「独立」への欲求 人間の欲求16種類(2)

「独立」への欲求 16の基本的欲求
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人は誰しもが生まれつき16の基本的欲求を持つ。

そして、それらの欲求は日常の何気ない判断や意思決定にも影響を与えている。

その16のうちの1つ、「独立」への欲求は人に頼らず自力でやりたいと望むこと。

歩き始めの子どもが親の手をつなぎたがらないのもその表れだ。

「動物に巣立ちと独り立ちを促す本能」に由来する欲求だという。

人は本来、1人では生きていけない。本質的に「独立」への欲求を満たすのは難しい。

しかし、目を凝らせば、「独立」への欲求をほんの少し刺激し、購買行動を引き出しているブランドは数多い。

ブランドに「独立」への欲求の代理満足機能を担わせられるか? 

マーケターの工夫や仕掛け次第だろう。

目次

16の基本的欲求

本ブログでは以前の記事に人は誰しもが生まれつき16の基本的欲求を持っていると書いた。

米国の心理学者、スティーブン・リース氏による「本当に欲しいものを知りなさい―究極の自分探しができる16の欲求プロフィール」(角川書店、2006年)で詳述されている説だ。

日常の何気ない判断や意思決定も実はこれら16の欲求と無関係ではない。

消費者のブランド選択もしかりである。

その16の基本的欲求は以下の通りとなる。

  • 力(power):他人を支配したいという欲求
  • 独立(independence):人に頼らず自力でやりたいという欲求
  • 好奇心(curiosity):知識を得たいという欲求
  • 承認(acceptance):人に認められたいという欲求
  • 秩序(order):ものごとをきちんとしたいという欲求
  • 貯蔵(saving):ものを集めたいという欲求
  • 誇り(honor):人としての誇りを求める欲求
  • 理想(idealism):社会正義を追求したいという欲求
  • 交流(social contact):人と触れあいたいという欲求
  • 家族(family):自分の子供を育てたいという欲求
  • 地位(status):名声を得たいという欲求
  • 競争(vengeance):競争したい、仕返ししたいという欲求
  • ロマンス(romance):セックスや美しいものを求める欲求
  • 食(eating):ものを食べたいという欲求
  • 運動(physical exercise):体を動かしたいという欲求
  • 安心(tranquility):心穏やかでいたいという欲求

「独立」への欲求とは?

今回の記事では、16の基本的欲求のうち、「独立(independence):人に頼らず自力でやりたいという欲求」に光を当ててみたい。

この欲求がどう消費者の選択行動や購買行動に影響を与えているのだろうか? 

その欲求の強さによって、選ばれるブランドは変わるのだろうか?

そして、マーケターたちは消費者が持つ「独立」への欲求を自らのマーケティング施策に、どう生かしてきたのだろうか?

前出の「本当に欲しいものを知りなさい」には「独立」への欲求のキーワードには以下のようなものがあるという。

「独立」への欲求のキーワード

独立心、自主性、自由意志、自立精神、独立独行、自分が頼り、我が道を行く、独自性

また、個人が「独立」への欲求を強く持つのか否かを測る心理テストの尺度も紹介しておこう。

おぼろげながらこの欲求を強く持つ人の人物像も掴めるだろう。

「独立」への欲求を測る心理尺度

次の文のうち、一つでもほぼ当てはまるものがあれば、「独立」への欲求は「とても重要である」

  1. 他人の助言や指導には、たいてい反発を感じる
  2. なんでも自力でやらなければ、満たされた幸せな気分にはなれない

次の文のうち、一つでもほぼ当てはまるものがあれば、「独立」への欲求は「それほど重要ではない」

  1. 同世代の人にくらべて、パートナーや仲間にとても献身的だ
  2. 人に頼らず自力で生きていくのはいやだと思う

「独立」への欲求を満足させるのは?

