ロート製薬のフレグランスブランド「ベレアラボ」が2019年の起ち上げ以来、好調の波に乗っている。
ディフューザーなどを使って香りを楽しむアロマオイルであるが、女性ばかりか想定以上に男性にも売れているという。
コンセプトは「香りで空間と時間の質を変える」。
リラックスすることで仕事がはかどる、疲労がたまりにくくなる、睡眠の質が向上するなど具体的な香りの効果を伝えてきたことが奏功したようだ。
さらに専用のアロマディフューザーも開発し、時間と場所を選ばず、使いたいシーンで香りを手軽に満喫できる点もリピーターをつかむ後押しとなった。
そして、ブランドの最大の功績は、男性も含め、これまで香水やアロマオイルに関心の薄かった人々を惹きつけたことだろう。
従来のフレグランス商品とは一線を画す、「ベレアラボ」という新たな市場の創出に成功したのだ。
ロート製薬のベレアラボとは?
ロート製薬のルームフレグランス「ベレアラボ(BELAIR LAB)」の売れ行きが好調だ。
想定以上に男性にも売れているという。
「ベレアラボ」とはロート製薬が運営をする「香りと感性の研究所」(起ち上げは2019年)のこと。
そこからルームフレグランスとして使えるアロマオイル(室内芳香油)を発売している。
ブランド名にある「BELAIR」の「BEL」には美しいという意味があり、「BEL」と「AIR」で「美しい空気」を指す。
ちなみにサッカーJリーグに「湘南ベルマーレ」というチームがあるが、チーム名は「BEL」と「Mare(マーレ/海)」で「湘南の美しい海」の意味らしい。
「ベレアラボ」は主に室内芳香油「フレグランスオイル」と、それをスプレータイプにしたを「フレグランススプレー」の2種類を扱う。
このうち「フレグランススプレー」は仕事始めや就寝前といった生活シーンの切り替えの際に数回、空間に吹きかけて使うものらしい(日本経済新聞2021.9.26)。
公式オンラインストアで販売するほか、東京は有楽町の体験型店舗 b8ta(ベータ)Tokyo – Yurakucho(有楽町電気ビル1階)と日本橋の日本橋高島屋S.C.(本館2階ギャラリー ル シック)、大阪は b8ta(ベータ)Osaka – Hankyu Umeda(阪急うめだ本店 8 階)でそれぞれ取り扱い商品の体験と購入ができる(2024年2月現在)。
「b8ta(ベータ)」はデジタル機器や雑貨などを扱うショールーム型店舗で「モノを売らない店舗」で知られている。
価格はといえばフレグランスオイル(15ml)なら、標準的な価格が3,850円、希少な香りだと9,000円近くのもあるようだ。
フレグランス市場に新マーケティング戦略
従来市場とは一線を画すアプローチ
今や男女の垣根のないジェンダーレスな時代。
本ブログでも「ギャツビー ザ デザイナー」など男性用のメイクアップ商品などを記事にしているが、やはりアロマや香水となるともっぱら女性が使うイメージが強い。
一方、「ベレアラボ」は今までフレグランスには縁がなかったという人を惹きつけており、とりわけ男性が好反応を示したことはロート製薬も想定外だったという。
男性を含め、フレグランスに関心の薄かった人を惹きつけた背景には、「ベレアラボ」が日本の従来のフレグランス市場とは一線を画すアプローチをとったことがあるだろう。
多くの人たちには香水といえば化粧品やアクセアリーと同じ部類、アロマオイルといえばセラピー目的との共通認識があった。
その一方で、日本人は古来から木々や果物、花の香りに心癒される体験を季節の移ろいとともに積んできている。
華道や茶道などと並び、香りを聞き分けて楽しむ「香道」という文化もある。
「ベレアラボ」は、実は香りの市場テンシャルはもっと大きいのではないかと考えた。
そこで「香りで空間と時間の質を変える」をコンセプトに据え、リラックスすることで仕事がはかどる、疲労がたまりにくくなる、睡眠の質が向上することなど、具体的な香りの効果・効能を盛んに伝えてきた。
