花王メリットの「家族愛シャンプー」|ブランドコンセプト分析

花王メリットの「家族愛シャンプー」|ブランドコンセプト分析

機能性や香りで差別化を図るヘアケア市場の中、「家族愛」という感情価値で勝負を挑む花王メリットの大胆なリブランディング。

発売55周年を迎える老舗ブランドが、なぜ今「家族」というキーワードに全てを賭けたのか。

様々な業界の優れたコンセプトを日々分析するシリーズとして、その戦略性から市場への影響まで多角的に検証する。

目次

1.花王メリットのリブランディング

花王が2025年3月25日にリブランディングした主力ヘアケアブランド「merit(メリット)」。

発売55周年を迎える「家族シャンプー」として親しまれてきた同ブランドを、「”やさしさ・安心感・清潔”を届ける”家族愛”ブランド」として再定義。

「自然体で思いやりにあふれた生活をしたい」顧客ニーズに応え、家族とのつながりや時間を大切にする価値観を商品コンセプトの中核に据えた。

2.コアコンセプト

家族愛シャンプー

3.コンセプト評価

コンセプト評価
  • 独創性:★★☆
    • 「家族」訴求は既存だが「愛」との組み合わせで新鮮さを創出
  • 魅力度:★★★
    • 感情的インパクトが強く、幅広い年代に響く普遍性
  • 完成度:★★★
    • CMシリーズとの連動で一貫したブランド体験を実現
  • 時代性:★★★
    • コロナ禍を経た家族重視トレンドに完全合致
  • 影響力:★★☆
    • マス市場での新たな競争軸創出に期待

評価軸について

  • 独創性:他との差別化、新規性、アイデアの斬新さ
  • 魅力度:ターゲットへの訴求力、感情的インパクト
  • 完成度:コンセプトが実際の商品・サービスで適切に体現されているか
  • 時代性:社会トレンドや時代背景への適合性
  • 影響力:市場や社会への波及効果、文化的意義

機能性から「情緒性」へのコンセプト転換が光る事例。

55年という歴史を武器に、コロナ禍で再注目された家族の絆を商品価値の中心に据え、マス市場での新たな競争軸を提示している。

4.誕生背景

花王は「髪の生きる力を、人の生きる力へ」の事業ビジョンのもと、ヘアケア市場での存在感向上を目指しブランドフォーメーションを再編している。

特にマス市場(1,400円未満)では、機能性や香りでの差別化が限界に達し、新たな競争軸が求められていた。

そこで注目したのが、コロナ禍を経て高まった「家族との時間」への関心だ。

同社調査で明らかになった主要顧客像は「自然体で思いやりにあふれた生活をしたい」ニーズを持ち、家族とのつながりを重視する層。

ヘアケアにおいても「髪や地肌にやさしい洗い心地」や「家族みんなが気持ちよく使える」ことを求める傾向が判明した。

「家族シャンプー」として55年間親しまれてきた歴史的背景を活かし、感情ニーズを起点とした価値再定義に踏み切った。

5.コンセプトの特徴分析

「家族愛シャンプー」というシンプルな表現の裏には、マス市場での生存戦略が緻密に計算されている。

3つの視点から分析してみよう。

注目ポイント1:機能から感情への大胆な軸足移動

このコンセプトの最大の特徴は、ヘアケア市場の主戦場である「機能性」から「感情価値」へのポジション転換にある。

従来のマス市場シャンプーは「ダメージ補修」「さらさら感」といった機能的価値での差別化が中心だったが、meritは「家族への愛情表現」という感情的価値を前面に押し出している。

特に注目すべきは、「愛」という抽象的概念を商品コンセプトの核に据えた点だ。

通常、日用品では避けられがちな情緒的表現を敢えて採用することで、他ブランドとの明確な差別化を実現している。

注目ポイント2:マス市場での差別化戦略

「家族愛」という表現は、価格競争が激しいマス市場において、価格以外の競争軸を提示する戦略的意味を持つ。

1,400円未満という価格帯では機能性での差別化に限界があるが、「家族への思い」という感情価値は価格に左右されない普遍的な訴求力を持つ。

メリットは単なる洗髪剤ではなく、「家族への愛情を表現するツール」としてポジショニングすることで、機能性重視の競合他社が参入しにくい独自領域を確保している。

これは価格競争からの脱却を意味する画期的な戦略転換だ。

注目ポイント3:55年の歴史を活かした価値再定義

長年「家族シャンプー」として親しまれてきた歴史的背景を活かした巧妙な戦略展開が見事だ。

既存の「家族で使える」という機能的価値から「家族への愛を表現する」という感情的価値への昇華は、ブランドの持つ資産を最大限に活用している。

特に「家族と愛とメリット」CMシリーズとの連動により、商品とコミュニケーションが一体となったブランド体験を創出している点が秀逸だ。

単なる商品改良ではなく、55年という信頼の蓄積を新たな価値創造の基盤として活用している。

6.他業界への応用可能性

この「日常商品の感情価値化」コンセプトは他分野でも応用が期待できる。

食品業界の「家族の絆を深める食卓」、住宅業界の「家族愛を育む空間」、自動車業界の「家族との時間を大切にする移動手段」など、機能的価値が飽和した成熟市場での差別化戦略に適用可能だ。

重要なのは、単なる感情訴求ではなく、商品の持つ歴史的背景と顧客の潜在ニーズを的確に結びつけることで説得力を高めている点である。

7.コンセプト言語の戦略性

このコンセプトの言語戦略で注目すべきは、「愛」という言葉の選択だ。

「家族用シャンプー」「ファミリーシャンプー」といった機能的表現から、「家族愛シャンプー」という感情的表現への転換により、商品カテゴリーそのものを再定義している。

「愛」という強い感情ワードを商品名に直接組み込むことで、購買動機を機能性から感情価値へとシフトさせる効果を狙っている。

この「家族愛」というネーミングは、日常的な洗髪行為が「愛情表現の機会」に変わるという価値転換を、シンプルな言葉の組み合わせで表現している。

さらに「やさしさ・安心感・清潔」という3つの価値を明示することで、感情的訴求だけでなく機能的価値も担保し、商品選択の合理性を提供している。

体験・入手方法

  • 発売日:2025年3月25日
  • 対象商品:「merit」「merit kid’s」改良版
  • 価格帯:マス市場(1,400円未満)
  • 特徴:家族みんなが使える「やさしい洗い心地」
  • コミュニケーション:「家族と愛とメリット」CMシリーズ展開中
本連載について

話題のブランドコンセプトを徹底分析するシリーズ。新商品・新サービスから既存ブランドのリニューアルまで、注目を集めるコンセプトの戦略性と仕組みを解き明かしている。

独創性・魅力度・完成度・時代性・影響力の5軸で評価し、なぜそのコンセプトが響くのか、どんな工夫が込められているのかを分析。顧客の心をつかみ、競合との差別化を実現する「価値の約束」をつくるヒントを、マーケティング実務者に提供することを目指す。

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