「独立」のそもそもの意味は広辞苑には「それだけの力で立っていること」、大辞泉には「他のものから離れて別になっていること」とある。

人の場合なら「(他人の力に頼らず)自分の足で1人立つ」という孤高のイメージだろう。

その1人立ちすくむ姿から様々な意味が派生する。

たとえば大辞泉には「他からの束縛や支配を受けないで、自分の意志で行動すること。」「自分の力で生計を営むこと。また、自分で事業を営むこと。」とある。

このあたりの意味合いなら誰もが思いつく。

ほかには「植民地などが、主権を獲得して新たに独立国となること。」(大辞林)といった意味もあるようだ。

人は本来、1人では生きていけないことは十分認識しつつ、人に頼らず自力でふるまいたいという欲求が打ち消せないのも事実だ。

歩き始めの子どもが独立心を発揮し、親と手を繋ぎたがらない。

思春期にさしかかると親の干渉をひどく嫌う。

やがて子どもが成人期に達し、親元から離れて暮らすようになる。

歩き始め

前出の「本当に欲しいものを知りなさい」には、「独立」への欲求の起源は「動物に巣立ちと独り立ちを促す本能」とある。

ご多分に漏れず、人にもこの本能がしっかり宿っているのだろう。

そして、この「独立」への欲求が強い人たちといえば、今の時代、真っ先に思い浮かぶのは新進気鋭の起業家たちだろう。

起業家

「ゼロ」から「イチ」の発想で事業を起ち上げ、果敢に社会課題の解決と稼ぐ力の両立に挑む。

もちろん、そうした起業家たちも結局はAIやITに長けた若き異才たちを集めて協力を仰ぎ、投資家たちの支援にも頼る。

相互依存的な関係にどっぷりと浸かるのだ。

しかし、従来の企業の枠を超え、リスクをとってまで事業を起ち上げる覚悟を決めたのだ。

旺盛な独立心に背中を押されていたに違いない。

もっと身近な「独立」への欲求を満たす働き方といえば、世界的にも増えているギグワーカーの存在がある。

ギグワーカーとはネットを通して単発・短期の仕事を請け負う労働者のこと。

日本ならウーバーイーツや出前館の配達員をイメージするといい。

他には個人の技能を売買するスキルシェアサービスで収入を得る人もその類(たぐい)だ。

配達員 ギグワーカー

このあまり聞きなれない「ギグ」の言い回しはライブハウスなどに居合わせたミュージシャンが一度限りのセッションを行う「ギグ(gig)」に由来している。

社会保障の面では課題も多いが、仕事量や勤務時間、勤務場所を自分の意思で決められることに魅力を感じている人も多いという(カオナビ 2023.6.26)

「独立」への欲求から購買行動を引き出す

「独立」への欲求を満たすには、どんな行動をとるにせよ、自分の裁量で決められることが重要だ。

いくら人に頼らず自力で成し遂げられたとしても、自分の裁量ではなく他者の指示に従ってそうしているなら、「独立」への欲求を満たしているという実感は乏しいだろう。

結局はその他者にコントロールされていることに変わりはないからだ。

心理学に「オリジン・ポーン理論」というのがある(モチベーションの心理学)

「オリジン」とはチェスの指し手のことをいい、「ポーン」チェスのコマのことをいう。

チェスの指し手

人は通常、チェスの指し手のように、自ら主体的に行動したほうが気分がいい。

モチベーションも上がる。

コマのように他者から動かされるのは好まないものだ。

「独立」への欲求が強い人は特にそうだろう。

あくまで自分がチェスの指し手になってコマを動かそうする。

このときの「指し手感覚」が幸福感や充実感に直結する。

一方で、自分がコマとなって指し手に操られる、すなわち「コマ感覚」はできるだけ遠ざけたいのだ。

実際、マーケターが「独立」への欲求を刺激し、購買行動を引き出そうとするとき、鍵となるのはこの「指し手感覚」だろう。

消費者が特定のブランドを購入し使い続けたぐらいで、「相互依存」から「独立」へと生活そのものを一変させられるとは考えにくい。

しかし、消費者の想像力を駆り立て、自分は「指し手側にいるんだ」という感覚を疑似体験させるだけなら、ブランドの得意とするところだろう。

一種の「代理満足」の機能をブランドに担わせるのだ。

「16の基本的欲求」の記事にも書いたが、マーケターが「独立」への欲求をブランディングに生かすとすれば、「独立」への欲求が比較的に強い人たちをターゲットセグメントとして想定するのが王道となる。

