コクヨ ing  “疲れない椅子” なぜレビューで評判なのか?

コクヨ ing
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脳の活性化を促す「ウォーキング・ミーティング」

「ウォーキング・ミーティング」という会議スタイルを耳にしたことはあるだろうか?

文字通り歩きながら会議をすることだが、室内で座って会議をするより、健康的なことはもちろん、創造的な思考を促し、活発な議論にもなるという。

さらに参加者全員が前を向いて歩くことになるため、テーブル越しに対面で会議をするより、フラットな関係で意見を交わすことになるそうだ。

Appleの故スティーブ・ジョブズやメタ(旧Facebook)のマーク・ザッカーバーグオバマ元米大統領など、著名な経営者や政治家が「ウォーキング・ミーティング」を盛んに実践していたという(コクヨ公式サイト2020.5.12)

「ウォーキング・ミーティング」で議論が活発になる理由には、歩行中に特定の脳内物質が分泌され、脳がリラックス状態になることがある。

すると、脳の実行機能、すなわち仕事への集中予想外の出来事に対処する機能が円滑に働くようになるらしい(ハーバード・ビジネス・レビュー 2015.11.20)

それゆえ、頭の中が整理されたり、思いがけないアイデアがひらめいたりするようになるのだ。

座っていも身体の動きを止めない

実はこの「ウォーキング・ミーティング」を開いたときのような、脳を活性化させる効果が期待できるオフィスチェアーがある。

それがコクヨから発売されている「ing(イング)」だ。

座っていても身体の動きを止めない椅子との触れ込みで脳の活性化も促すという。

この「ing」の最大の特徴は椅子の座面が360°自由にグライディングすることにある。

グライディングとは英語の「glide」から来ていて、ロングマンの英英辞典によれば「move smoothly and quietly, as if without effort(なんら力を使うことなくスムーズに静かに動く)」の意。

日本語訳は「滑るように動く」とある。

ちょうど鳥が翼を動かすことなく自由に空を、それこそ滑るように滑空するイメージがグライディングだ。

気流に乗って飛行するグライダーをイメージしてもいい。

バランスボール コクヨ ing

この自由にグライディングする「ing」は、前傾、後傾、左右のひねりまで、座っているときの上半身のどんな動きにも座面が追随してくる。

ちょうどバランスボールに座っている感覚といえる。

実は、この常に座面が動くことが、上半身の負荷を軽減する上で重要らしい。

身体が常に揺れ動くことで、一つには体圧が一点に集中してかかり続けることがなく、バランスよく分散されるようになる。

そうしてもう一つ、背骨を自然なS字形状に保つ助けにもなるのだ。

コクヨの公式サイトによれば、人の背骨は立っているときには自然で負荷の少ないS字形状となる。

その一方で、前傾姿勢のPCワークなどで椅子に長時間座っていると、この背骨のS字形状が崩れてアーチ状になる。

このことが腰や椎間板の大きな負荷となるのだ。

しかし、「ing」なら、身体の動きに合わせて適度に座面が揺れ動き、動いた後は工芸品によくある「起き上がりこぼし」のように揺り戻しがある。

そのため、背骨のS字形状が自然に保たれるという。

起き上がりこぼし

コクヨのニュースリリース(2017.11.6)には、「ing」に座っているだけでも筋肉が活動するとある。

従来品の椅子に比べて8割の人の肩の筋肉、5割の人の腰の筋肉が活動することが確認されている。

また、「ing」で揺れながらデスクワークを4時間すると、ウォーキング約1.5kmに相当し、その消費カロリーはおにぎり約1/2個(約85kcal)分だという。

脳の活性化も促す

脳の活性化 脳波

そしてここが冒頭の「ウォーキング・ミーティング」の効果につながるのだが、「ing」には脳を活性化させる効果がある。

「ing」で60分揺れることで、7割の人の脳のα波、6割の人のβ波が増加したという。

α波は安静(リラックス)した状態に、β波は能動的で活発な思考や集中にそれぞれ関係する。

「ing」が脳のリラックスや集中の一助となり、創造的で有用なアイデアの発想数が13%アップすることも実験で確かめられている。

参加者全員が「ing」に座って会議を行うことで、脳が活性化し、活発に議論し合う様子が目に浮かぶようだ。

こうした従来の椅子にはない画期的な「ing」の機能が人々の耳目を集めたのだろう。

長時間座っていても快適にデスクワークができる椅子として反響を呼び、累計販売脚数は2017年の発売以来、3万脚を超えた。

コクヨもその売行きに十分な手ごたえを感じているようだ。

価格は10万円弱と決して安くはないが、企業が購入する以外にも、個人が自宅のテレワーク用に購入するケースも多いという。

「座るを解放する」オフィスチェア

解放 海辺で解放感に浸る女性

この「ing」のコンセプトが「座るを解放する」である。

「ing」の最大の特徴である、座面が身体に追随するグライディング機能にフォーカスするかと思いきや、「ing」は「解決すべき問題(イシュー)とは何か?」に矛先を向けたようだ。

