「黒髪よ、立ち上がれ、強く、しなやかに」― そう訴求するのが「黒いシャンプー」と異名をとる大正製薬の「ブラックウルフ」。
シャンプーやコンディショナーのみならず、頭皮美容液「スカルプエッセンス」や「カラートリートメント」まで揃えた男性向けのトータルスカルプケアを志向するブランドだ。
壮年性脱毛症など既に悩みを抱えた人ではなく、見た目の印象をグッと引き上げるのにスカルプケアを行う人たちがターゲットだという。
それゆえ、同種のブランドとは一線を画し、育毛や発毛促進、白髪予防をうたわない。
あくまで「黒髪ケア」が主体で、今ある髪に力強い弾力をもたせ、より美しい漆黒の髪に近づけるのだという。
それが「黒い狼」と銘打つゆえんだ。
口コミの投稿や検索も活気づいており、さらに一度使った人たちの評価が高く、30~40代男性を中心に順調にリピーターを獲得している。
大正製薬といえば発毛剤・育毛剤シリーズのロングセラー「リアップ」を擁し、毛髪研究には定評のある企業だ。
いったい「ブラックウルフ」にはどんな効果・効能が期待できるのか?
パッケージデザインも中身の液色も黒という「黒いシャンプー」の真の実力に迫ってみたい。
リアップの大正製薬から新ブランド
男性用のスカルプケアシャンプーといえば、抜け毛やにおい、ふけ対策というのが一般的だった。
そんな市場に「黒髪ケア」という、これまでにないコンセプトをひっさげて参入したブランドがある。
大正製薬の「ブラックウルフ」だ。
シャンプーやコンディショナーのみならず、頭皮美容液「スカルプエッセンス」や「カラートリートメント」まで揃えたトータルなスカルプケアを志向するブランドである。
2021年10月に発売されるやいなや、数あるライバルブランドを抑えていきなりトップシェアを獲得。好発進を切った。
シャンプー1本で2,000円近いという価格帯ながら、その後は順調に30~40代男性のリピーターを獲得しているという。
大正製薬といえば、発毛剤・育毛剤シリーズのロングセラー「リアップ」を擁する製薬企業だ。
その後光が差すような信頼効果もあったのかもしれない。
しかし、広い意味では同じスカルプケアのブランドとはいえ、リアップとブラックウルフとではそのコンセプトや打ち出し方は大きく異なる。
ブラックウルフのシャンプー使用後にリアップの育毛剤などと、大正製薬が率先して併用を奨めているようには見えない。
黒髪よ、立ち上がれ、強く、しなやかに
そのことはブラックウルフのブランドとしての記号のあしらい方にも明白だ。
まずはブランド名のブラックウルフ(黒い狼)。
黒々とした、雄々しい狼を連想させ、「黒髪ケア」を言葉を介さずとも印象付けることを狙ったのだろう。
ブランドの公式サイトには大きく「黒髪よ、立ち上がれ、強く、しなやかに」とのコピーがある。
画面を切り裂くように力強い雄健な筆跡で書かれているのだ。
ブラックウルフのイメージが先に来るためか、力強い生命力が息づいているように感じられる。
テレビCMもタレント2人が狼のかぶりもので登場し、強烈なインパクトを残した。
演じたのは俳優の松田龍平さんとお笑い芸人の霜降り明星の粗品さんだ。
遊び心や可笑しみを感じさせ、リアップのテレビCMのように長年CMキャラクターを務める水谷豊さんが自信なさげな男性たちに指南する内容とは対照的なアプローチといってよい。
ちなみにブラックウルフは9月6日を「ブラックウルフ・黒髪の日」に制定しているという。
「ク(9)ロ(6)」の語呂合わせが由来だが、この記念日をきっかけに黒髪の持つ「力強さ」や「美しさ」を啓発するのが狙いのようだ。
「黒髪ケア」への並々ならぬこだわりが見てとれる。
ターゲットは誰か?
ブラックウルフのターゲットは美容や身だしなみへの意識が高く、自分磨きに余念のない人たちだという。
リアップのように、壮年性脱毛症など既に悩みを抱えている人ではなく、あくまでプラスの発想で見た目の印象をグッと引き上げるのにスカルプケアと向き合う人を想定している。
それゆえ育毛や発毛促進、あるいは白髪予防効果ではなく「黒髪ケア」の打ち出しなのだろう。
実はリアップにも通販限定ながら「リアップエナジー」というシャンプーがあるが、大正製薬としてはリアップブランドにはなびかなかった層をブラックウルフで開拓したい。
そのためにも、他言しにくい薄毛や白髪の悩みに寄り添うブランドとのイメージとは一線を画したい。
あくまで使っていることがかっこいいと思われるようなブランドを目指しているのだという。
黒髪ケアとは?
ではブラックウルフのいう「黒髪ケア」とは具体的に何を指すのだろう?