その「独立」への欲求から発生しやすいニーズを推察し、そのニーズに応えるべくブランドのベネフィットやパーソナリティ(ブランド固有の人格的個性)を設計していく。

そして、どう「指し手感覚」を疑似体験させるしくみを盛り込み、消費者の心をくすぐるのか? 

マーケターの腕の見せどころはそこにある。

「独立」への欲求を狙ったブランド

ではここから、マーケターが「独立」への欲求に狙いを定めていると思われるブランドをいくつか挙げてみよう。

まずは商品のスペックやサービスのしくみが「独立」への欲求と好相性の例を挙げることとする。

(想像の世界だけではなく)消費者の裁量の範囲を広げることや、行動の自由度を高めることに実際に役立つブランドだ。

みてねみまもりGPS

その筆頭がミクシィ(MIXI)の「みてねみまもりGPS」である。

家族向け写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」のブランドから出ているサービスの一つ。

子どもに小型・軽量のGPS端末を持たせるだけで、親はいつでもスマホアプリで子どもの位置情報が確認できる。

小学校では携帯電話の持ち込みが禁止されていることも多いなか、GPSに特化した軽量の端末であれば子どもに安心して持たせられる。

また、もしもの時に助けを呼んだり、親に迎えに来て欲しい時や日々の待ち合わせにも使える「お知らせボタン」も搭載されている。

同ブランドの公式サイト(2023.8時点)には以下のようにある。

ずっとつないできた我が子の手を、少しの間、離す瞬間が訪れました。

人生において必要なことだと分かってはいても、ちょっとさみしく、ちょっと心配。

みてねみまもりGPSは、そんな皆さまを優しく見守ります。

小学生ともなると、親に見張られずに外で歩いたり、遊んだりしたいこともあるはずだ。

親としては独立心が芽生えた我が子を尊重したいとは思いつつ、ちゃんと帰ってくるのかまだまだ心配でもある。

「みてねみまもりGPS」はそんな親子をやさしく見守り、子どもと親の双方が「独立」への欲求を満たすのを後押しするのだ。

米国で生まれた言葉に「ヘリコプターペアレント」というのがある(ベネッセ教育情報 2023.2.20)

ヘリコプターがホバリングするように子どもを見張り、子どものやることに必要以上に関わり続ける親のことをいう。

「みてねみまもりGPS」なら、そんな過干渉に陥るまえに、ある程度子どもの単独行動を許容し、安心を担保した上で、子どもが「独立」への欲求を満たす状況がつくり出すサービスなのだ。

