「スーツはこうあるべき」という常識が、いま静かに揺らぎ始めている。
堅すぎず、ゆるすぎず。
フォーマルとカジュアルの中間に位置しながらも、決して中途半端ではない。
きちんと見えて、肩が凝らない。
洗えるのに、安っぽくない。
そうした一見相反する価値を、さりげなく両立しているスーツがある。
それが、オリヒカの「THE 3rd SUITS®(ザ・サード・スーツ)」だ。
2015年の誕生以来、「第三の選択肢」として存在感を高めてきたこのスーツは、オリヒカの単なる新ラインではない。
働き方、価値観、生活スタイルが変化する現代において、装いそのものの意味を再定義する提案であり、「自分らしさ」と「きちんと感」は共存しうるのか、という問いに対する一つの答えでもある。
本記事では、「THE 3rd SUITS®」がなぜ今、あらためて注目されているのかを明らかにするとともに、その設計思想、縫製、素材、サイズ展開、シリーズごとの特徴、ユーザーのリアルな声までを多角的に掘り下げていく。
第1章:スーツは、いま“第三の選択”へ
「サード」という言葉が示す、新しい価値のかたち
「第三の○○」「サード○○」という言葉を、近年あちこちで耳にするようになった。
たとえば、ビールやコーヒー、働き方や居場所のあり方にまで、この“第三”の波は各方面から押し寄せている。


第一の選択肢は「従来の定番」、第二は「それに対する対抗や改革」、そして第三は、そのどちらでもない「新しいバランス」や「柔軟な視点」を提示するものだ。
言い換えれば、“サード”とは、既存の対立構造を超えて、今の時代にふさわしい価値を探る言葉である。
単なる代替品ではなく、「あ、これかも」と思わせる“今っぽさ”と“ちょうどよさ”を備えているのが特徴だ。
先駆けとなった「THE 3rd SUITS®(ザ・サード・スーツ)」
そんな「第三の選択」は、近年、スーツという装いの世界でも静かに地位を築きつつある。
その先駆けとなったのがAOKIの若者向け店舗「オリヒカ」の展開する「THE 3rd SUITS®(以下、サードスーツ)」だ。

2015年の発売以来、スーツの伝統的なスタイルやきちんと感を尊重しながらも、より柔らかく、自由で、多様な価値観にフィットする現代の基準としてのあり方を模索してきた。
特定のスタイルや従来のルールを否定するのではなく、これまでのビジネスウェアが築いてきた信頼感と、ライフスタイルに求められる柔軟性や快適性を、一つの軸として融合しているのだ。
現代の働き方や暮らし方が変わるなかで、「スーツとは何か」という問いそのものが再定義されている今、サードスーツは、単なる製品ではなく、「装いの選択肢が多様になる時代」の象徴的存在として、ゆっくりと、しかし確実に定着しつつある。
第2章:「第一」「第二」、そして“第三のスーツ”へ
では、この「第三のスーツ」という発想がどのようにして生まれたのか?
その背景と進化の流れを紐解いてみよう。
変わりゆく働き方と、装いの意味の再定義
スーツは、長らく「正装」としての役割を担ってきた。
それは、信頼、誠実、威厳といった価値を視覚的に表現するための記号であり、社会のルールでもあった。
このような伝統的なスーツを、仮に“第一のスーツ”と呼ぶならば、その対極として登場したのが、軽量性やストレッチ性などの機能性を追求した“第二のスーツ”だった。

「着やすさ」「動きやすさ」「扱いやすさ」といった快適性を備え、スーツは少しずつ“働きやすい服”へと形を変えてきた。
しかし近年、社会の構造そのものが大きく揺れ動き始めている。
リモートワークの普及、副業や複業、フレックスタイム制の浸透……働き方の自由度が増す中で、人々の暮らしと仕事は、もはや完全に切り分けられるものではなくなった。

こうした状況の中で、「仕事着」としてのスーツと、「日常着」としてのカジュアルウェアのどちらでもない、“中間的で柔軟なスタイル”を求める声が、静かに、しかし確実に広がってきた。
2015年「第三のスーツ」の誕生
そのニーズに応える形で、2015年にオリヒカが送り出したのが、サードスーツである。
コンセプトは「ゆるすぎず、堅すぎない」。
ポリエステル混紡による上質な機能性素材を使用し、ストレッチ性や軽量性に優れ、しかも肩回りの軽やかな動きを実現したアンコン仕様。

