バーナム(フォアラー)効果 なぜ、広告やマーケティングに多用されるのか?

バーナム効果 フォアラー効果 フリーサイズ効果
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「バーナム効果」(ファラオ―効果)とは誰にでも当てはまりそうなことなのに、自分のことだけを言い当てていると感じる現象をいう。

一瞬にして相手を信じ込ませる心理テクニックの一つで、占いや心理テスト、初対面との相手との商談などが典型的な活用シーンだ。

その一方、瞬時に自分事化を誘えるため、マスプロダクトの広告コミュニケーションでも多用されている。

心理的な“マスカスタマイゼーション”の効果が期待できるのだ。

目次

誰にでも当てはまることを自分ごと化

謝っても謝りきれないあなたへ

いつだったか日本経済新聞の夕刊でそんなタイトルの記事を見つけ、思わずハッとなった記憶がある。

ロックバンド「クリープハイプ」のギターボーカルで、小説家としても知られる尾崎世界観さんが新聞に寄せたエッセイのタイトルであった。

後から知ったが、彼の書いた小説「母影」は芥川賞の候補作にも選ばれているという。

ネタバレになるため、詳細には触れないが、そのエッセイには思春期の頃に尾崎さんが身近な友人を傷つけてしまった強い悔恨の念が吐露されていた。

今でも思い出すと後悔してもしきれないという。

そんなタイトルに目を留めた人の中にも、他人事とは思えない身につまされるものを感じ、引き込まれるように記事を読み進めた人もいただろう。

ひょっとしたら、記憶の中に封印していた、ずっと謝りたいと思っていた人がふと頭をよぎっていたかもしれない。

タイトルの「あなたへ」というのも、エッセイに出てくる尾崎さんが罪の意識を感じる友人ともとれるし、読者への呼びかけのようにもとれる。

どちらにでもとれる曖昧さがまた、想像力を掻き立て、いっそう感情移入を誘うのだ。

そんな一瞬にして受け手の自分事化を誘う表現の魔力と遠からぬ関係にあるのが、今回取り上げる「バーナム効果」である。

「バーナム効果」とは誰にでも当てはまりそうなことなのに、自分のことだけを言い当てていると感じる現象をいう。「フォアラー効果」「フリーサイズ効果」という言い方もするようだ。

占いや性格診断で多用される「バーナム効果」

「バーナム効果」が発揮される典型的なシーンといえば占いや心理テスト、血液型診断などだろう。

その結果を知って「確かにそうだ」「ズバリ当たっている」と感じてしまい、自分の内面がなぜここまでわかるのかを不思議に思った経験を持つ人も少ないないはずだ。

占い師 手相 バーナム効果

たとえばよく当たると評判の占い師から「あなたは人間関係のストレスで少しお疲れのようですね。」と言われると、自分の内面を見透かされた気持ちになってしまう。

冷静に考えれば、人間関係に悩むぐらい誰だってあるにもかかわらずだ。

占い師を職業とする人たちは、ほぼ誰にでも当てはまって、それでいて「どうしてそこまでわかるんだろう?」と相手を信じこませる常套句をいくつか持ち合わせているという。

そうした一瞬にして相手の心を掴むキラーフレーズ「ストックスピール」(「ストック」は蓄積や手持ち、「スピール」は客寄せ口上の意)というらしい(ダ・ヴィンチ、2017. 10.21)。