「座るを解放する」のコンセプトはコクヨ公式オンラインショップなどの一部でキャッチコピー風にも使われてはいる。

ただし、あまり目立つことはない。

基本はおそらく、「座るを解放する」のコンセプトは商品開発や情報発信の道しるべとなる関係者内の表現なのだろう。

「解放」の対極の概念は「束縛」だ。

つまり、「座るを解放する」こととは、従来の椅子では「座る」という行為が人々から自由を奪っていたという意味にもなる。

「安楽椅子」という言い方もあるように、椅子にはゆったりとリラックスして座るイメージがあるが、実はそれは全く当たらない。

「ing」以前の従来の椅子は人々を束縛していたのだと、このコンセプトは言外にほのめかしているのだ。

HILLS LIFE Dailyの2019年7月19日付の記事によれば、「ing」の開発者たちは、座ることは決して「悪」ではないが、座ることで「同じ姿勢を取り続けること」が深刻な問題だと考えたという。

人の身体は動くために設計されているのだ。

そこで「できるだけ身体を動かせる椅子を作ろう」と思い立ち、「自然に座面が動いて身体に追随する椅子=360°グライディングチェア」にたどり着いたという。

たとえ座っていても、人の身体から動く自由を奪うことはない。

「ing」とはそんな解放を目指した椅子だったのである。

「座るを解放する」は、もっとプリミティブ(原始的)に言えば、「静」から「動」への転換だろう。

それゆえ、ブランド名が進行形を意味する「ing」なのだ。これほど明快な価値の反転をうたうコンセプトはこの世の中、そうそうあるものではない。

価値の反転が伴う、これまでの常識をひっくり返すような商品はそれだけで人の注意を惹き、強い印象を残す。

オフィスチェアーを含め、オフィス家具の市場では、岡村製作所、イトーキ、内田洋行などが名を連ね、しのぎを削っている。

オフィス家具という差別化が容易ではないジャンルにあって、コクヨはこの座っていても身体の動きを止めない「ing」で独自路線を打ち出したのだ。

家庭用の「ingLIFE」も登場

「ing」は2021年末に、自宅でも使うことを想定した「ingLIFE(イングライフ)」を発売している。

在宅ワークが広がるなか、機を見るに敏なライン拡張といえよう。

「ingLIFE」はオフィス向けの「ing」の基本のフォルムはとどめつつも、優しい色合い木の温もりも感じさせるデザインで、生活シーンにも違和感なく溶け込む。

サイズは全体的に「ing」より小ぶりだが、座面の幅はゆったりと自由な姿勢で座れるよう、むしろ従来の「ing」より大きめという。

「ingLIFE」のコンセプトは「Multi Objective Chair(マルチオブジェクティブチェアー)」

あえて日本語にするなら多目的な椅子という意味になる。

在宅ワークはもとより、勉強や食事、ゲームなど自宅でのさまざまなシーンに対応できることに焦点を当てたコンセプトだ。

公式サイトでは、ダイニングに「ingLIFE」を2脚置き、1脚は在宅ワーク用に、もう1脚はダイニングで勉強する子ども用に使うシーンを紹介している。

仕事をしながら子どもの「リビング学習」を見守る格好だ。

体重に合わせて動きが調整されるため、大人にも子どもにも適している点にもさりげなく光を当てている。

「座りすぎ大国」に投じた一石

「座りすぎ大国」と言われる日本。

日本人が平日に椅子に座る時間の中央値は7時間にも達し、世界の主要20カ国との比較で「日本人の座位時間が最も長い」という調査結果もあるという。

そこに「座るを解放する」というコンセプトで一石を投じたのが「ing」だ。

コクヨも座る行為にまつわる問題を解決するためにイノベーションを起こしたと自負する。

おそらくは、全く同じグライディングという技術ではないにせよ、競争相手たちがその発想を受け継ぎ、同じ問題を解決しようと追随するに違いない。

この開発競争は大きなうねりになる得るだろう。

当たり前を疑うことから生まれた一つの転換が、人類をまた一歩進歩させる。

そんな光景をいずれ私たちが目撃できることを期待したい。

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