「leave」という英単語、意味は知っているのに、文脈によって迷う——そんな経験はないだろうか。
「去る」「残す」「任せる」「辞める」など、訳語は多岐にわたり、場面によって意味が大きく変化する。
その多義性ゆえに、使い分けが直感的に捉えづらく、誤解やニュアンスの取り違えが起こりやすい。
ときに空間を離れ、ときに物を残し、ときに責任を委ねる——「leave」は、物理・心理・制度の領域をまたいで機能する、極めて柔軟かつ繊細な動詞である。
本稿では、「何かを後に残して去る」という原義に由来する“残して去る”というコアイメージを出発点に、「leave」が持つ意味の広がりと類義語との違いを体系的に整理する。
0.今回のテーマは「leave」
【意味】
- (場所・人・物を)去る、離れる
- (物・人・状況を)残す、置いていく
- (任務・判断などを)委ねる、任せる
- (状態・結果などを)そのままにしておく
- (仕事・学校などを)辞める、退職する
「leave」は、日常会話からビジネス、法律、感情表現まで、極めて広範な文脈で登場する基本動詞である。
「去る」「残す」「任せる」「辞める」など、日本語訳は多岐にわたり、文脈によって意味が大きく変化する。

しかもそれらの意味は、方向性が逆であるかのように見える——「去る」と「残す」は、動作のベクトルが正反対だからだ。
しかし、英語の「leave」が持つ意味の広がりは、単なる対義語の混在ではなく、「残して去る」という一貫したコアイメージに根ざしている。
たとえば:
- leave the room(部屋を去る)
- leave your bag here(カバンをここに置いていく)
- leave it to me(それは私に任せて)
- leave the door open(ドアを開けたままにしておく)
- leave the company(会社を辞める)
これらは一見バラバラに見えるが、いずれも「(場所や状態を)残して去る」ことで、空間的・心理的・制度的な変化を生じさせるという共通の構造を持っている。
本稿では、「leave」の中心にある“何かを残して去る”という原義を起点に、意味の広がりと類義語との違いを体系的に整理する。
辞書的な意味の暗記ではなく、英語の“状況感覚”として「leave」を理解することを目指す。
1.なぜ「leave」は難しい?多義性の3つの理由
「leave」が難解に感じられる理由は、主に以下の3点に集約される。
① 意味の幅が広く、文脈によって訳語が大きく変化する
たとえば以下のような用例がある:
- leave the room(部屋を去る)
- leave your bag here(カバンをここに置いていく)
- leave it to me(それは私に任せて)
- leave the door open(ドアを開けたままにしておく)
- leave the company(会社を辞める)
- leave someone alone(誰かをそっとしておく)
これらは一見すると無関係に見えるが、いずれも「(場所や状態を)残して去る」ことで、空間的・心理的・制度的な変化を生じさせるという共通の構造を持っている。
つまり、「leave」は物理的な移動から心理的な距離、制度的な離脱まで、幅広い意味領域をカバーしており、文脈によって訳語が大きく変化する。
なお、日本語では「去る」「残す」「任せる」「辞める」など、訳語が多岐にわたるが、それぞれの意味が逆方向に見えるため、理解が混乱しやすい。
② 空間・心理・制度的な意味が混在している
「leave」は、日常会話からビジネス、法律、感情表現まで、非常に多様な分野で使われる。
- 空間的には「その場を離れる」
- 心理的には「干渉しない」「任せる」
- 制度的には「退職する」「権限を委ねる」
このように、具体的な動作から抽象的な判断、制度的な手続きまで、意味のスケールが極端に広いため、単語の印象が定まらず、使い分けが難しくなる。
たとえば:
- leave the meeting early(会議を早退する)=空間的離脱
- leave the decision to her(判断を彼女に任せる)=心理的委任
- leave the company(会社を辞める)=制度的離脱
いずれも「leave」だが、意味の領域がまったく異なる。
③ 類義語との違いが直感的に捉えづらい
「abandon」「quit」「let」「remain」「stay」など、似たような文脈で使われる単語との違いが明確でないため、誤用が起こりやすい。
たとえば:
- abandon:意図的に見捨てるニュアンスが強く、責任放棄を含む
- quit:制度的に辞めることに焦点があり、継続性の断絶を示す
- let:許容・容認の意味が中心で、能動的な手放しとは異なる
- remain:主語が「残る」ことに焦点があり、「leave」とは視点が逆
- stay:その場にとどまることを意味し、「leave」とは動作の有無が対照的
このように、「leave」は意味の広がりが大きく、文脈によってニュアンスが激しく変化するため、辞書的な理解だけでは不十分である。
次章では、「leave」のコアイメージ——“残して去る”=「去る・残す・委ねる」——について詳しく解説する。