しかも価格は手が届きやすく、上下で揃えても3万円もしないのだ。
“ビジネスウェア”としての枠組みを抜け出し、「自分らしい装い」と「社会的な場面」が両立できる選択肢となったのだ。
2022年のブランドリニューアル
そして2022年に、サードスーツはブランドを再構築し、「服は暮らしの一部」という視点からの設計思想が深められることになる。
時代はリモートワークと出社、カフェワークと打ち合わせ、通勤とプライベートと、目まぐるしく「日常」と「仕事」が交差する局面に突入。
「オン/オフを行き来できる柔軟さ」がますます求められるようになっていたのだ。
肩の力を抜いたデザインでも整って見えるシルエット。
スニーカーとも合わせられる許容性を備えながらも “仕事の顔”として通用する信頼感。

サードスーツは、そんなせめぎ合うニーズを先取りする存在に進化したのである。
機能性だけではなく、「どんな空間で、どんなふうに過ごすか?」までを見据えたスーツ設計が施されるようになったのだ。
たとえば以下のような視点がその端的な表れだろう。
- 洗濯機で丸洗い可能な素材
- 着崩れしにくいパターン設計
- 家からオフィス、外回り、カフェまでを1着でまかなえるスタイル
装いが“生き方”に近づくとき
「装うこと」と「生きること」の距離を、ここまで縮めたスーツは他にないだろう。
サードスーツに込められたのは、単なる“もう一つのスーツ”ではなく、「働き方や価値観の多様性を、そのまま着られる服」という新たな哲学だ。
つまりフォーマルでもカジュアルでもない、でも確かに“ちゃんとしている”——そんな矛盾を成立させる、第三の道。
それは「サードウェーブ」と呼ばれる潮流の中でも、単なるファッションの流行ではなく、“生き方”にフォーカスしたプロダクト思想として際立っている。
第3章:形が語る哲学 ― デザイン、素材、そして機能の選択
1章と2章では、サードスーツがどのような思想と設計のもとで生まれたのかを見てきた。
では、サードスーツは具体的にどんな特徴やスペックを備えたスーツなのだろうか?
素材や機能性、サイズ感、そしてその裏側にあるつくり手の仕事にまで目を向けながら、そのディテールに迫ってみよう。
絶妙なバランスのデザイン
サードスーツを一目見て、“普通のスーツとは何かが違う”と感じる人は少なくないだろう。
だがその「何か」は、声高に主張するのではなく、むしろ静かに寄り添ってくるようなさりげなさで表現されている。
このスーツにおける最大の特徴は、きちんと感と軽やかさの絶妙なバランスを実現していることにある。
たとえば、ジャケットには肩パッドを排したアンコン仕様が採用されており、構築的すぎない柔らかなシルエットが、自然体の印象を与えてくれる。
それでいて、ビジネスシーンにも通用する「整った佇(たたず)まい」はしっかりと保たれている。
上質な機能性素材
サードスーツに使われているのは、ウールのような上質な風合いを持ちながら、実際にはポリエステルを主体とした混紡素材。
その見た目と機能性のバランスの良さこそが、このスーツの核となる。
ストレッチ性・防シワ性・復元性が高い次元で両立されており、「肌に吸いつくような滑らかさ」と「動いても崩れないシルエット」が同時に叶えられている。
とくに優れた弾性回復性(いわゆる“キックバック性”)により、長時間の着用でも着崩れしにくく、ストレスを感じにくい。
さらに、洗濯機で洗えるウォッシャブル仕様、シワになりにくい加工、抗菌・防臭機能など、実用面での配慮も徹底されている。
こうした細やかな設計思想からもわかるように、サードスーツは“誰にでもなんとなく合う”ユニバーサルなスーツとは一線を画す。
むしろこれは、「それぞれの人が“ちょうどいい”と思えるポイントに、そっと合わせてくれる服」である。
サイズ展開とフィット感へのこだわり
サードスーツでは、“着心地や機能性に加えて、“自分に合ったサイズが見つかること”にも力を入れている。
展開されているサイズは、標準体型向けの6サイズ(SS〜3L)に加え、ゆったりとした体型に対応するAB体を3サイズ(ABM〜ABLL)と合計9つのサイズバリエーション。
肩幅、胸囲、袖丈、着丈などの寸法を細かく設定し、標準体型からがっしり体型まで幅広く対応しているのが特徴だ。
特にAB体は、胸囲と胴囲にゆとりを持たせた設計で、「肩や胸が合わない」といった悩みを抱える人にもフィットしやすい。
さらに、ABM・ABL・ABLLの3サイズを用意しており、AB体でM〜LL相当の体型に対応できる点も魅力だ。
この細かなサイズ設計によって、フォーマルな場でも“自分らしく”いられる快適さを実現している。
また、オリヒカ公式オンラインストアでは、「身長」「体重」「年齢」を入力するだけでおすすめサイズを提案してくれる機能も搭載。
初めて購入する人や、スーツ選びに迷いがちな人にもやさしい設計だ。
サイズが合うことは、見た目の印象だけでなく、スーツのシルエットや機能性を最大限に引き出す要素でもある。
サードスーツは、「ちょうどいい着心地」だけでなく、「ちょうどいいサイズ」まで、しっかりと提案してくれるのだ。
精緻な縫製が生む“ちょうどよさ”
サードスーツの「ちょうどよさ」は、見えない部分の作り込みにも宿っている。
そのひとつが、一般的なスーツと比べてはるかに多いジャケット226工程・パンツ106工程にも及ぶ、丁寧な縫製プロセスだ。


