説得力が弱まってしまう。
準備なのか、手順なのか、全体設計なのか——本来切り分けて語るべき違いが一語に吸収され、状況の具体性や判断の根拠が見えにくくなる。
そのような“表現の偏り”が現れる具体例を取り上げてみよう。
口ぐせで使われがちな例
- 今回のイベントの段取りは、営業側でお願いします。
- 来期施策の段取りを、今日中に共有してもらえますか。
- 打ち合わせの段取りを、先に整理しておきたいです。
- 新サービス導入の段取りについて、改めて確認させてください。
- 全社説明会の段取りを、早めに固めておきましょう。
例を重ねると、表現の幅よりも口ぐせの反射が先に立ち、説明の厚みが削がれていたことが浮かび上がる。
次章では、文脈に応じて選べる品位ある言い換えを整理していく。
2.『段取り』を品よく言い換える表現集
ここからは「ざっくり」を5つのニュアンスに整理し、 ビジネスでそのまま使える、品よく・知的で・誤解のない言い換えを提示する。
2-1. まず整える(事前準備)
- 万全の態勢を整える
- 人・物・情報を含め、実行に向けた準備を抜かりなく整える表現。
- 例:海外展開に備え、サポートも含め万全の態勢を整える方針だ。
- 人・物・情報を含め、実行に向けた準備を抜かりなく整える表現。
- 下準備を徹底する
- 本番前に必要な作業を丁寧に積み上げる、最も実務的な段取り。
- 例:セミナーでは想定Q&Aの下準備を徹底することで安心して登壇できた。
- 本番前に必要な作業を丁寧に積み上げる、最も実務的な段取り。
- 必要なリソースを確保する
- 人員・予算・設備など、実行に不可欠な要素を事前に押さえる行為。
- 例:新プロジェクトに向け、予算や人員など必要なリソースを確保することが重要だ。
- 人員・予算・設備など、実行に不可欠な要素を事前に押さえる行為。
- 下地を固める
- 比喩的に、理解・信頼・環境などの基盤を整える段取りを示す。
- 例:社内説明会を重ね、制度変更への理解の下地を固めることができた。
- 比喩的に、理解・信頼・環境などの基盤を整える段取りを示す。
2-2. 進め方を決める(手順・工程)
- 工程を設計する
- 作業の流れや順序を論理的に組み立てる、段取りの王道表現。
- 例:問い合わせ対応の工程を設計することで、処理時間を大幅に短縮した。
- 作業の流れや順序を論理的に組み立てる、段取りの王道表現。
- ワークフローを構築する
- 業務全体の流れを仕組みとして整える、現代的で実務的な表現。
- 例:受注から請求までのワークフローを構築する取り組みを進めている。
- 業務全体の流れを仕組みとして整える、現代的で実務的な表現。
- オペレーションを最適化する
- 現場の動きを改善し、効率的な進行を実現する段取り。
- 例:新店舗の立ち上げに向け、既存のオペレーションを最適化する方針を固めた。
- 現場の動きを改善し、効率的な進行を実現する段取り。
- リードタイムを見積もる
- 全体の所要時間を把握し、進行管理の精度を高める行為。
- 例:システム更新に向け、リードタイムを見積もる必要がある。
- 全体の所要時間を把握し、進行管理の精度を高める行為。
2-3. 全体を描く(構想・計画)
- 全体像を整理する
- 情報を俯瞰し、構造化して理解しやすくする段取り。
- 例:複数部署の施策の全体像を整理することで、重複投資を防いだ。
- 情報を俯瞰し、構造化して理解しやすくする段取り。
- 青写真を描く
- 将来の姿や理想形を描き、そこから逆算して進める計画的な表現。
- 例:新規サービスの青写真を描くところから、全社PJが始動した。
- 将来の姿や理想形を描き、そこから逆算して進める計画的な表現。
- 実行プランを策定する
- 具体的な行動計画を文書化し、実務レベルに落とし込む段取り。
- 例:組織再編に先立ち、三年の実行プランを策定することになった。
- 具体的な行動計画を文書化し、実務レベルに落とし込む段取り。
2-4. 人をそろえる(調整・合意)
- 事前調整を済ませる
- 関係者間の認識や条件を事前に合わせ、スムーズな進行を支える行為。
- 例:役員会にかける前に、主要部門とは事前調整を済ませるようにしている。
- 関係者間の認識や条件を事前に合わせ、スムーズな進行を支える行為。
- 関係各所との合意形成を図る
- 組織横断の意思決定に向け、正式な合意を整える段取り。
- 例:予算配分について、関係各所との合意形成を図ることが求められている。
- 組織横断の意思決定に向け、正式な合意を整える段取り。
- コンセンサスを得る
- 外資系やIT企業でも使われる、スマートな合意獲得の表現。
- 例:新方針の導入前に、各部署からコンセンサスを得ることにした。
- 外資系やIT企業でも使われる、スマートな合意獲得の表現。
- 認識の齟齬(そご)をなくす
- 誤解やズレを解消し、協働の前提を整える段取り。
- 例:施策の目的について認識の齟齬をなくすため、説明会を開いた。
- 誤解やズレを解消し、協働の前提を整える段取り。
2-5. 見通しを立てる(スケジュール)
- 目処(めど)を立てる
- 完了時期や到達点の見込みを示す、段取りの代表的な言い換え。
- 例:新機能のリリース時期について、今週中に目処を立てるよう依頼した。
- 完了時期や到達点の見込みを示す、段取りの代表的な言い換え。
- スケジュール感を持つ
- 全体の流れを把握し、関係者に安心感を与える柔らかい表現。
- 例:年度末までのスケジュール感を持つため、優先順位を整理している。
- 全体の流れを把握し、関係者に安心感を与える柔らかい表現。
3.まとめ:語彙が『段取り』の質を変えていく
段取りを一語で片づけてしまうと、準備・手順・構想といった異なる働きが同じ色に塗りつぶされ、説明の解像度が下がってしまう。
文脈に応じて表現を選び替えることで、進め方の筋道や調整の意味合いが立ち上がり、仕事の理解が深まっていく。
言葉の精度が説明の芯を強め、組織の対話を支えることを改めて意識したい。