2.コアイメージは「“後に残して去る”感覚」。語源から読み解く
「何かをその場に“残して”、自分はそこから“去る”」=「置いていく」「残して離れる」「委ねて離れる」

語源は古英語 lǣfan(残す、許す)に由来し、さらにゲルマン祖語 laibijan(残す)へと遡る。
この語根は「laibō(残り、遺産)」とも関連し、現代英語の「leave」は「何かを後に残して去る」という動作の二面性を核に、多義的な意味へと広がっている。
もともとは「物をその場に残す」「人を自由にする」といった物理的・心理的な動作を指していたが、現代英語ではこのイメージが抽象化され、「去る」「残す」「任せる」「辞める」「放置する」など、さまざまな文脈で機能する動詞となっている。


この「残して去る」感覚は、単なる移動や放置ではなく、対象との関係性を変化させることで、空間的な距離・心理的な自由・制度的な委任を生み出す。
つまり「leave」は、何かを“後に残す”ことで状況に変化を与える動詞なのだ。
たとえば:
- leave the room(部屋を去る)=自分の存在を空間から“離す”
- leave your bag here(カバンをここに置いていく)=物をその場に“残す”
- leave it to me(それは私に任せて)=判断や責任を“委ねる”
- leave the door open(ドアを開けたままにしておく)=状態を“そのままにする”
- leave the company(会社を辞める)=制度的な所属を“断つ”
これらは一見バラバラに見えるが、いずれも「何かを残して自分は去る」という構造を持っており、空間・責任・制度・心理のいずれかに変化を生じさせる。
なお、「leave」は動詞だけでなく名詞としても使われる。
たとえば:
- on leave(休暇中)=職務から一時的に“離れている”状態
- maternity leave(産休)=制度的に“離脱”を許された期間
いずれも「残して去る/距離を置く」というコアイメージに根ざしており、名詞形でもその多義性は健在である。
日本語では「去る」「残す」「任せる」「辞める」など、文脈によって訳語が大きく変化するが、英語の「leave」はそれらを一つの「何かを後に残して去る」感覚で統合している。
この「残して去る」感覚を押さえることで、「leave」が持つ多義的な意味の広がりを、辞書的な暗記ではなく、状況のリアリティとして直感的に理解することが可能となる。
次章では、このコアイメージをもとに、文脈ごとの具体的な用法を整理していく。
3.コアイメージから広がる多義的な用法
「leave」が持つ「残して去る/距離を置く」という原義は、現代英語において「去る・残す・委ねる・放置する・辞める」といった多義的な意味へと進化している。
この「残して去る」感覚は、物理的な移動だけでなく、心理的な距離の確保や制度的な離脱、責任の委任など、文脈に応じて多様な意味を生み出している。
以下の表は、その代表的な用法を整理したものである。
用法カテゴリ | 例文 | コアイメージとのつながり |
---|---|---|
空間的に去る | leave the room | 自分の存在をその場から“離して”後に残す |
物を残す | leave your bag here | 所有物を“残して”その場に置いていく |
判断・責任を委ねる | leave it to me | 意思決定を“委ねて”自分は離れる |
状態をそのままにする | leave the door open | 状態を“維持したまま”その場を離れる |
制度的に辞める | leave the company | 所属を“断ち切って”制度から離脱する |
干渉せず放っておく | leave someone alone | 関与を“控えて”心理的な距離を置く |
このように、「leave」は単なる「去る」や「残す」ではなく、「何かをその場に残したまま離れる」ことで、空間・責任・制度・心理のいずれかに変化を生じさせる動詞として機能する。
以下では、日常・ビジネス・制度・心理文脈に分けて、具体的な使用例を確認していく。
日常文脈での「leave」使用例
① 空間的に去る
- I’ll leave now before it gets dark.
- 暗くなる前に出発するよ。
- =自分の存在をその場から“離して”、空間に変化を生じさせる。
- 暗くなる前に出発するよ。
② 物を残す
- You can leave your coat here.
- コートはここに置いておいていいよ。
- =所有物をその場に“残して”、自分はその場を離れる。
- コートはここに置いておいていいよ。
③ 状態をそのままにする
- Leave the window open while you’re airing the room.
- 部屋の換気中は窓を開けたままにしておいて。
- =状態を“維持したまま”その場を離れる。
- 部屋の換気中は窓を開けたままにしておいて。
ビジネス文脈での「leave」使用例
① 制度的に辞める
- She decided to leave the company last month.