ライフリー うす型軽快パンツ

では次に大人用の紙おむつに目を向けてみよう。

「独立」への欲求に訴え、購買行動を引き出そうとしているブランドがあるのだ。

ユニ・チャームの「ライフリー うす型軽快パンツ」である。

同社の公式サイト(2023.8時点)には、「スルっとはけて、ピタっとフィットでモレ安心」「下着のように快適なはき心地」が特徴のパンツ型大人用紙おむつとある。

“穿きやすさ”から“脱ぎやすさ”まで一連の動作がスムーズに行えるように設計されているのだという。

とりわけ「紙パンツから足を抜く工程」に注目し、軽い力でも両脇が破きやすいような工夫がされている。

俳優の菊池桃子さんを起用したテレビCMは高齢の利用者がまさに「独立」への欲求を満たそうとする瞬間を描く。

母親が自分で紙パンツを引き上げようとすると、菊池桃子さん扮する娘がすかさず「手伝おうか?」と声をかける。

ところが母親はあっさりと自分で引き上げしまう。

「あら、私でもスルっとはけちゃった」ととても満足げだ。満面の笑みが輝く。

そのようすを目の当たりにした娘は「自分ではけたらこんなに嬉しいんだ」と改めて気づくことになる。

高齢になったとはいえ、「独立」への欲求は健在だったのだ。

CMの映像では「自分でできるを増やそう」のナレーション、さらに「できるはふやせる、ひとつずつ」のコピーが入る。

ライブ配信アプリ「Pococha」

ここでもう一つ、ライブ配信アプリの例を挙げてみよう。DeNA が運営する「Pococha(ポコチャ)」だ。

「Pococha」は自らの歌唱や演奏などのパフォーマンスをライブで配信できるサービス。

公式サイトによれば、特別な準備・道具は必要なく、スマートフォン1つで自由に配信できるという。

しかも配信も視聴もともに無料だ。

テレビCMでは一貫して「自分らしく、自由に」を訴える。

サービス自体が「独立」への欲求をくすぐる建付けなのだ。

ニコニコ生放送」や「ツイキャス」など今は同様のアプリはいくつもある。

それでも「Pococha」が独自の存在感を放つのは、ライブ配信を行う「ライバー」たちのすそ野が広く、著名人やインフルエンサーでもなくても誰でも気軽に「ライバー」になれることがあるからだ。

「Pococha」は「Live for Everyone」「Live is Standard」をビジョンとし、誰にとってもライブ配信がごく身近なものとなる世界を目指しているという(PR TIMES 2021.5.18)

シンプルな配信時間による報酬など初心者でもライブ配信を通して報酬が得られるしくみが整っており、そのことが配信を続けるモチベーションにもなっている。

そして誰もが思い思いの形で「独立」への欲求を満たし、充実感につなげているのだ。

「独立」への欲求と商品カテゴリー

ここからは日本経済新聞社の業種分類をベースに、どんな商品カテゴリーなら「独立」への欲求をより満たしやすいのかを考えてみよう。

この業種分類は日本経済新聞社が提供する日本最大級の経済データサービス「日経NEEDS」で使われている業種分類で、以下に示すのは大分類と中分類である。

その下位の小分類にはより具体的な商品カテゴリーが来る。

赤字は後述するが「独立」への欲求と比較的相性がよいと思われるカテゴリーだ。

日経NEEDSの業種分類
  • 資源・エネルギー
    • 鉱業・エネルギー開発/電力・ガス
  • 素材
    • 紡績・繊維/製紙・紙製品/化学・化成品/ゴム・ゴム製品/窯業・土石製品/製鉄・金属製品/産業用資材
  • 機械・エレクトロニクス
    • 産業用装置・重電設備/製造用機械・電気機械/業務用機械器具/情報機器・通信機器/総合電機/家庭用電気機器/半導体・電子部品
  • 輸送機器
    • 自動車/自動車部品/造船/輸送用機械
  • 食品
    • 食品製造/飲料・たばこ・嗜好品
  • 生活
    • 衣料品・服飾品/日用品・生活用品/趣味・娯楽用品
  • 医療医薬・バイオ
    • バイオ・医薬品関連/医療・ヘルスケア・介護
  • 建設・不動産
    • 建設・土木/建設資材・設備/不動産・住宅
  • 商社・卸売
    • 総合商社/繊維・化学・製紙卸/建材・電気機械・金属卸/医薬品・医療品卸/食品卸/生活関連用品卸
  • 小売
    • 総合小売・食料品小売/衣料品・服飾品小売/専門店・ドラッグストア/家電小売/自動車小売/通信販売
  • 外食・飲食サービス
    • 飲食店/弁当・デリバリー
  • 金融
    • 銀行/証券/保険/消費者・事業者金融/リース・レンタル/投資/不動産投資信託/取引所・証券代行
  • 物流・運輸
    • 倉庫・物流/陸運/海運/空運
  • 情報・通信・広告
    • マスメディア/通信サービス/広告/コンテンツ制作・配信/インターネットサイト運営/システム・ソフトウエア
  • サービス
    • レジャー・レジャー施設/生活関連サービス/教育/人材紹介・人材派遣/企業向け専門サービス/旅行・ホテル