ブランドの公式サイトには、ただシンプルに「髪本来の力」を引き出すことに着目したとある。
その自分由来の自然な力が髪にコシとハリを保ち、立ち上がる力強さをもたらす。
そして髪の色をより美しい漆黒(しっこく)に近づける。
何かを足すのではなく、いわば根源的な本能を呼び覚ますという発想なのだ。
そうだとすれば「ウルフ(狼)」のモチーフにも納得がいく。
同ブランドの代表的なラインである「ボリュームアップ スカルプシャンプー」であれば、まずは黒い液色がその特徴だ。
髪のダメージを補修する希少な成分「ヘマチン」がしっかり配合されているという。
その液色からは想像もできないほど純白で濃密な泡が立ち、頭皮のアブラを落とし、髪に根元からボリューム感を与える。
一方の「ボリュームアップ コンディショナー」は毛髪や頭皮に浸透し、潤いで満たすことで、生き返ったようなハリとコシ、立ち上がる強さをもたらす。
自分由来の力を奮い立たせるのだ。
口コミの活況とリピーターの獲得
ネーミングやテレビCMで黒い狼というイメージを前面に打ち出し、パッケージデザインも中身の液色も黒。
その上で訴求点を「黒髪ケア」に焦点を絞ったことはひとまず成功したようだ。
それは発売時の初速の好調さにも表れている。
その後も相当の興味関心を掻き立てきたのだろう。
SNSの投稿やアットコスメ、amazonレビューなどブラックウルフの口コミを投稿、検索する人は後を絶たないようだ。
400~500円程度で買える安価なシャンプーではないため、失敗したくないという心理もそこには働く。
しかし、化粧品やトイレタリーのような非耐久財の場合、それでも一度ぐらいは試しに買ってみようという人も多い。
トライアル率(初回購入率)が高い割にはリピート率(一度買った顧客が再購入する比率)が思ったほど上がらないケースも少なくないのだ。
期待していたほどの効果が実感できず、二度目以降の購入につながらないのだ。
製品力の真価はやはりリピート率の高さに表れるといえる。
その点でもブラックウルフは合格点だ。
リピート率はヘアケア商品全般の平均値より高いという。
効果を実感して使い続ける人がいるのである。
実際、「もう以前のシャンプーには戻れない」という投稿もちらほら見かける。
そうした実感が人にシェアしたいとの意欲を生み、ネット上の口コミの活況につながっているのだろう。
評価の源に革新的な製品力
実はこのリピーターを獲得し得る製品力こそがブラックウルフの真骨頂といえる。
そこには製薬企業である大正製薬の20年以上に及ぶ毛髪研究の知見が生かされている。
その大正製薬が近年、着目していたのが「ミトコンドリア」。
中学の理科で細胞について習う際に出てくる、あの名まえだ。
ミトコンドリアは1つひとつの細胞の中に無数にあって、生命活動に必要なエネルギーをつくり出し、細胞の中の「発電所」ともいわれている。
大正製薬は学習院大学の柳茂教授との共同研究で、ミトコンドリアに存在する酵素「MITOL(ミルトン)」が毛髪や頭皮の老化を防ぐのに重要な働きを担うことをつきとめた。
加齢に伴い、この「MITOL」が減少すると、潤沢なエネルギーを生み出すはずのミトコンドリアが機能異常を来すという。
逆にいえば、年齢を重ねたとしても、MITOLの著しい減少を食い止めれば、ミトコンドリア機能、ひいては細胞全体の機能が維持され、毛髪や頭皮の老化を防ぐことができる。
このメカニズムの発見はよほど画期的だったらしく、日本美容皮膚科学会からも優れた研究成果として表彰もされている。
ブラックアクティブ処方とは?
この「MITOL」がキープレイヤー(あるいは真犯人)という知見のもと、独自開発されたのがブラックウルフに採用されている「ブラックアクティブ処方」だ。
保湿効果をもたらす11成分からなるが、その処方の柱となるのが、「ブラックリバースペプチド1」と牡丹の根の皮から抽出したエキス「ボタンピエキス」。
それら2つがタッグを組むと「MITOL」の発現を促し、毛髪や頭皮の老化を防ぐ効果が発揮されるのだ。
実際に被験者にテスト品を自宅で使ってもらったところ、髪の量が増える、白髪が減るなど育毛・白髪予防の効果が確認されたという。
女性も関心寄せるスカルプエッセンス
ブラックウルフには頭皮美容液「スカルプエッセンス」がある。
1本の値段が4,000円以上と値の張る商品だ。
ワンランク上のプレミアムラインだと5,000円を超える。
先に触れた「ブラックリバースペプチド1」と「ボタンピエキス」というエース級の成分をそのまま凝縮し、頭皮に直接浸透させるためにつくられている。
あくまで男性用との打ち出しだが、実際に女性が使ったレビューを狙い撃ちして検索する人もいる。
もはやジェンダーレスの時代、「黒髪ケア」というコンセプトに惹かれて、女性たちの関心もさらったのだろう。
「未来は俺がつくる。」の俺とは?
ブランドのメインコピーは「未来は俺がつくる。BLACK WOLF」。
この「俺」という言葉にはおそらく二重の意味があるのだろう。
1つは頭皮や毛髪の老化を防ぐ自分由来の力という意味。
そして、もう1つはスカルプケアを自分磨きの一環として取り入れるプラス志向の本人、すなわち自分自身という意味だ。
公式サイトでは「男の髪のための『続ける』シャンプー」という言い回しで、盛んに同ブランドを使ったケアをルーティンにすることを奨める。
使い方の動画も公開するといった力の入れようだ。
「MITOL」の発現を促し、自分由来の力で老化を防ぐには、ロングスパンの取り組みが必要ということだろう。
「MITOL」がキープレイヤーとの知見から生まれたブラックウルフであるが、力の源泉、そして担い手(エージェント)としての自分もまたキープレイヤーとなるのだ。
男性用のスカルプケア市場は競争が厳しい。
おそらく新規参入も相次ぐだろう。
そんな環境下で大正製薬の毛髪研究の成果がどこまでユーザーを開拓するのか?
リアップほどの強力なロングセラーになり得るのか?
ブランドの打ち出し方やラインアップの拡充も含め、今後の進展に注目したいところだ。