- 彼女は先月会社を辞める決断をした。
- =制度的な所属を“離れて”、新たな方向へ移る行為。
- 彼女は先月会社を辞める決断をした。
② 判断・責任を委ねる
- Let’s leave the final decision to the client.
- 最終判断はクライアントに任せましょう。
- =意思決定を“委ねて”、自分は判断の場から退く。
- 最終判断はクライアントに任せましょう。
③ 一時的に離れる
- He is currently on leave for personal reasons.
- 彼は私的な理由で現在休職中です。
- =職務から一時的に“距離を置き”、責任を一時的に他者に委ねている状態。
- 彼は私的な理由で現在休職中です。
制度・心理文脈での「leave」使用例
① 干渉せず放っておく
- Just leave him alone for a while.
- しばらく彼をそっとしておいて。
- =関与を控え、“距離を置く”ことで心理的な余白を与える。
- しばらく彼をそっとしておいて。
② 遺言・遺産を残す
- He left everything to his daughter.
- 彼はすべてを娘に遺した。
- =所有物や意思を“託して”、自分はその管理から離れる。
- 彼はすべてを娘に遺した。
③ 結果を残す
- The accident left a deep scar in his memory.
- その事故は彼の記憶に深い傷を残した。
- =出来事が“去った後も”影響を残し続けている。
- その事故は彼の記憶に深い傷を残した。
このように、「leave」は物理的な移動だけでなく、心理的・制度的・社会的な“距離の確保”や“委任”“残存”を表す動詞である。
日本語では「去る」「残す」「任せる」「辞める」などと訳されるが、英語の「leave」はそれらを一つの「何かを残して去る」感覚で統合している。
この「残して去る」感覚を理解することで、「leave」が持つ多義的な意味の広がりを、文脈に応じて自然に使い分けることが可能となる。
次章では、こうした意味の広がりを踏まえたうえで、「abandon」「quit」「let」「remain」「stay」などの類義語との違いを明確にしていく。
4.類義語との違いを徹底比較
「leave」は「去る」「残す」「任せる」「辞める」などと訳されることが多いが、同じような文脈で使われる abandon、quit、let、remain、stay などとはニュアンスが異なる。
以下の表は、それぞれのコアイメージと違いを整理したものである。
単語 | コアイメージ | 違いのポイント |
---|---|---|
abandon | 見捨てる、放棄する | 意図的な放棄や責任放棄を含み、感情的・否定的ニュアンスが強い |
quit | 制度的に辞める | 継続的な活動からの離脱に焦点。意志的で制度的な断絶を示す |
let | 許す、許容する | 能動的に残して離れるのではなく、受動的に「許す」ニュアンスが中心 |
remain | 残る | 主語が「残る」ことに焦点。「leave」は主語が「去る」視点 |
stay | とどまる | 動作の有無と意志の違い。「leave」は動き、「stay」は静止 |
leave | 残して去る | 空間・責任・制度・心理の境界を“残して離れる”ことで変化を生む |
ここから、類義語との違いを英文と和訳のセットで紹介する。文脈ごとのニュアンスの違いを直感的に理解してほしい。
① leave vs abandon:意図と責任の有無
- I abandoned the project halfway through.
- 途中でプロジェクトを放棄した。
- =責任を放棄した否定的なニュアンス。
- 途中でプロジェクトを放棄した。
- I left the project in capable hands.
- プロジェクトは信頼できる人に任せて離れた。
- =責任を“委ねて”自分はその場を離れる行為。
- プロジェクトは信頼できる人に任せて離れた。
▶︎「abandon」は放棄、「leave」は委任——責任の所在と感情の違いが明確。
② leave vs quit:制度的な離脱と継続性の違い
- She quit her job last week.
- 彼女は先週仕事を辞めた。
- =制度的な所属からの断絶。
- 彼女は先週仕事を辞めた。
- She left the company to pursue her own business.
- 彼女は起業のために会社を離れた。
- =目的を伴って所属を“離れる”移行的な行為。
- 彼女は起業のために会社を離れた。
▶︎「quit」は断絶、「leave」は移行——制度的な背景と意志の方向性が異なる。
③ leave vs let:能動的な手放しと受動的な許容
- He let the kids play outside.
- 彼は子どもたちが外で遊ぶのを許した。
- =許容・容認のニュアンス。
- 彼は子どもたちが外で遊ぶのを許した。
- He left the kids outside while he made a call.