自動車

まずは「輸送機器」「自動車」がある。

二輪車も含め、独立心をくすぐる装置としては申し分ないだろう。

自動車カテゴリーの数々のテレビCMでは颯爽と駆け抜ける孤高のドライバーを映し出し、「独立」への欲求を射抜こうとしている。

たとえばSUBARUの「レガシィ アウトバック」のテレビCMはまさにその典型だ。

「自然体の自分でいられる、心も体も満ち足りる それは、よりよく生きる為の選択」のコピーが綴られる。

また、マツダも「Be a driver.」をタグラインとして使う。

直訳すると「ドライバーになろう」だが、このドライバーにはもう一つ「世の中にドライブをかけていく者」という意味があるらしい(沖縄マツダ 2023.8時点)

それぞれの道を、それぞれの人生を、応援したい。」とのマツダのクルマづくりへの理念を言い当てたタグラインなのだ(マツダ公式サイト 2023.8時点)

情報機器・通信機器

「機械・エレクトロニクス」「情報機器・通信機器」も「独立」への欲求を満たすには極めて有望だ。

ここにはスマートフォンやPCなどが含まれる。

もともと人の能力を拡張し、人の裁量や自由度を高めるデバイスが目白押しのカテゴリーである。

そして昨今、注目されるのが場所を選ばないスマートな働き方の実現だ。

たとえばレノボ・ジャパン「ハイブリッドワーク時代の働き方」を提唱している。

リモートワーク

同社の公式サイト(2023.8時点)によれば、ハイブリッドワークを「同じ企業や部署の中でも業務特性や個人の状況に応じて、それぞれに適した働き方を従業員一人ひとりが能動的に選んで仕事ができる働き方」と定義しているという。

レノボが発売する高い機能性を備えたノートPCはそんな働き方の柔軟性を実現する強力なツールとなるのだ。

同社の公式サイトやテレビCMでも「働き方を自由にしよう」と盛んに訴えている。

不動産・住宅

「建設・不動産」の「不動産・住宅」にも「独立」への欲求をくすぐる訴求を続けているカテゴリーがある。

「戸建て住宅」のカテゴリーだ。

その中でも比較的安価な建売住宅ではなく、間取りや設備、外観などが自由に選べる注文住宅のブランドが「自由設計」をうたい「独立」への欲求を狙い撃ちする。

その欲求をくすぐってブランドの存在に気づかせ、潜在顧客の脳裏にイメージを刻もうと、注文住宅を主力とする住宅メーカーがしのぎを削っているのだ。

医療・ヘルスケア・介護

「医療医薬・バイオ」「医療・ヘルスケア・介護」も、「独立」への欲求を十分に狙えるカテゴリーだろう。

先に触れた「ライフリー うす型軽快パンツ」が掲げる「自分でできるを増やそう」「できるはふやせる、ひとつずつ」の広告コピーがまさにそうだ。

医療ケアを必要とする人や要介護者などが少しでも自立できるように後押しする。

「独立」への欲求を満たす喜びを感じてもらい、QOL(Quality of life/生活の質)の向上に貢献したい。

「医療・ヘルスケア・介護」のカテゴリーにはそう声高に訴えるブランドは少なくない。

コンテンツ制作・配信/インターネットサイト運営

「情報・通信・広告」の「コンテンツ制作・配信」や「インターネットサイト運営」も「独立」への欲求を引き出す要素をふんだんに備えたカテゴリーといってよい。

「コンテンツ制作・配信」にはオンラインゲームや音楽・映像配信、「インターネットサイト運営」にはネット通販」やSNSサイトなどのカテゴリーがある。

オフラインに比べ、オンライン上では自分の趣味嗜好に従って選択できる範囲がずっと広く、「独立」への欲求を満たす機会がいたるところにある。

サブスクリプション(継続課金)型サービスで利用するならなおのことそうだろう。

たとえば音楽配信の「スポティファイ(Spotify)」は数千万以上の音楽やコンテンツが揃っている。

ドライブ、エクササイズ、パーティタイムやリラックスタイムなど、その時の気分に合った音楽やポッドキャストをワンタップで楽しめる(スポティファイ公式サイト 2023.8時点)