- 生地選定
- 数百種の生地から、肌ざわりと見た目のギャップにこだわって1枚を選び抜く。別注生地を製作することもあるという。
- スポンジング
- スチームで生地を一度リセットし、輸送中の歪みやクセを整える工程。仕立て前の必須ステップだ。
- 裁断
- 柄合わせや方向性にも配慮しながら、1パーツごとに正確にカット。完成後の見映えに直結する繊細な作業。
- 仮縫い
- 平面の布を服の立体へと変える最初の組み立て。芯地やダーツ、補強パーツなどもここで施される。
- 中間プレス
- 襟、肩、袖などの曲線に沿って立体感を与える重要工程。熟練者の手による重量アイロンで仕上げる。
- 縫製
- 特に袖付けでは、「いせ込み(布をほんの少し寄せて丸みを出す、スーツらしい立体感を作る伝統技法)」を駆使し、見た目の美しさと可動性の両立を図る。
- 最終アイロン
- 形になったスーツをさらに美しく整える最終仕上げ。ツヤやクセを残さず、完成度を高めていく。
- 検品
- 色柄、芯地、縫製、強度など複数段階でチェック。品質が確認されたものだけが商品化される。
こうした膨大な手間と工程の積み重ねこそが、サードスーツに特有の「ちょうどよさ」と、着る人の一日に寄り添う静かな信頼感を生み出している。
一着に込められた“ちょうどよさ”の設計思想
ここまで見てきたように、サードスーツは、見た目のデザイン、素材の快適性、機能の実用性、そしてサイズのフィット感と、どれか一つに偏ることなく、すべての要素を「ちょうどよく」整えてくれる。

そしてその“ちょうどよさ”を陰で支えているのが、職人たちによる緻密な縫製工程に他ならない。
カジュアルとフォーマルの境界をなめらかにまたぐだけでなく、「着る人の身体に無理なくなじむ」ことまで考え抜かれたこのスーツは、単なる機能性の産物ではなく、“装いを整える”という文化の継承でもあるのだ。
第4章:顧客の声と選ばれる理由
「買って終わり」ではない、「選ばれ続ける理由」
ここまで、サードスーツの設計思想やその時代背景、そしてディテールに込められた工夫を見てきた。
しかし、どれだけ高尚な理念が込められ、高い機能性が備わっていたとしても、着る人からの支持がなければ、服は本物にはなり得ない。
この章では、サードスーツを実際に購入・着用している人たちの、ネット上の口コミやレビューをもとに、どのような点が評価されているのかを読み解いていく。

俯瞰的に分析すると、4つの評価ポイントが浮かび上がってくる。
評価ポイント① 着心地と動きやすさへの満足感
レビューで最も多く見られるのは、「とにかく楽なのに、ちゃんとして見える」という声。
ストレッチ性や軽さ、肩回りのストレスのなさは、日々の動作のなかで“違い”を実感させてくれる要素となるようだ。

パッドなしでもシルエット崩れないことに感嘆の声すら上がる。
また、肩や腕の可動域の広さの評価が高く、開発側の細かな設計思想が伝わっている証拠とも言える。
評価ポイント② 洗えることの安心感
ウォッシャブル仕様は、見た目以上に日常生活におけるハードルを下げてくれる。
「クリーニング不要」「出張先でも簡単に洗える」といった声が多く見られ、手軽にケアできることがいかに現代のニーズに応えているかがわかる。

洗濯後、翌朝には着用可能なほど乾きが早く、それでいて型崩れもしない。
職業柄、勤務が不規則な人にとって、心強い存在となっているようだ。
さらに、防シワ性との相乗効果でメンテナンスが簡便であり、手間をかけずに快適な着用を維持できる点が、現代のライフスタイルに適応した魅力として評価されている。
評価ポイント③ 多様なスタイルに合う「ほどよさ」
カジュアルすぎず、フォーマルすぎない——この“中庸感”が、利用シーンの幅を広げている。
「会議からそのままカフェ作業でも違和感ない」「週末にちょっとした外出にも着ていける」などの声があり、特定のTPOに縛られず、「結局いつもこれを選んでしまう」というファン層が厚いのも特徴だ。
評価ポイント④ 価格の手ごろさとコストのよさ
サードスーツは、他の紳士服量販店と比べても価格が抑えられており、上下セットで2~3万円程度と非常に手ごろだ。
そのため、特に若年層や学生から「手が届きやすい」との支持を集めている。
「価格の割に高見えする」というのも一つのポイントだろう。

