高額で敷居の高いフィットネス業界に、「簡単、便利、楽しい」という親しみやすさで革命を起こしたチョコザップ。
月額2,980円という破格の料金と着替え不要のコンビニ感覚で、わずか2年で130万人の会員を獲得した背景とは。
様々な業界の優れたコンセプトを日々分析するシリーズとして、その戦略性から市場への影響まで多角的に検証する。
1.chocoZAP(チョコザップ)とは?
RIZAPグループが2022年に開始した“セルフ”フィットネスジム。
従来のフィットネスジムが「本格的なトレーニング」「ストイックな努力」を前提としていたのに対し、「1日5分からの運動」「着替え不要」「コンビニ感覚」というアプローチで、運動への心理的ハードルを大幅に下げることを目指している。
単なる低価格ジムではなく、「運動に苦手意識がある層」や「忙しくて時間がとれない層」をターゲットに、フィットネスそのものを再定義した革新的コンセプトだ。
2.コアコンセプト
3.コンセプト評価
- 独創性:★★★
- フィットネス業界の常識を覆す「ゆるい系」アプローチで差別化
- 魅力度:★★★
- 運動嫌いの潜在層に響く親しみやすさと安心感
- 完成度:★★★
- アプリ連動とサービス統合で一貫した体験を実現
- 時代性:★★★
- タイパ重視とヘルスケア意識の高まりに完全合致
- 影響力:★★★
- 業界全体のビジネスモデル変革をもたらす可能性
※評価軸について
- 独創性:他との差別化、新規性、アイデアの斬新さ
- 魅力度:ターゲットへの訴求力、感情的インパクト
- 完成度:コンセプトが実際の商品・サービスで適切に体現されているか
- 時代性:社会トレンドや時代背景への適合性
- 影響力:市場や社会への波及効果、文化的意義
ハードルの高いフィットネスを「身近な日常行動」に変えた画期的なコンセプト転換が光る事例。
わずか2年で130万人という圧倒的な支持を集め、フィットネス業界の常識そのものを変革している。
4.誕生背景
RIZAPグループは高額パーソナルトレーニングで成功を収めた一方で、より幅広い層へのアプローチが課題となっていた。
国内フィットネス市場は約4,500億円規模だが、実際にジムを利用している人口は全体の3.3%程度に留まり、「運動したいが続かない」という潜在ニーズが膨大に存在していた。
特に注目したのが、従来のジムに通っていない「運動に苦手意識がある層」と「忙しくて時間がとれない層」だ。
この層の声を分析すると「着替えが面倒」「人目が気になる」「続けられるか不安」といった心理的ハードルが利用を阻んでいることが判明。
さらにコロナ禍を経て健康意識は高まったものの、手軽さと継続性を重視する「タイパ(タイムパフォーマンス)」志向が強まっていた。
そこでRIZAPが培った継続支援ノウハウと最新テクノロジーを融合し、フィットネスの概念を根本から見直したのが「簡単、便利、楽しい」というアプローチだった。
5.コンセプトの特徴分析
「簡単、便利、楽しい」という一見シンプルな表現には、フィットネス業界を変革する戦略が巧妙に織り込まれている。
3つの視点から分析してみよう。
注目ポイント1:フィットネスの再定義による新規市場創出
このコンセプトの最大の革新性は、「本格的なトレーニング」から「日常的な健康習慣」への価値転換にある。
従来のフィットネスジムは「理想の身体づくり」「ストイックな努力」を前提としていたが、チョコザップは「ちょっとした運動習慣」という新カテゴリーを創出している。
特に「1日5分からの運動」という表現は、完璧な運動を求めない「ゆるい系」へのアプローチを明確化。
これによりフィットネス未経験者の心理的ハードルを劇的に下げ、これまで取り込めなかった96.7%の潜在市場にアプローチしている。
注目ポイント2:物理的・心理的ハードルの徹底排除
「簡単、便利」の実現において注目すべきは、利用におけるあらゆる摩擦の排除だ。
着替え不要、靴の履き替え不要という物理的ハードルの除去に加え、「人目を気にしない」「完璧を求めない」という心理的安全性の提供が巧妙だ。
さらに24時間365日利用可能、混雑状況のアプリ確認、無人運営による気軽さなど、「コンビニ感覚」での利用を徹底追求。
これは単なる利便性向上ではなく、フィットネスを「特別な行為」から「日常の延長」に変える戦略的転換を意味している。
注目ポイント3:テクノロジーを活用した利便性革命
「楽しい」の実現においては、デジタル技術の活用が際立っている。
専用アプリでの入退会、混雑状況確認、マシンの使い方学習など、すべてをスマートフォンで完結させることで、手続きの煩わしさを完全に排除。
さらに体組成計やヘルスウォッチとの連動により、運動の成果を可視化し、継続のモチベーション向上を図っている。
これは単なる効率化ではなく、「健康管理のプラットフォーム」としての価値提供を実現している。
6.他業界への応用可能性
この「敷居の高いサービスの大衆化」コンセプトは他分野でも応用が期待できる。
教育業界の「気軽に学べる大人の学習」、美容業界の「日常的なセルフケア」、金融業界の「身近な資産運用」など、専門性が高く心理的ハードルの存在する領域での差別化戦略に適用可能だ。
重要なのは、単なる簡便化ではなく、顧客の潜在的な「やりたいけどできない」ニーズを的確に捉え、物理的・心理的ハードルを同時に解決している点である。
7.コンセプト言語の戦略性
このコンセプトの言語戦略で注目すべきは、「簡単、便利、楽しい」という日常語の選択だ。
「効率的」「革新的」といった専門的表現ではなく、誰もが理解できる平易な言葉を使うことで、ターゲット層との心理的距離を縮めている。
また3つの価値の並列提示も戦略的だ。
「簡単」で心理的ハードルを下げ、「便利」で利用の摩擦を排除し、「楽しい」で継続のモチベーションを提供するという、利用プロセス全体をカバーする設計になっている。
さらに「ゆるい系」「コンビニ感覚」といった補助的表現により、従来のフィットネスとは異なる親しみやすさを強調し、新たな利用体験を予感させている。
8.体験・入手方法
- 開始日:2022年7月
- 料金:月額2,980円(税込3,278円)
- 店舗数:1,700店舗以上(2024年時点)
- 利用時間:24時間365日
- 特徴:着替え不要、全店舗利用可能
- 付帯サービス:セルフエステ、脱毛、ネイル等も利用可能
話題のブランドコンセプトを徹底分析するシリーズ。新商品・新サービスから既存ブランドのリニューアルまで、注目を集めるコンセプトの戦略性と仕組みを解き明かしている。
独創性・魅力度・完成度・時代性・影響力の5軸で評価し、なぜそのコンセプトが響くのか、どんな工夫が込められているのかを分析。顧客の心をつかみ、競合との差別化を実現する「価値の約束」をつくるヒントを、マーケティング実務者に提供することを目指す。