すべて自分の裁量で選択できるのだ。

有料プレミアムプランのCMでも「音楽もポッドキャストも自由自在」とのコピーで、その自由度や裁量の高さが強調されている。

ネット通販ならAmazonのテレビCMのコピーも同様の路線だろう。

「思いのまま」と題したCMで流れるのは以下のコピーだ。

家から会社 会社から家へ

どんな時だって自分の好きなことをしていたい

欲しいもの 聞きたいもの

見たいもの 毎日にどんどんあふれてく。

好きなこと 私のペースで

いつだって自分らしく

教育

「サービス」「教育」のカテゴリーに目を転じよう。

「独立」への欲求を刺激し、その存在を潜在顧客たちの頭の中に焼き付けようと目論むブランドがある。

「屋久島おおぞら高等学校」だ。

公式サイト(2023.8時点)によれば、おおぞら高校は「広域通信制・単位制」の高校で、既存の学校の枠に収まりきらない、個性豊かな生徒を含め、年齢にかかわらず幅広い人々が学んでいるという。

校長は脳科学者の茂木健一郎氏だ。

「自宅学習型」「通学型」の2つの学習スタイルが選べ、「通学型」を希望する場合は全国にある通学キャンパス(通信制高校サポート校)で学ぶことになる。

また、同校は「なりたい大人になる」をテーマに掲げている。

自らを「自分の『好き』を増やし、つなげ、カタチにしていくことで、一人ひとりのペースでなりたい大人を思い描き、その未来へ向かっていくことができるステップ」だと位置づけている(公式サイト 2023.8時点)