- 電話中、子どもたちを外に残しておいた。
- =子どもたちをその場に“残して”、自分は離れた。
- 電話中、子どもたちを外に残しておいた。
▶︎「let」は許可、「leave」は残す——行為の主導性と意図が異なる。
④ leave vs remain:主語の視点と残存の焦点
- She remained in the room after everyone left.
- 皆が去った後も彼女は部屋に残っていた。
- =主語が「残る」ことに焦点。
- Everyone else left the room, but she remained.
- 他の人は部屋を去ったが、彼女はとどまった。
- =「leave」は去る側、「remain」は残る側。
- 他の人は部屋を去ったが、彼女はとどまった。
▶︎視点の違いが意味を分ける——「leave」は離脱、「remain」は滞在。
⑤ leave vs stay:動作の有無と意志の違い
- I stayed at home all day.
- 一日中家にいた。
- =静止・継続の意志。
- 一日中家にいた。
- I left home early in the morning.
- 朝早く家を出た。
- =自分の存在をその場から“移動させる”行為。
- 朝早く家を出た。
▶︎「stay」はとどまる、「leave」は動く——行動の有無と意志の方向性が対照的。
このように、同じ「去る」「残す」「任せる」と訳される単語でも、英語では「放棄」「制度的離脱」「許容」「残存」「静止」など、細かなニュアンスの違いが存在する。
「leave」はその中でも、「何かを残して自分は去る」ことで空間・責任・制度・心理に変化を生じさせる、抽象的かつ柔軟な動詞である。
次章では、こうした違いを踏まえたうえで、実践的な使い方を確認していく。
5.実践:文脈で使い分ける
以下の文の空欄に、適切な語句(leave / abandon / quit / let / remain / stay)を入れてみよう。
文脈に応じたニュアンスの違いを意識することで、単語の選択精度が高まる。
- I decided to ___ the company to start my own business.
- (自分のビジネスを始めるために会社を辞めることにした)
- 答え:leave ※制度的な所属を“離れて”、新たな目的へと移行する行為。
- She ___ her job without notice.
- (彼女は予告なしに仕事を辞めた)
- 答え:quit ※制度的な断絶。継続性を断ち切る意志。(leftも可だが、より中立的な語であり、突然さや断絶のニュアンスは弱め)
- He ___ the dog tied to a tree and walked away.
- (彼は犬を木に繋いだまま放置して立ち去った)
- 答え:abandoned ※責任を放棄した否定的なニュアンス。
- Please ___ me finish this on my own.
- (これを自分で終わらせるのを許してほしい)
- 答え:let ※許容・容認のニュアンス。能動的な手放しではない。
- She ___ in the room long after the meeting ended.
- (会議が終わった後も彼女は部屋に残っていた)
- 答え:remained ※主語が“残る”ことに焦点。静的な状態。
- I decided to ___ at home instead of going out.
- (外出せずに家にいることにした)
- 答え:stay ※動作を起こさず“とどまる”意志。
- He ___ the door open while he went to get the mail.
- (彼は郵便を取りに行く間、ドアを開けたままにしておいた)
- 答え:left ※状態を“そのまま残して”、自分はその場を離れる。
このように、同じ「去る」「残す」「任せる」「辞める」と訳される行為であっても、文脈によって選ぶべき単語は異なる。
- leave:空間・責任・制度・心理の境界を“残して去る”抽象的な動詞
- abandon:責任放棄を伴う“見捨てる”行為
- quit:制度的な所属からの“断絶”
- let:受動的な“許容”
- remain:主語が“残る”ことに焦点
- stay:その場に“とどまる”意志を示す
それぞれのコアイメージを把握することで、場面に応じた語の選択がより的確に行えるようになる。
次章では、これまでの整理を踏まえ、「leave」という語が持つ多義性の理解が実践にどう活かされるかを総括する。
6.まとめ:「leave」は“残して去る”感覚でとらえる
「leave」は、空間・責任・制度・心理などの関係性において、何かを“残して去る”ことで状況に変化を与える動詞である。
単に「去る」「残す」にとどまらず、「任せる」「放置する」「辞める」「そのままにしておく」といった意味まで、文脈に応じて多様なニュアンスを生み出す。
その根底には、「何かを後に残して、自分はそこから離れる」という構造がある。
類義語と比べても、「leave」は物理・抽象・制度・心理の領域を横断し、距離・責任・意志・状態の変化を表現できる点で独自性が際立つ。
重要なのは、語義を暗記することではなく、「何を残しているのか」「何から離れているのか」を場面ごとにイメージすること。
それが、「leave」を実感を伴って使いこなすための第一歩となる。