単なる嗜好品としてではなく、香りを生活に取り入れる理由や使用シーンを明確にしてきたのだ。
いわば理知的なアプローチに変えたといってよい。
スポーツ選手と香りの効果実証
理知的なアプローチといえばもう1つ、「ベレアラボ」はほかのフレグランスブランドにあまり例のない試みを行っている。
プロサッカー選手を対象に香りと睡眠の質やパフォーマンスとの関係、eスポーツ選手には香りとコンディショニングの関係について、それぞれ実証実験に取り組み、その結果を公表しているのだ。
アスリートたちが愛用するトレーニングやエクササイズの機器には、コンディションを整えるのにいかに効果的かが実証されているものが数多くある。
「ベレアラボ」もしかりである。
科学的なエビデンス(証拠)を蓄積し、「ベレアラボ」を「コンディショニングツール」として捉え直す覚悟でいるのだ。
「ウェルビーイング」の意識の高まり
そして「ベレアラボ」への人々の関心が向かう後押しとなったのが、「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)」の考え方だろう。
昨今、職場や社会でその考え方が急速に広がりつつあり、生産性向上にもつながるとして、「ウェルビーイング」の向上に官民挙げた推進策が模索されているのだ。
大阪・関西万博(テーマはいのち輝く未来社会のデザイン)でも焦点が当たるテーマの1つになっている。
そんな意識の高まりが、「ベレアラボ」にふと注意が向かう気運を生んだのかもしれない。
そもそもロート製薬が「ベレアラボ」を起ち上げたのは「製薬会社として、香りから心身をサポートできる」という発想があったからだという(日経クロストレンド 2023.3.20)。
生まれながらにして「ウェルビーイング」を志向していたブランドだったのだ。
どんな香りがあるのか?
では「ベレアラボ」では実際にどんな香りを扱っているのだろうか?
「ベレアラボ」の公式オンラインストアをみると、香りのラインアップには室内用の「フレグランスオイル」13種類、「フレグランススプレー」には15種類がある(2024年2月時点)。
さらに「フレグランスオイル」には、別途、同じ13種類の「ディフューザー専用フレグランスオイル」もある。
これは後ほど説明する「ベレアラボ」オリジナルの「ナチュラルアロマディフューザー」や「ミニアロマディフューザー」で使うことを想定したオイルだ。
では実際にどんな香りがあるのか、いくつか例を挙げてみよう。
「マーマリング キンモクセイ(MURMURING KINMOKUSEI)」は、「道端でふと香る金木犀」のやさしい香りを忠実に再現した香りという。
名前にあるマーマリング(murmuring)は風・木の葉などの連続的なザワザワ、サワサワという音を指す。
また、「ハギング バニラ(HUGGING VANILLA)はまろやかな甘さのバニラの香りで、そっと包み込まれるような(ハグされるような)あたたかさを感じるという。
そのほか、イメージしやすいところではシトラスや、レモンティー、ジンジャー、コットンなどの香りもラインアップに加わる。
香りを選び方に迷ったらどうする?
しかし、香りをどう選んでいいかわからないという人もいるだろう。
そこでオンラインストアの「香り一覧」のページでは、興味をもったユーザーが自分の目的やシーンに合わせて香りを探しやすいよう、ひと工夫されている。
サイトには「なりたい気持ちから探す」「香りの種類から探す」「好みの香りから探す」のボタンが用意されているのだ。
たとえば「なりたい気持ちから探す」なら、「気持ちを上げたいとき」「気持ちをほぐしたいとき」「素直な気持ちになりたいとき」「創造力を高める」「魅力をひきだしたいとき」の5つにわかれ、そこからよりピンポイントの気持ちに合う香りが探せるようになっている。
ブランドの体験価値の1つとして、ユーザーに納得のいく香りを選んでもらうことを重視しているのだろう。
それゆえの「選択アーキテクチャー(選択肢の設計の意)」といっていい。
香りをどこでどう楽しむのか?
