今回は『おかしい』を文脈に応じて品よく言い換える方法を整理する。
目次
1.『おかしい』——万能だが抽象に傾きやすい説明語
『おかしい』という一語に頼りすぎると、「説明の厚み」が削がれ、どこが問題なのかが曖昧になり、評価の具体性や説得力が弱まってしまう。
“同じ言葉への依存”が浮かび上がる用例を確認してみたい。
口ぐせで使われがちな例
- 会議の進行が予定通りでなく、全体の流れがおかしいと感じました。
- 彼の説明、筋が通ってないよ。ちょっとおかしいと思わない?
- 契約交渉の条件が業界標準から外れていて、どう考えてもおかしいと思われます。
- 提出された資料の数値が前章と食い違い、内容がおかしいと指摘されました。
- 期限対応の手順が規定に沿っておらず、処理がおかしいと判断されました。
並べてみると、“おかしい”という定番に寄りかかり、表現の奥行きが薄れていたことが見えてくる。
次章で文脈ごとの品位ある言い換えを紹介する。
2.『おかしい』を品よく言い換える表現集
ここからは『おかしい』を7つのニュアンスに整理し、文脈ごとの適切な言い換えを提示する。
2-1. 論理・整合性の問題
- 矛盾している
- 複数の要素が互いに食い違い、論理的に成立しないことを示す基本表現。
- 例:報告書の数値が前章と矛盾しているため、再計算を要します。
- 複数の要素が互いに食い違い、論理的に成立しないことを示す基本表現。
- 筋が通らない
- 論理展開や説明が自然に結びつかない場合に使う口語寄りの表現。
- 例:提案内容を精査すると筋が通らない点がある。
- 論理展開や説明が自然に結びつかない場合に使う口語寄りの表現。
- 整合性を欠いている
- 全体の論理や構造に統一性がない場合に用いる硬質な表現。
- 例:提出された報告書は数値と根拠が食い違い、内容が整合性を欠いていた。
- 全体の論理や構造に統一性がない場合に用いる硬質な表現。
2-2. 妥当性・適切性への疑問
- 適切ではない
- 判断や行為が基準に合致していないことを明確に指摘する表現。
- 例:顧客情報の扱い方が適切ではないと判断された。
- 判断や行為が基準に合致していないことを明確に指摘する表現。
- 疑問が残る
- 断定を避けつつ、納得できない点があることを示す婉曲的な表現。
- 例:新方針の説明は理解できたが、実効性には疑問が残る。
- 断定を避けつつ、納得できない点があることを示す婉曲的な表現。
- 再考を要する
- 建設的で前向きな問題提起。判断そのものへの疑問を示す。
- 例:この計画のスケジュールは現実的でなく、再考を要する状況にある。
- 建設的で前向きな問題提起。判断そのものへの疑問を示す。
2-3. 客観的異常
- 通常と異なる
- 標準的な状態から外れていることをやわらかく指摘する表現。
- 例:システムの応答速度が通常と異なるため、技術部門が調査中です。
- 標準的な状態から外れていることをやわらかく指摘する表現。
- 異常がある/異常値
- 明確に問題があることを示す強い表現。業務報告や技術文書で頻用される。
- 例:検査結果に異常値が確認されたため、再評価が必要です。
- 明確に問題があることを示す強い表現。業務報告や技術文書で頻用される。
- 想定外だ
- 予測から大きく外れた結果を示す現代的で頻出の表現。
- 例:新制度への反応が想定外だったため、導入時期を再検討することになった。
- 予測から大きく外れた結果を示す現代的で頻出の表現。
- 齟齬(そご)がある
- データや認識に食い違いがある場合に用いる硬質な表現。
- 例:契約条件の解釈に齟齬があったため、再確認を行うことになった。
- データや認識に食い違いがある場合に用いる硬質な表現。
- 特異な
- 中立的で専門的な表現。異常性を強調せず客観的事実として提示。
- 例:このデータパターンは過去に例のない特異な特徴を示しています。
- 中立的で専門的な表現。異常性を強調せず客観的事実として提示。
2-4. 理解困難・不可解
- 腑に落ちない
- 説明や理屈が感覚的に納得できない場合の自然な口語表現。
- 例:データの分析結果には腑に落ちない点がある。
- 説明や理屈が感覚的に納得できない場合の自然な口語表現。
- 理解に苦しむ
- 説明や根拠が不足し、納得が難しい場合に用いる丁寧な表現。
- 例:委員会の結論には理解に苦しむ点が多くあった。
- 説明や根拠が不足し、納得が難しい場合に用いる丁寧な表現。
- 不可解だ
- 状況や事象が説明不能であることを示す硬質な表現。
- 例:契約条件の変更理由が示されず、判断過程が不可解だとの指摘があった。
- 状況や事象が説明不能であることを示す硬質な表現。
2-5. 基準・慣例からの逸脱
- 一般的ではない
- 慣習や常識から外れていることをやわらかく指摘する表現。
- 例:この対応は通常の運用から外れており、一般的とはいえない。
- 慣習や常識から外れていることをやわらかく指摘する表現。
- 規定に反している
- 明文化されたルールや制度に違反していることを示す硬質な表現。
- 例:提出方法が社内規程に沿わず、規定に反していると判断された。
- 明文化されたルールや制度に違反していることを示す硬質な表現。
- 前例がない
- 過去に事例がなく、慣習から外れていることを示す表現。
- 例:この取り組みは業界内でも前例がなかった。
- 過去に事例がなく、慣習から外れていることを示す表現。
2-6. ユーモア・社交
- 面白い
- 最も一般的な「おかしい」の言い換え。軽い場面や日常的な評価に適す。
- 例:新しい企画の発想は非常に面白いと評判です。
- 最も一般的な「おかしい」の言い換え。軽い場面や日常的な評価に適す。
- ユーモラスだ
- 笑いを誘う「おかしい」を上品に言い換える表現。社交的な場面で自然。
- 例:彼の比喩表現はユーモラスだと好評だった。
- 笑いを誘う「おかしい」を上品に言い換える表現。社交的な場面で自然。
- 興味深い
- 知的で好奇心を刺激する表現。社交的評価に適す。
- 例:彼の発言は興味深い示唆を含み、参加者の関心を引いた。
- 知的で好奇心を刺激する表現。社交的評価に適す。
2-7. 建設的提案
- 改善の余地がある
- 問題を直接指摘せず、前向きな修正可能性を示す柔らかい表現。
- 例:新しい業務フローには効率化の観点から改善の余地がある。
- 問題を直接指摘せず、前向きな修正可能性を示す柔らかい表現。
3.まとめ:『おかしい』を品よく言い換え、説得力を高める
『おかしい』という一語に頼りすぎれば、説明の厚みが削がれ、評価の具体性が曖昧になる。
文脈に応じて品位ある言い換えを選べば、意図が鮮明になり、理解の広がりが自然に生まれる。
適切な表現が説得力を補い、説明の奥行きを編み上げていくことを改めて心に留めたい。