ちなみに大分類の「サービス」には「教育」以外にも「レジャー・レジャー施設」「旅行・ホテル」などもある。

いずれも非日常を体験できるカテゴリーであり、マーケターの仕掛け方次第では「独立」への欲求を満たす疑似体験の機会創出も十分可能だろう。

趣味・娯楽用品

「生活」の「趣味・娯楽用品」にはスポーツ用品やウエアやシューズなどスポーツ関連のカテゴリーが含まれる。

勝敗や記録、チームワークにこだわると難しくなるが、非日常を体験するといった文脈であれば「独立」への欲求は十分に充足できるだろう。

たとえばアディダスのラニングシューズ。

公式サイト(2023.8時点)を覗くと「ランニングには、自由しかない。」のコピーが掲げられている。

そこには「プレッシャーや期待から解放された自由な時間。自分に合ったギアのサポートを手にして、走り続けよう。」との意味が込められている。

ランニングにはゴールポストも、ラインも、スコアもいらない。『走りたい』だけ、あればいい」のだという。

衣料品・服飾品

「生活」「衣料品・服飾品」も「独立」への欲求と相性はいい。

アパレルや服飾雑貨、宝飾品など「装う」という行為は個性や自分らしさを発揮する手段となるからだ。

フランス人デザイナーのココ・シャネルが窮屈なコルセットから女性を解放したといった逸話は有名だ。

ファッションの世界なら固定観念や常識に風穴を開けることは比較的容易で、「自由」や「解放」をコンセプトに掲げたブランドが多くある。

その例の1つがストッキングで知られるアツギの主力ブランド「アスティーグ」だ。

「アスティーグ」はプレーンストッキングのブランドで、女性の脚を美しく見せる多彩なラインナップを特徴としている。

そして、以前ならマナーや制服感覚ではいていたストッキングを、美意識やファッション性で「はきたい」アイテムとしていち早く感じさせたのも「アスティーグ」である。

その「アスティーグ」が掲げたブランドコンセプトが「はきかえよう、自由を。」。

そこには以下の意味を込めたという。

常識を脱ごう。

しばりつけるものは、もういらない。

はきたいときに、はきたいものを、誰もが選べる。

いつはいてもいい、どんなスタイルに合わせてもいい。

ストッキングは、あなたのひとつの可能性。

さあ、自由をはきかえよう。

飲料・たばこ・嗜好品

「食品」の「飲料・たばこ・嗜好品」も「独立」への欲求は射程範囲だろう。

ここには清涼飲料やアルコール飲料が含まれるが、個性的なブランドも多く、束の間の消費時間に非日常の世界へトリップする気分が味わえる。

そこに「独立」への欲求を刺激する要素を織り込むのは難しくない。

とりわけアルコール飲料となれば、ほろ酔い気分も手伝って自由や解放感を疑似体験させるのは難しくないだろう。

「独立」への欲求を狙い撃ちするブランドはいくつもあるが、例を一つ挙げるなら「サッポロ生ビール 黒ラベル」がある。

「大人エレベーター」のテレビCMシリーズで知られるサッポロビールの主力ブランドだ。

「黒ラベル」は「大人たちが自分らしいビールを選ぶ喜び」「大人の自分を表現できる喜び」を提供することをブランドの使命と考えている。

そのブランドメッセージは「丸くなるな、星になれ。」

人が持つ「独立」への欲求を直撃しているといってよい。

「独立」への欲求をマーケティングに生かす

今回の記事では16の基本的欲求のうち、「独立(independence):人に頼らず自力でやりたいという欲求」を取り上げた。

記事の冒頭でも触れたが、人は本来、1人では生きていけないことは十分認識しつつ、人に頼らず自力でふるまいたいという欲求が打ち消せないのも事実である。

この心の葛藤がマーケターが狙うべきポイントとなる。

少しでも葛藤を解消すべくブランドに何らかの仕掛けを施すのだ。

ブランドが持つ商品スペックやサービスのしくみのうち、「独立」への欲求とうまく折り合う要素を探し、その要素をテコに、「独立」への欲求の代理満足が叶うブランドコンセプトを用意するのである。

幸福感や充実感が味わえる束の間のトリップだ。

ブランド独自の情緒的価値の創出にも大きく貢献するだろう。

本記事の最後に、以前の「ブランドパーソナリティの作り方」の記事でも触れたが、「独立」への欲求が強い人その真逆の弱い人がお互いをどう評価しているかを紹介しておこう。

自社ブランドが「独立」への欲求に傾倒すると、その欲求が比較的強い人たちには魅力的に映り、顧客になってもらえる可能性は高まる。

しかし、一方で、「独立」への欲求が弱い人からは敬遠されるかもしれない。

相容れないものを感じるのだ。

そんな層からは自社ブランドがどう映るのか、そのヒントが得られるだろう。

ブランドの潜在的なリスクとして認識しておいたいほうがいい。

顧客層の拡大などの課題がブランドに浮上し、「独立」への欲求が弱い人がターゲットとして想定することもあり得るからだ。

くわしくは「ブランドパーソナリティ」の記事をお読みいただきたい。

「独立」への欲求以外の15の欲求についても、プラス評価、マイナス評価を一覧で記載している。

独立:人に頼らず自力でやりたいという欲求
  • 独立したいという欲求が強い/自立心が強い人
    • 自分への評価(自分はこんな風に見られたい)
      • 独立独行、自主的、自由人
    • 真逆な人への評価(自分からは相手がこんな風に見える)
      • 未熟、弱虫
  • 独立したいという欲求が弱い/相互依存的な人
    • 自分への評価(自分はこんな風に見られたい)
      • 愛情深い、愛を必要としている、人を疑わない、献身的、優しい
    • 真逆な人への評価(自分からは相手がこんな風に見える)
      • 妥協しない、頑固、思い上がっている
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