数多くの質問項目に答え、適性や性格などを診断する心理テストも「バーナム効果」の出番となる。

「生かしきれていない才能をかなり持っている。」

「ふだんは社交的に振舞っていても、用心深く慎重な一面を併せ持つ。」

性格診断結果と称して、そんな記述を読ませられたら、やはり「確かに自分にはそういう面がある」と思わずうなずいてしまう人も出てくるだろう。

実はこの性格診断に関する2つの記述は「バーナム効果」を検証した心理学の実験で実際に使われたものである。

心理テスト 性格診断

アメリカの心理学者バートラム・フォアが行った実験で、被験者である学生たち一人ひとりに性格診断テストを行い、その診断結果を知らせる。

診断結果には先に触れたような「生かし切れていない才能を持つ」「社交的でありながら慎重な面もある」といった性格に関する記述が10項目ほどある。

そして、学生たちに各項目がどの程度当たっているかを、0(まったく当たっていない)~5(非常に当てはまる)の5段階で評価してもらったという。

平均点は4.26とかなりの高評価だった。学生たちが診断結果が自分のことをほぼ正確に言い当てていると感じていたことになる。

ところが、実は、個別の診断結果に思えたその記述は、事前の性格診断テストとはまったく無関係の、フォアが既存の星占いから勝手にとってつくったものだった。

しかも、全員に同じ説明文が渡されていたという。それでも学生たちは自分のことを見事に言い当てているように感じたのだ。

「バーナム効果」がはっきりと検証されたのである。

ちなみに「バーナム効果」はこの実験を行った心理学者バートラム・フォアの名前にちなんで「フォアラー効果」と呼ぶこともあるらしい。

なお、バーナムという名前はまた別の心理学者であるポール・ミールがそう命名したという。

バーナムは19世紀にサーカスの興行師として世界中に名を馳せたフィニアス・テイラー・バーナムから来ている。

その彼は「万人が喜ぶツボがあるんだ(We’ve got something for everyone.)」という言葉を残したことでも知られる。

大ヒットミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」は、このバーナムを主人公とした作品だという。

なぜ、「バーナム効果」は起こるのか?

ではなぜ、バーナム効果なる現象が起きるのだろう? 

誰にでも当てはまる、ごく一般的なことなのに、バートラム・フォアの実験に参加した学生たちのように、なぜ自分のことを正確に言い当てていると錯覚してしまうのだろうか?

一説には人がコミュニケーションを行う際の並外れた認知能力が絡んでいるという。

あいまいな会話

人がコミュニケーションをとるとき、できるだけ効率よく少ない負担でやりとりが進むように、相手の言うことを推論や解釈を交えて理解に努めようとするらしい。

そのため、たとえば「あれはそれだったんだ!」でも会話が成り立つのだ。

「あいまいな会話はなぜ成立するのか」(岩波書店、2020年)にこんなくだりがある。

「コーヒー飲む?」
「明日、朝が早いんだ」

字面(じづら)だけ追うとかなりちぐはくな会話に思えるが、私たちはその意味合いを理解するのにさほど苦労しない。

まして同じ文脈を共有している人同士であれば、もっと容易に分かり合えるだろう。

聞き手が最大限に自分の経験や知識を駆使し、相手を理解しようとし、話し手もまた相手が理解できるように相手が持つ経験や知識を慮(おもんばか)って話す。

この能力が自然に発動されるため、自分の占いや心理テストの結果を見聞きした際、これは「あの時の自分の、あのことを言っているんだ」などと、自分の経験や知識を絡めとるように読み込んでいくのだ。

それゆえ、自分のことを言い当てていると錯覚してしまう。

このプロセスはほぼ無自覚で進むため、その説明を「当たっている」と感じるように能動的に解釈していることに当の本人は全く気づかない。

ズバリ言い当てられてハッとするのも、実は自作自演の妙技にと胸をつかれているのに過ぎず、「当たっている」というより自ら「当てにいっている」ようなものなのだ。

冒頭の「謝っても謝りきれないあなたへ」のタイトルに引き込まれた人は、卓越した認知能力が自然に発動し、思わず自分を重ね、共感してしまったのだろう。

封印していた自らの痛恨の想いを呼び起こしていたとも考えられる。

さらに、「バーナム効果」が引き起こされる要因がもう一つある。「自己認知欲求」の後押しだ。

特選街webの2022年4月30日の記事によれば、「自己認知欲求」とは自分のことを知りたいと思う欲求を指し、自分がすでに自覚している自分のことを再確認したいとする「自己確認」と、自分では自覚していない、自分の新たな局面を知る「自己拡大に分かれるという。

この2つの相互作用によって「バーナム効果」が助長されるらしい。

「自分はこうだ」と思っていることと一貫した情報が得られることにも満足し(自己確認)、もやっとして気づかずにいた、自分の新たな局面をズバリ言い当てられるのも悪い気はしない(自己拡大)

占いや心理テストの結果を、自ら当てにいくように解釈するのも、心の満足を得たいがゆえなのだ。

パーソナルに、ポジティブに、そしてあいまいに

この「バーナム効果」をよりいっそう高めるために、いくつか押さえておくべきコツがある。

まず、誰にでも当てはまる一般的なことにせよ、よりパーソナルに個別の情報として相手に伝えることだ。自分に向けて、自分だけに言っていると感じてもらうことがポイントとなる。