さらに「ベレアラボ」のヒットを支えているのが、香りをどんなシチュエーションでどう楽しむか、その使い方にバリエーションがあることだ。
たとえば、リビングなどの広い空間でしっかりと香りに包まれて過ごしたい時には「ベレアラボ ナチュラルアロマディフューザー」とフレグランスオイルを組み合わせて使う。
「ナチュラルアロマディフューザー」は公式オンラインストアでは13,200円(税込)と値も張るが、拡散力が強く3秒で生きた香りに包まれるという。
「ネブライザー式」といって空気圧でオイルをミスト状にして空間へ広げる噴霧方式のため、水や熱を加えるといった手間がかからない。
わずらわしい準備がいらないのは、日課としてほぼ毎日使いたい人たちには歓迎されるだろう。
スプレータイプの「フレグランススプレー」も使い勝手はいい。
部屋に数プッシュするだけで、ぱっと空間の雰囲気を変えられる。
ほんのりとした香りが楽しめるのだ。
とっさの来客時や気分転換したい時には恰好のアイテムだ。
ラバロック ミニ アロマディフューザーの実力
そして、ユーザーのニーズにきめ細かく応えようとする「ベレアラボ」の真骨頂が、手のひらに収まるほどの大きさの「ベレアラボ ラバロック ミニ アロマディフューザー」だろう。
「いつでも、どこでも。美しい香りと。」がコンセプトで、重さはわずか110gのため手軽に持ち運べる。
そして半径約1メートルほどのパーソナルスペースを一瞬にして自分好みの「香り空間」に変えられるのだ。
デスク回りや就寝時など自分の身の回りだけで香りを楽しむのには最適だろう。
出張や旅先、シェアオフィスなど場所を選ばず使える。
香りの届く範囲が限られるため、周囲への気兼ねがいらないのもいい。
名前に「ラバロック」とあるが、ラバ(Lava)とは溶岩のことで「ラバロック」は溶岩石のこと。
ディフューザーの蓋を開けるとなかに砕けた溶岩石が入っていて、そこにアロマを2〜3滴しみ込ませ、内臓のファンで香りを拡散させるしくみになっている。
しかもこの「ミニ アロマディフューザー」がほかにも嬉しい機能がある。
5層構造の空気清浄フィルターによる「空気清浄機能」だ。
ホコリや花粉をキャッチし、空気そのものもきれいにしてくれるという。
公式オンラインストアの説明によれば、スギ花粉を99.9%除去し、香りの吹き出し口からはマイナスイオンも発生する。
香りの濃さは「強」と「弱」の2段階で調整できるが、「弱」モードであれば、3時間の充電で14時間使用できるという。
「香りのサブスクプラン」—ジョブスペックの拡充へ
また、「ベレアラボ」は香りを定期便で届けるというサービスも開始している。
「香りのサブスクプラン」という名称だ(PR TIMES 2022. 11.1)。
同プランでは6種類の人気フレグランスオイルが対象となり、そのうちの2つの香りが、2ヵ月に1回届く。
2つの香りの組み合わせはユーザーが自由に決められるという。
しかも、1ヵ月使い切りの限定サイズで過剰包装を排したため、2本分を4,980円(税込)で購入できる。
通常より30%ほど割安になっており、6種類の香りを短いサイクルであれこれ楽しめるしくみになっているのだ。
単発利用ではなく同ブランドの継続的な利用(習慣化)を促すために「ベレアラボ」が仕掛けたのである。
同プランを始めた背景には、愛用者の声があったという。
季節や時間帯、使用場所、自分のコンディションに応じて複数の香りを使い分けたい意向はあるものの、フレグランスオイルを使いきれない、複数購入するときのコストが気になるとの声が届いていたのである。
口コミの活況、ロングセラーの兆し
ロート製薬といえば、日本を代表する化粧品メーカーがしのぎを削るスキンケア市場に割って入り、「肌研(ハダラボ)」を強力なロングセラーに育て上げた実績をもつ。
「ベレアラボ」はマスメディアを駆使した派手な広告に打ってでることはないが、口コミを投稿する人と検索する人が引きも切らない。
「ウェルビーイング」の意識の高まりとも相まって、それだけ人々の関心を引く磁力を備えたブランドなのだ。
おそらく、「ベレアラボ」もユーザーの声に耳を傾けながら、たえず改善を加え、香りのラインアップのみならず、使い方のバリエーションも含め、様々な進化を遂げていくだろう。
果たして、どこまで潜在ユーザーを開拓し、熱心なリピーターを増やしていくか?
新たなカテゴリーを創造したブランドだけに、今後の展開を注視することになりそうだ。