さらに、着回しが効くため、ON/OFFを問わず多様なシーンでヘビーローテーションされることが多く、自然と使用頻度が高まる。
その結果、「手頃なのにしっかり使える」「いい買い物した」といったコストパフォーマンスへの高評価に結びついているようだ。
まとめ:「ちょうどいい」の積み重ね
着心地と動きやすさ、洗えることへの安心感、多様なスタイルに合う「ほどよさ」、価格の手ごろさとコスパのよさ。
ここまではユーザーの実際の評価を追ってきた。

それぞれが“最高”である必要はないけれど、全部が「ちゃんと及第点以上」であること。
そこにこそ、リピーターが増え続けている理由があるだろう。
第5章:シリーズごとの違いと活用シーン
多様なニーズに応える設計思想と、シリーズごとの役割
ここでサードスーツのスタイル・バリエーションについても触れておこう。
サードスーツには、明確なシリーズ区分があるのだ(2024年4月時点)。
それぞれのシリーズは、異なるライフスタイルや働き方を想定して設計されており、“どこでも、誰でも同じ”という従来のスーツの考え方から脱却している点に特徴がある。
TRIXION シリーズ
高機能 × ベーシックな安心感
ナチュラルな風合いと高いストレッチ性を両立。
防シワ性にも優れており、出張や長時間の着用を前提とした“実用性”が際立つ。
職場での信頼感と、日常の快適さを両立させたいビジネスパーソンに適している。
- 朝から晩まで予定が詰まった外勤の日
- 長時間の移動を伴う出張や出先での商談
- リモート会議とオフィス勤務を行き来するハイブリッドワークスタイル
DENIM シリーズ
動ける × 崩しすぎない
デニム調の素材感が印象的なこのシリーズは、スーツにおける“こなれ感”を体現。
高いストレッチ性と、シティライフに合ったカジュアルさが特長で、自転車通勤やオフタイムとのつながりを意識したライフスタイルに適している。
- 通勤途中に気軽に寄り道したくなる日
- 在宅勤務からそのままカフェに移動して作業するスタイル
- ビジネスカジュアル指定の社内イベント
CHECK シリーズ
伝統 × 機能性のハイブリッド
英国調のチェック柄というクラシカルな要素に、ジャージー素材による柔軟性と快適さを加味。
フォーマルな場にも対応しつつ、堅すぎない知的な印象を持つ。
- 重要な会議やプレゼンテーションなど、“決めたい日”
- きちんと感を求められる社外対応の日
- 程よい緊張感を保ちたい打ち合わせや会食
DOBBY シリーズ
上質感 × ラフさの融合
ドビー織りによる控えめな光沢と独特の質感が、やや上品な佇(たたず)まいを演出。
展示会やイベントなど、“少し華やかさが求められる場面”にも対応可能。
同時に、オフにも使える柔らかさを備える。
- 展示会やセミナーなど、人前に出るシーン
- 金曜日の「カジュアルフライデー」スタイル
- 休日の街歩きや、ちょっと背筋を伸ばしたい日常のひととき
一人ひとりに最適化された装いへ
どのシリーズも共通しているのは、“見た目の印象”と“動きやすさ・快適性”のバランスを、使用者の状況に応じて最適化している点である。
そこには、「スーツはこうあるべき」という固定観念を脱し、よりパーソナルで、多様なライフスタイルに即した装いを提案する思想が貫かれている。
第6章:サードスーツが照らす、これからの装い
― 王道から一歩外れた“ちょうどいい未来”
オリヒカはこれまで、シャープで信頼感のある王道スーツを展開し、ビジネスパーソンの第一印象を支えてきた。
一方で、サードスーツはその延長線上にはない、“もうひとつの答え”を提示するラインである。
ネクタイの有無、働く場所、時間の概念──変化が当たり前になった今、「正しさ」よりも「自分らしさ」に寄り添う装いが求められている。

サードスーツは、スーツを「こうあるべきもの」から、「こうあっていいもの」へと変えるプロダクトだ。
それは、“着る人の生き方”にそっと調和する、新しいスタンダードである。
だがこのスーツは、まだ完成された存在ではないのかもしれない。
変わり続ける私たちの働き方や暮らし方に合わせて、これからも形を変えていくからだ。
だからこそ、サードスーツはただの選択肢ではない。
それは、「いまの自分」と「これからの自分」をつなぐ、静かな装いの提案である。
スーツは、何かを“装う”ための服から、何かを“受け入れる”服へと変わろうとしている。
サードスーツが問いかけているのは、「何を着るか」ではなく、「どう生きたいか」なのかもしれない。