前述したバートラム・フォアの実験でも、フォアは学生たちに、事前に一人ひとりが答えていた性格診断の結果だと偽って渡したことが、自分のことが正確に言い当てられていると信じ込んだ一因だろう。

占い師の言うことが妙に信ぴょう性があると感じられるのも、手相を見る、あるいは生年月日や字画で占うなど、パーソナルな一定の儀式を踏んだあとに告げられることが大きく貢献している。

また、できるだけ相手のポジティブな側面をいい当てるようにするのもいい。

「バーナム効果」にはプラスに働く。人は自分のポジティブな側面を指摘されるほうが嬉しいし、それを正当化する情報をより歓迎する。

そしてそのポジティブな評価に符合する過去の記憶を呼び起こして行間を読もうとするため、結果的にその指摘が当たっているという錯覚が起こりやすくなるのだ。

さらに言い方にもコツがある。できるだけ多重の解釈を許す、あいまいな表現を使うようにするのだ。受け手が都合よく解釈できるよう幅を持たせることである。

「いろいろとお悩みのようですね」「長らくお悩みだったのでしょう」という言い方をするほうがよい。

「いろいろと」「長らく」は多分にあいまいなため、自分の経験に即するように解釈することが容易になる。

ロールシャッハテスト マルチプルアウト 二面性

バートラム・フォアの実験で学生に知らせた性格診断に、「ふだんは社交的に振舞っていても、用心深く慎重な一面も併せ持つ。」というのがあったが、こうしたコインの裏表のような二面的な表現も効果的だ。

両極を押さえた表現ならグレーゾーンも含めてその振れ幅は大きく、どちらに転んだとしても正解となる。

そして「○○といった一面もある」「○○しやすい傾向がある」「○○のときもある」といった断定を避ける表現を添えれば、むしろ外れることのほうが難しい。

こうした曖昧性を残す言い方を総称して「マルチプルアウト」と呼ばれており、「バーナム効果」とは相性がいい。

バーナム効果とコールド・リーディング

ここまでもっぱら占いや性格テストの例を挙げてきたが、実は「バーナム効果」は営業行為を伴うようなビジネスシーンでも盛んに活用されている。

その一例が「コールド・リーディング」という、初対面の相手との商談などで使われる心理テクニックだ。

「コールド・リーディング」とは、ウィキペディアによれば、外観を観察したり何気ない会話を交わしたりするだけで相手の内面を言い当て、一瞬にして信頼を勝ち取る話術や観察法をいう。

「コールド」とは「事前の準備なしで」、「リーディング」とは「相手の心を読みとる」という意味らしい。

言い当てられているとの錯覚を促す「バーナム効果」は、「コールド・リーディング」の代表的なテクニックとして使われている。

「バーナム効果」を上手に使えば、ラポール(互いに親しい感情が通い合う関係)を形成し、信頼を勝ち取り、売り込もうとしている商品が自分のためにあるように思わせることができる。

占い師や霊媒師のようにテクニックとして意識的に使っているとは限らないが、優秀なセールスパーソンほど、ものの数分の会話を交わすぐらいで、初対面の商談相手の懐にすっと入り込む術(すべ)を心得ているものだ。

「バーナム効果」を自然に用いているといえる。

「あるある」ネタを連発する広告

では、マスプロダクトを扱うマーケターにも「バーナム効果」は役に立つのだろうか? 

売り込む相手は、年代やライフステージなどである程度セグメントされていたとしても、不特定多数であり、セールスパーソンのように1on1に持ち込めるとは限らない。

しかし、実は「バーナム効果」はマスプロダクトの広告コミュニケーションの世界でも極めて万能なのだ。

マスメディアかネットの広告は問わず、一瞬にして消費者の自分事化を誘う手法として幅広く使われている。

たとえば通信販売やテレビショッピングなどの広告で以下のような宣伝文句に耳馴染みはないだろうか? 

「○○に悩んではいませんか?」

「○○をあきらめてしまっていませんか?

「○○を勘違いしていませんか?」

いわゆる「あるある」ネタでう呼びかけて注意を引きつけ、自分事化を誘おうとしているのだ。

該当する人は大勢いるはずなのだが、往々にして自分に向けて言われているように感じてしまう。

本ブログの以前の記事でも述べたが、その呼びかけに「人生100年時代」のように不安を想起させるような表現をセットにすると自分事化をいっそう促せるだろう。

そして、冒頭のエッセイタイトル「謝っても謝りきれないあなたへ」のように、「〇〇なあなたへ」という表現も「バーナム効果」を引き出す常套句の一つだ。「〇〇している、そこのあなた!」というのもあるだろう。

ここで広告コピーの例を挙げてみよう。

「風邪でも、絶対に休めないあなたへ。」

少し前になるが、エスエス製薬の風邪薬「エスタックイヴ」シリーズで使われていた広告コピーだ。

とても他人事とは思えず、グッと来るものを感じる人もいるだろう。

コロナ禍でこそ風邪の症状があれば仕事を休むのが常識となったが、少しぐらいの風邪で外せない状況は誰もが経験することであり、バーナム効果が発揮された広告コピーの一つといえる。

実はこの広告コピーは働き方改革の流れに逆行しているとの見解から、コピー変更を求める署名も起ち上がったという。

さらにもう一つ、以下のANAのテレビCMのコピーがある。

「大切な人、 大切な場所を想って、旅から遠ざかっていたあなたへ。 おかえりなさい。」

ANA

コロナ禍の自粛生活で旅から遠ざかっていた人に向けて空の旅を誘う内容だ。

誰もが我慢を強いられていたタイミングであり、空の旅など考えていなかった人の中にも、身につまされるものを感じた人もいたであろう。

まさに今の自分を言い当てているように聞こえてしまう。

今や消費者ニーズは多様化・細分化を極めるが、それでもある時、ある状況で、共通の想いに駆られ、ふと一斉に大衆がシンクロする瞬間がある。

そんなタイミングを見計らえば「バーナム効果」はいっそう高められる。ANAの広告コピーはそんな例の一つだろう。

パン好きの牛乳に潜む「バーナム効果」

ここまでマスプロダクトで「バーナム効果」が発揮されたであろう広告表現の例を挙げてきたが、本ブログでも同様の効果が期待できるブランドを取り上げている。カネカの「パン好きの牛乳」だ。

明治や森永乳業、雪印メグミルクといったそうそうたるロングセラーブランドが先行する牛乳市場で、「パン好き」のための牛乳と銘打って差別化し、果敢に寡占市場に挑んだブランドである。

生産地や製法を訴求してきた従来の老舗ブランドに比べるとかなり尖った切り口で、ニッチを狙っているようにも思える。

しかし、実はそうでもない。「パン好き」の意味合いが適度なあいまい性があることがポイントだ。

パン好きか否かと問われたら、パンを美味しいと思って食べた経験の一つや二つ、誰だって脳裏をよぎるため、「まぁ好きな方だ」と答える人も多いだろう。

そのため、「パン好きの牛乳」というネーミングは見かけほどターゲットを絞り込んでいないのだ。

今後、ブランドの知名度が上がり、より耳目に触れるようになれば、いつしか「バーナム効果」が引き出され、自分向けのブランドだと感じ始める人も増えてくるだろう。

「バーナム効果」 万人が喜ぶツボを求めて

「バーナム効果」の名前はサーカスの興行師として知られるフィニアス・テイラー・バーナムから来ていることは先に触れた。

その彼は「万人が喜ぶツボがあるんだ(We’ve got something for everyone.)」と述べたとされているが、その言葉を今を生きるマーケターたちは導きの糸とすべきだろう。

「そこのあなたに!」といった打ち出し方を工夫しつつ、万人受けを狙って確実にヒットを掘り当てるやり方もあると示唆してくれている。

本ブログの「ゴルディロックス効果」の記事にも書いたが、比較対象となる競合品との関係において、ちょうど真ん中、「過剰」も「不足」もない、ほどほどのバランスを保った「中庸」のポジショニングを狙うのはマーケターの勝ちパターンの一つだ。

そこにさらに「バーナム効果」を狙いすました表現を用いることで、自分だけの商品のように感じさせることは決して難しくない。

大量生産の生産性は担保しつつ、個々の顧客ニーズに対応することを「マス・カスタマイゼーション」というが、「バーナム効果」はまさに心理的な次元での「マス・カスタマイゼーション」といえる。

そんなアプローチをいつか現実のものとするためにも、マーケターなら「バーナム効果」なる心理効果を頭の片隅に入れておくといいだろう。

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